「"家族"というテーマは変わってない」『東京残酷警察』『ヘルドライバー』西村喜廣監督が挑む"アクション映画"『虎影』

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2015年06月19日 20:11  おたぽる

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おたぽる

6月20日公開の映画『虎影』西村喜廣監督。

 鮮血のイリュージョン、とにかく綺麗な綺麗な血しぶきを上げる人。それが、西村喜廣監督の第一印象だった。筆者が最初に西村監督の名前を知ったのは、井口昇監督の映画『片腕マシンガール』(2008年/特殊造型監督を担当)の、あの雨のように舞い降る血糊だった。すさまじくも美しく、大量の血糊に魅せられてしまった。そして、自主制作映画『限界人口係数』(1995年)をベースにリブートされたのが、初の単独監督作『東京残酷警察』(2008年)だ。血しぶきに塗れて、人体変容者がごろごろ登場する美術設定や世界観は、その後の西村喜廣監督作品に共通の香りでもある。共同監督として参加した『吸血少女対少女フランケン』(2009年)『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』(2010年)でも血しぶきを上げまくり、我々の期待に応えてくれた。続く『ヘルドライバー』では、西村監督流のゾンビ映画(まさに肉弾戦!)を生み出した。



 そんな特殊メイクと血の魔術師・西村喜廣監督の最新作が、今月20日から公開される忍者映画『虎影』である。俳優・斎藤工を主役に据えた"忍者アクションもの"の本作も、さぞかし激しい作品になっているに違いないと思っていた。ところが、そんな素人の予想はまったく違う方向で裏切られた。なにせ『虎影』は映画倫理委員会(映倫)区分「G(どなたでもご覧になれます)」の作品なのだ。なんでこうなった? そんな疑問を素直に聞くことから、西村喜廣監督のインタビューは始まった。




――本編を観る前に予告編や公式サイトを見て、"むちゃくちゃカッコいいアクション映画"という印象でした。それに、西村監督作品ということで「血しぶきが上がりまくりなんだろうなあ」と想像していたんですが、本編は違ったテイストで、これまでの西村監督の作品を観てきた者としては、正直戸惑いました。



西村喜廣(以下、西村) 冒頭で、(コメディチックに)手裏剣の説明とか始めてたじゃないですか(笑)。だから、『虎影』は"アクション"であり、"コメディ"であり、主人公・虎影の"家族の物語"なんです。



――西村監督の『東京残酷警察』や『ヘルドライバー』と同じ匂いの部分と違うものを提示されて、どぎまぎしたというか。



西村 今までスプラッターやホラーだった部分が、今回は忍者アクションが中心になっているからかもしれません。最初のコンセプトとして、「家族そろって観られるようにレイティングを抑えよう」というのがあったので、なおさら印象が変わったんじゃないですかね。



 でも、今までの作品も"家族の物語"なんですよ。"家族"というテーマは変わってない。今までは「みんなが楽しめる」というよりも、「みんなで観れない」という作品だった(笑)。「『虎影』はみんなが楽しめる映画にしたい」。そういう想いが最初からずっとあったんです。



――確かに、今までも父親と娘、母親と娘という"家族"が、西村監督作品の中心にありますね。



西村 『東京残酷警察』は娘と実の父と育ての父の物語なんだけど、先に「警察が民営化したらどうなる?」っていう話が大きくなっていった。リストカットのCMとか、警察のCMとか、社会的な批判をたくさん盛り込んだものだから、父親と娘の物語の影が薄まっちゃったんですね。



『ヘルドライバー』はすごくヒドいお母さんに育てられた娘がいて、お母さんがゾンビの女王になっちゃった。そのお母さんに自分の心臓を奪われた娘が、心臓を取り返しに行く物語。ゾンビでできた巨大な飛行機の翼の上で、親子が殴り合う。壮大な規模で家族......というか、親子ゲンカをさせたかったんです。



 それで、今回の『虎影』は、家族を助けるために右往左往するお父さんの物語を考えた。



■西村喜廣は、なぜ"家族の物語"を描いてきたのか



――常に"家族の物語"を中心に据えるということですが、その監督のこだわりの源泉はなんでしょうか?



西村 実家というか、自分の親の問題なんじゃないですかね。(盟友の映画監督である)園子温と一緒ですね。子温がお父さんのことをずっと描くのと一緒で、僕の場合は親父がすっごく厳しかったりとか、そういう自分が育ってきた環境のことがあるんじゃないかなと思う。それを踏まえて、自分の家族像だったり、自分はどうしたいかが映画に滲んでるんじゃないかと思うんですよ。



――西村監督の場合、親御さんが厳格だったんですか?



西村 うん。なんというか、結構言いにくいんですけど、親父が厳しくて、母親が虐げられてて、僕は三人兄弟の一番上で、両親の係累はなくて、孤立した家庭の中で育ってきた。『ヘルドライバー』が公開された2011年に東日本大震災が起きて、日本半分がゾンビの世界になるという、映画の設定とかぶっちゃって......。その後、ちょうど『めめめのくらげ』(2013年/監督補として)に参加していた頃におふくろが亡くなったんです。



 いろいろな思いが重なって、次に自分が映画を撮るとしたら、すごく暖かい家族の話を撮りたいと思ったんですよ。今さら、「日本の社会が〜」とか「政治が〜」とか、そういうものは撮りたくなくて、元気になるものを撮りたかったんです。



――本作には、モチーフとして『仮面の忍者 赤影』が出てきますが、それは最初から意識していたんですか?



西村 自分の中から自然と出てくるんですよね。『赤影』は小さい頃にめちゃくちゃ観てて、めちゃくちゃ好きです! 忍者ものを撮るんだったら、『赤影』は外せない。マンガだと、石ノ森章太郎の『変身忍者 嵐』とかがデザインぽくて好きでしたね。



――『赤影』の登場人物、赤影、白影、青影の仲間を思う気持ちとか、深い絆を持つ関係性は、知らないうちに『虎影』の家族の絆にシンクロしてますね。



西村 ねっ、そうだよね。自然とそうなっちゃった。最初から『赤影』をモチーフにしようとは考えてなかった。最初のモチーフは『走れメロス』だったんですよ。でも、全然意識していなかったんだけど、お父さん、お母さん、子供っていう3人家族の位置関係が気づいたら『赤影』になってきたので、もう隠さないでそれは出しちゃおうと思ったんですよ。



――『虎影』では、西村監督が思う家族の理想の姿が描かれているということでしょうか?



西村 理想像っていうか、子供がいたらこうなるし、歳をとったらこうなるだろうし、結婚したけれど、どういう気持ちで年を経ていくんだろう......というのも含めて、「家族ってこういうものだよね」ってことを描いてみようかなと思ったんです。



■「みんなが楽しめる」ために意識したレイティング それでも、にじみ出る個性



――今回、驚いたんですが、血しぶきなどのゴア描写の印象が強い西村監督作品なのに、『虎影』は映倫の審査を通って、レイティングが「G」(どなたでもご覧になれます)というのがすごいですよね。



西村 最初は「PG12」(小学生には助言・指導が必要)を狙っていたんです。撮影してる時も、それ(PG12)は覚悟していて。それで、同時期に実写映画『進撃の巨人』に参加していたので、樋口真嗣監督に"時代劇のレイティング"について相談したんです。「(2012年に樋口監督が共同監督を務めた)『のぼうの城』で、槍で首をはねるシーンがあって、あれだけで『PG12』になりそうだったよ」と聞いていたので。でも、「時代劇はゆるいよ」と言っていて(笑)。「全員日本刀を持っているけど、『あれは歴史的事実だから、しょうがないことだ』って、映倫も思ってるだろう」と教えていただいたんです。



――それで、『虎影』オープニングの盛大な血しぶきも大丈夫だったんですね。



西村 いや、あれはイメージシーンですから(笑)。



――レイティングに関して意識されたということですが、それでも、西村監督テイストのビジュアルも散見されます。たとえば、壺から頭だけが出ている"壺女"とか、強烈なビジュアルですよね。



西村 でも、血は出てないでしょ(笑)。血は出さなかったんだけど、あのビジュアルは一度見てみたかったんです。壺からはみ出した部分はわざわざCGで消してます。



――壺女やラバースーツといった怪しげな雰囲気は、『東京残酷警察』と共通の香りがしますね。そういった部分が西村監督のオリジナルなイメージなのかな、と思いました。



西村 それはあるかもしれない。虎影の家族愛を囲むように、どんどん奇妙なものが出てくるという(笑)。



――レイティングをクリアした上で、西村監督の個性である異形の者たちをしっかりフィルムに映し込んでいるのがすごかったです!



西村 ごまかしごまかしやっても、(自分の色が)こぼれてきちゃってますね。



――ずっとオリジナル作品を作られてますが、次回作もやはりオリジナルになるんでしょうか?



西村 いろいろな枷があったとしても、僕の世界観もオリジナルならばきちんと描けるだろうし、企画はオリジナルでやりたいですね。




 実際、映画『虎影』では、血しぶきはほとんど皆無。激しい忍者アクションで埋め尽くされながらも、そこかしこに西村喜廣監督のオリジナルなビジョンが垣間見える、なんとも贅沢な映画に仕上がっているのだ。ぜひ劇場で西村喜廣ワールドを堪能していただきたい! そして、6月21日(日)はなんと西村喜廣監督×園子温監督のトークイベントも緊急決定。詳細は新宿武蔵野館(http://shinjuku.musashino-k.jp/)で。
(取材・構成/加藤千高)



■映画『虎影』公式サイト
http://www.torakage.com/


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