UIデザインからスマートウォッチの今を考える「UI Crunch #5」

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2015年06月24日 06:20  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

AppleWatchが発売され2カ月ほどがたつ。スマートウォッチの注目度が増す一方で、アプリなどのコンテンツ側にもこの新たな潮流にいち早く乗ることが求められている。中でも“UI(ユーザーインターフェース)”は、時計というスマホに比べとても小さな画面上では非常に“重要となる要素”だ。

この潮流に合わせ6月17日に行われたUIの勉強会・ワークショップである『UI Crunch』では『スマートウォッチUIデザインの今』というテーマで5人のUIのプロによる発表が行われた。今回はそのレポートをお送りし、スマートウォッチのUIについて少し考えてみたいと思う。

渡邊 恵太氏(大学講師)『身体性とインタラクションデザイン』

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まずはじめに登壇されたのが、インターフェース/インタラクションデザインを専門とする大学講師の渡邊 恵太氏だ。渡邊氏は昨年末に出版し、同分野の設計論について記した人気著書『融けるデザイン』の内容から、今後のUIデザインで重要な要素となる“自己帰属感”について語ってくれた。

自己帰属感とは道具が身体の延長上にあるという概念のもと、今操作している対象(道具)の動きが自分の動かしていると認識している動きとの連動性がどの程度あるかといった感覚だ。渡邊氏の言葉を借りれば、この手は他人の“手”ではなく自分の“手”であるという感覚というわけだ。

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例えばiPhoneの画面がヌルヌル動いて気持ちいいというのは、画面そのものが自分の手の動きにかなり高いレベルで連動し動くことで、“自己帰属し体の延長上のように動く”からという理由に基づくのである。

この自己帰属感が高い方が人は自然に感じる。ゆえに自己帰属感が低いことでアプリなどを使わなくなる理由にはなり得るだろう。この自己帰属感を意識してインタラクションをデザインすることがインターフェースのデザインの上では重要な要素になるということだ。

「UI/UXに影響の大きいwatchOS 2の新機能3つ 」堤 修一氏

2人目はフリーランスiOSエンジニアの堤 修一氏だ。

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堤氏は本イベントの直前に行われたWWDC2015内で発表された最新OS『WatchOS 2』について語った。『WatchOS 2』ではユーザー側からはあまり進歩がみられないが、開発者側にとってはかなり大きな進歩を遂げている。

そのなかから堤氏は、UI/UX分野で特に大きく影響のある3つの機能を紹介してくれた。

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1つ目は『Complication』だ。Apple Watchの文字盤画面は、従来は純正機能でしかカスタマイズができなかった。そこに他社製アプリの機能を埋め込むことが可能になるというのがこの『Complication』である。

他社製アプリもグランスで容易にアクセスが可能というのがアップル側の考えだったが、実際に使うとグランスを立ち上げるという一手間がユーザー体験を損なっていた。『Complication』により重要な要素を表示し、すぐにアクセスできることでアプリのユーザー体験は大きく改善されるだろう。

2つ目は『Watch Connectivity』だ。従来はApple WatchからiPhoneへはバックグラウンドでデータ等の送信できたが、その逆はできなかった。それが双方向で可能になるというものである。

これによってApple Watchを立ち上げた瞬間に必要な情報は常にその中にあるいるという状態が可能となる。例えば、従来ではグランスを立ち上げてから情報の同期が行われていたのに対し、グランス内を常時同期された状態にすることが可能になるのだ。

3つ目は『センサーへのアクセス』が可能になったことだ。従来ではApple Watchに内蔵されているマイクや加速度センサーなど各種センサーへのアクセスが他社製アプリにはできなかった。それが今回から可能になるのだ。

堤氏いわく、特に加速度センサーや歩数計は、Apple Watch向けアプリの企画段階で話題に上がることが多かったため、今後のアプリ開発の幅を大きく広げてくれる可能性が高いとのことだ。

「Watch Appから考えるアダプティブデザイン」新谷 和久氏

3人目はリクルートメディアテクノロジーラボに所属し、キュレーションアプリ『KOLA』のクリエイティブディレクション/UIデザインを担当する新谷 和久氏だ。

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新谷氏はiOS/Androidアプリに加え、新たに開発した『KOLA』のApple Watchアプリについて語ってくれた。

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新谷氏は今回このKOLAのAppleWatchアプリをデザインするにあたって『Adaptive Design』という手法に基づきデザインを進めた。Adaptive Designという言葉には様々な解釈があるが、新谷氏は今回“Contents”と“Context”、“Device”に応じたデザインという意味で使っている。

この要素にもとづきApple Watchアプリをデザインすると、通知・グランス・アプリ一覧といった場面に合わせてデザインや表示する要素を使い分け、ユーザーに最適な体験を提供できるというわけだ。

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またAppleWatchという非常に小型な画面のUIデザインを行うことで、必要となる“UIの諸要素が精査”され、結果的にそこからのフィードバックで“スマートフォン側のUI”の向上にも繋がることも重要な点だと新谷氏は語った。

AppleWatchのUIというまだ全くのブルーオーシャンにおいて、“新たなスタンダードを作る”という楽しみについても是非チャレンジすべきとも付け加えた。

「Android Wear」橋本 泰氏

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4人目はUIデザインのリーディングカンパニー『Goodpatch』にAndroid Developerとして所属する橋本 泰氏。Apple Watchばかりが注目を集める中、その1年近く前に発売され“洗練度やコンテンツ力でいえばAppleWatchを凌ぐ”Android Wearについて語った。

まずは現在特に注目度の高い、5月末に行われたGoogle I/Oで発表された4つの新機能について語ってくれた。

アンビエントモードでもマップなどのアプリを起動させておける『always on』。腕を振ることで通知をdoneにできる『wrist gestures』。手書きの絵文字を認識し、メール等の返信を手軽に行える『emoji recognizer』。1画面だったホーム画面をアプリ・電話帳・設定画面の3画面にした『launcher』の4つである。

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またAndroid Wearの歴史とあわせ、Goodpatchが開発してきたGoogle Wear対応のアプリについても語ってくれた。

ウォッチフェイス対応前に海外のソース等を調べ独自でウォッチフェイスアプリを開発したり、Fit APIと連携し歩数表示のウォッチフェイス「Color Walk」を開発し、“Google Fit Developer Challange”で金賞を受賞したりと精力的に開発を進めていたとのことだ。

ただAndoroid Wearの場合、従来にはなかったアンビエントモードでの白黒表示へのデザインや、端末ごとに画面サイズや解像度、角/丸型などかなりの違いがあり、全てのデバイスに完璧に対応するように開発・デザインを行うことは今まで以上に“大きなチャレンジ”ともいえるだろう。

「Dingbel の Watch UIデザイン」笹山 健志氏

そして最後の5人目がGoodpatchのUI Designer笹山 健志氏。

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笹山氏は、同社がUIデザインを担当しDeNAが開発したApple Watch向けアプリ『Dingbel』から実際の実例を紹介してくれた。

Dingbelを開発する上でのミッションは『Watchだけで完結するツール』、『Watchでの使用に特化したUI』、『Apple Watch発売と同時リリース』の3つだ。実機がないなかの開発、かつWatchという今までにないデバイスに合わせたUI・コンテンツの設計というかなり“チャレンジングな内容”である。

ただ、発売当初に出てくるものは既存のiOSアプリのApple Watch対応のものが多いだろうという予想から、それとは逆のアプローチで“ウェアラブルファースト”のアプリを作るというのが狙いだったそうだ。

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そのなかで完成したこの『Dingbel』はコミュニケーションアプリだ。送受信できるのは “ポジティブ”、“ネガティブ”の2種類のみで、送ってきた相手との距離が分かるというもの。

例えば朝起きたときに親しい人に送ったり、ランチに行くタイミングで送ったりと、メール等をするまでもないことや、ただ「すぐに気づいて欲しいとき」などに使う。

UIとしては送りたい相手の顔を選んで1タップでポジティブ、2タップでネガティブという、小さい画面で無理に選択肢を作らず即時性が高くなるようにデザインされている。また余計な要素を廃し、なるべくタップできる領域を広く作ることで送信のしやすさをかなり意識しているとのことだ。

ただ一方で、実装したくても現状のWatchOSでは実現出来ない機能も多く、今後の課題として“OSサイドのサポート”が望まれるものも多いとのことである。

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このように現場の開発者やデザイナーから、専門家まで様々な立場の方から今回「ウェアラブル」と「UI」というキーワードをベースにした多様な話を聞くことができた。

今後大きく変化していく分野であろうウェアラブル、そしてその先に続くIoTで人とデバイスはどのように関わっていくのか。“UIはその間で重要な役割を果たす”とともにニーズも高度になり、より高いレベルでのデザイン・問題解決が求められてくるだろう。

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