失われた12年、“ワクチン後進国”と称された日本
(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の森内浩幸教授)日本には12年間にもおよぶ“ワクチンギャップ”と呼ばれる時期があったことをご存じでしょうか。1989年から麻疹、流行性耳下腺炎(おたふく風邪)、風疹という3つの病気を予防する新三種混合ワクチン(MMRワクチン)の接種が始まりました。しかし、その中に含まれるムンプスワクチンの成分による無菌性髄膜炎が多発し、各地で起きた訴訟で国の敗訴が相次いだことで、MMRワクチンの接種はわずか4年で中止に。その後1995年から2006年の間に日本国内で承認されたワクチンはわずか1つにとどまりました。その間、アメリカで承認されたワクチンは15種。日本は “ワクチン後進国”と称される事態に陥りました。
3月1〜7日の「子ども予防接種週間」を前に、都内で行われたプレスセミナーで講演した長崎大学医学部小児科の森内浩幸先生は「飲料水の浄化を除き、ワクチンほど多くの子どもの病気を防ぎ、命を救ったものはありません」と、ワクチン接種の重要性を強調。現在も根強く残るワクチンに対する誤解や偏見に警鐘を鳴らします。
「昔、『MMRワクチンを接種すると自閉症になる』という論文が発表されました。しかし、この論文は、データの改ざんがあったために取り下げられ、発表した医師も免許をはく奪されました。つまり完全なデマだったのです。にもかかわらず、この考えを信じている人は未だにいます」(森内先生)。一度広まった誤解や偏見は、簡単には消えず、ワクチンによって救えたはずの命があること、回避できたはずの障害に苦しむ患者さんが多くいる現状があると語ります。
過去には数例の副反応によってワクチン接種が中止となり、多数の死亡者を出してしまったケースもあります。「百日咳という病気のワクチンはわずか2例の死亡例によって、1975年、接種中止に追い込まれました。その後、新たなワクチンが登場するまでの3年間で113人もの赤ちゃんが亡くなりました。それまでは、ワクチンのおかげでほぼ0人だったにもかかわらずです」(森内先生)
ゼロではないリスク、だからこそ科学的根拠に基づく判断を
ワクチン接種は、接種した個人を守る効果があるだけではありません。多くの人が接種することで社会全体の感染リスクを低減させる「集団免疫」が期待できるのです。「学童へのインフルエンザワクチンの接種が行われていたころ、高齢者の肺炎・インフルエンザによる死亡は減少傾向にありました。しかし、学童への接種を中止した後、この値は上昇しています。つまり、学童へのワクチン接種が高齢者の感染リスクを少なくしていたのです」と森内先生は語ります。
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確かに、ワクチンの副反応による重篤な障害や死亡例は、ゼロではありません。また、ワクチンを接種したからといって病気にかかるリスクを完全に無くすこともできません。森内先生は、ワクチンを打つリスクと打たないリスクを天秤にかけ、科学的な根拠をもって判断することが大切だといいます。「ワクチンはチャイルドシートのようなもの。チャイルドシートをしていても100%子どもを守れるわけではないですし、もしかしたらチャイルドシートによって怪我をしてしまうこともあるかもしれません。だからといってチャイルドシートを使用しないのですか。ワクチンの有効性を正しく理解していただきたいと思います」(森内先生)
(QLife編集部)
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