人種差別と批判された「ももクロ」の「黒塗りメイク」 米国の学生はどう反応したか?

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2015年03月09日 11:52  弁護士ドットコム

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人気アイドルグループ「ももいろクローバーZ」の「黒塗りメイク」がネットで物議を醸した。きっかけは、フジテレビ系の音楽番組「ミュージックフェア」の収録に参加した「ラッツ&スター」メンバーの佐藤善雄さんが2月12日にツイートした写真だ。そこには、共演した「ももクロ」のメンバーたちが顔を真っ黒に塗って、ポーズを決めた様子が写っていたのだ。


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黒塗りメイクは、黒人音楽に触発されて1970年代後半から音楽活動をしていたラッツ&スター(元シャネルズ)のトレードマークだった。ももクロのメイクもそれを再現しようとしたのだと思われるが、ニューヨークタイムズの田淵広子記者が黒塗りメイクの写真をリツイートしたうえで、「Why Japan needs to have a conversation on racism(これが日本が人種差別について議論すべき理由だ)」とコメントしたことで、ネットで批判の声が広がることになった。(ケイヒル エミ/ノースカロライナ州)



●欧米ではタブーとされている「黒塗りメイク」


そもそも黒塗りメイクは、19世紀から20世紀頭の米国で、黒人に扮した白人によって踊りや音楽、寸劇などを交えて演じられていた「ミンストレル・ショー」に起源がある。黒人をステレオタイプで捉え、嘲笑する人種差別的な内容であったことから、近年では、ミンストレル・ショーや黒塗りメイクは米国をはじめとする欧米諸国でタブーとされている。



そのようなことから、日本のネットユーザーからも「黒人差別だ」と非難する声が高まった。署名サイトでは、テレビ局に放送の見直しを求める動きが起き、約4500人が賛同した。一方で、一部の日本人ユーザーからは「黒人へのリスペクトを表していた」「意図していなかったので、差別ではない」といった擁護の意見もあがっていた。



そんななかフジテレビの対応が注目されたが、3月7日に放送されたミュージックフェアは、番組の内容が変更され、ももクロの黒塗りメイクのシーンがカットされた形で放送された。また、当初は予定されていたラッツ&スターのグループとしての出演シーンもなくなった。



このように日本で議論を呼んだ「黒塗りメイク」騒動だが、米国人にこの問題について話を聞くと、どんな反応が返ってくるのだろうか? また、日本社会への理解の度合いによって、反応が異なるのだろうか? こういった疑問を探るべく、筆者が在籍する米国デューク大学の日本語学部の学生たちに聞いてみた。



●「日本社会は人種差別についての理解が深まっていない」


黒塗りメイクでのパフォーマンスについて、「弁解の余地があると思う」と話すのは、韓国系アメリカ人で日本語副専攻のデューク・キムさんだ。黒塗りメイクについては「わざわざやる必要性のあることではなかった」と批判的な見解を述べつつも、「『無知は言い訳にならない』と言うが、日本社会は閉鎖的だ」と、ももクロのメンバーに同情的な姿勢をみせた。



日系4世で日本語副専攻の阪東ジェイミーさんも、同様の反応だった。黒塗りメイクは「完全に差別的だと思う」と指摘しながらも、「(今回の騒動が)起こった理由はわかる」と話す。ジェイミーさんは過去に3度、日本に長期滞在した経験がある。そのとき、日本社会は同質性が高く、人種差別についての理解が米国ほど深まっていない印象を受けたという。



さらに、日本にはアフリカ系奴隷の歴史がなかったことから、日本人は黒塗りメイクについて「音楽文化やエンタメ文化の一部として捉えてしまいやすいのではないか」と、ジェイミーさんはコメントしている。



●「黒人文化の背景にある歴史も理解すべきだ」


このようにアジアにルーツをもつ学生が、今回の騒動について、ある程度の理解を示す意見を口にした一方で、「当事者」といえるアフリカ系アメリカ人の学生からは、厳しい見解が寄せられた。



アフリカ系アメリカ人で日本語専攻のジャイヤ・パウウェルさんは、前述のデュークさんやジェイミーさんとは対照的に、「日本人は人種差別に疎い」という擁護意見に疑問を呈す。



「日本自身が国際社会に認められるために闘っていたころ、『西洋の国ではないから』という理由で、認められるまでには困難があった。日本人自身も差別を受けた歴史があるからこそ、人種差別とはどのようなものかよく分かっているのではないか」



同じくアフリカ系アメリカ人で、日本語専攻のアレクシス・モートンさんは、日本における「ヒップホップ文化」をあげて、日本社会には黒人文化を「クールだ」とする風潮があるとしつつも、次のように、単純にリスペクトするだけでは不十分だと指摘した。



「もし異文化からなにかを借りたいのなら、その正の側面だけでなく、負の側面も受け入れなければならない。黒人文化に憧れ、リスペクトするのは構わないが、黒人文化の背景にある歴史も理解すべきだ」



●ラッツ&スターは「批判」に無自覚だったのか?


この問題については、日本文化について執筆している米国のライターにも話を聞いた。執筆活動と併行して、米国コルネル大学の博士課程で日本のヒップホップ史を研究しているデクスター・トーマスさんだ。



アフリカ系アメリカ人であるデクスターさんからは「(ももクロと共演するはずだった)ラッツ&スターのメンバーたちはそもそも、黒塗りメイクへの批判に自覚がなかったのか」という指摘を受けた。1970年代半ばから活動しているラッツ&スターが「黒塗りメイクの歴史」について知らなかったとは到底思えない、というのだ。



ミュージックフェアの番組収録をめぐって、ラッツ&スターのメンバーがどう考えていたのかは定かではないが、参考になりそうなインタビュー記事が約20年前の雑誌に掲載されていた。1996年4月発行のカルチャー雑誌『クイック・ジャパン vol.07』。ここに、今回の騒動のきっかけとなるツイートをしたラッツ&スターの佐藤善雄さんの「なぜ黒く塗るのか?」と題したインタビューが載っているのだ。



インタビューの中で、佐藤さんは「黒塗りメイク」を始めたきっかけに触れつつ、「僕らなりに黒人の音楽とか黒人っていう人達にリスペクトする気持ちがあればこそ出来ることで、“狙い”でしようというのとは根本的に違うんですよ」と説明している。そのうえで、差別問題との関係について、アメリカでライブをやったときにも「変に誤解されることはなかった」と述べつつ、次のように語っている。



「ただ、フィッシュボーン(アメリカのミクスチャー・ロック・バンド。メンバーは黒人)が来日した時に、テレビ局で一緒になったことがあるんですよ。彼らは僕らを見た時、凄く怒ってましたね。やっぱり、馬鹿にされていると思ったんじゃないですか。別に殴りかかってくるわけじゃないんだけど、側にいて刺さるような目つきを感じる部分があったから」



このような発言からすると、ラッツ&スターのメンバーが「黒塗りメイク」への批判があることをまったく知らなかったというわけではないようだ。



●「人種差別の存在を否定する意識」が差別を助長する


ももクロの「黒塗りメイク」の写真の存在を広く知らしめたニューヨークタイムズの田淵記者は、冒頭で紹介したように、この写真について「これが日本が人種差別について議論すべき理由だ」とツイートしている。



このコメントを受け、日本に長期滞在した経験のある4人に「日本で人種問題の存在を実感することはあったか」と聞いてみた。



すると、「日本人が外国人を怖がっている印象を受けた」(ジェイミーさん)、「肌や髪をむやみに触られた」(ジャイヤさん、アレクシスさん)、「東京郊外に住んでいたが、週に一度は警察に職質を受けるので、東京中心部に引っ越さざるをえなかった」(デクスターさん)など、さまざまな答えが返ってきた。



インタビューを通じて、筆者の印象に残ったのは「日本では、人種差別は起きていないと考えられている向きがある」(ジャイヤさん、アレクシスさん、デクスターさん)という指摘だ。そのような「差別の存在の否定」こそが「無意識の差別を助長している」というのだ。



日本では「自分たちとは関係がない」と考えている人も多い「人種差別」の問題。しかし、そのような意識が強いがゆえに、いまの日本社会では「人種差別」について真剣に考える機会が失われているといえるのかもしれない。


(弁護士ドットコムニュース)



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  • 黒人差別を無くす会騒動を思い出しましたね ちびくろサンボを葬り 黒人への偏見を助長したあの一家も…
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