【プレビュー】NHKスペシャル『あの日、僕らは戦場で 〜少年兵の告白〜』が教えてくれること

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2015年08月10日 12:21  MAMApicks

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戦後70年の8月。テレビや新聞でいくつもの特集が組まれている。自分自身は直接経験していない戦争を、どう受け止めるのか、繰り返し考える夏がきた。

明日、8月11日に放送されるNHKスペシャルのアニメドキュメント『あの日、僕らは戦場で 〜少年兵の告白〜』では、まだあまり知られていない、沖縄戦で結成された「少年兵によるゲリラ部隊」について伝えている。


■ゲリラ部隊に取り込まれた少年たち
終戦の前年1944年10月、少年たちが集められ、過酷な訓練を受け「護郷隊」として組織された。およそ1,000人がゲリラ戦を目的に前線に出ていたというのだ。

長く口を閉ざしてきた元少年兵の証言をもとに、「戦場で少年が何を見たのか」をアニメ化、実際のインタビュー映像とともに描き出している。

ある日突然呼び出され、理由もわからずひとところに集められる、ただそれだけのことから始まった。厳しいゲリラ戦の訓練を受け、「お前の命は鳥の羽よりも軽い」「10人殺せば日本は勝つ、10人殺したら死んでいい」と叩き込まれる。民間人のふりをしてひとり米軍の偵察に行く。友人が目の前で殺されても何も感じる余地がない。……「護郷隊」に取り込まれた14〜17歳を中心とした少年たちに課せられた状況のほんの一部だ。

ひとりの人間の命がこのように扱われ、普通の感覚を剥奪される非人道性や理不尽さは、アニメになったことでエピソード化され、わかりやすさをもった。

■経験していない世代の私たち、「他人事」を超えられるか?
「ひどいね」「かわいそうだね」「悲惨だね」「異常な事だね」……子どもと交わしそうないくつかの表現が思い浮かぶ。でも、そう表現するとき、今の自分たちとは違う「外側の」「昔の」人が起こした「特殊な事態」として処理してしまっている気がするのだ。

戦争のエピソードはあまりに悲惨で今の私たちには現実感がなく、むしろその出来事を対岸におしやってしまうところがある。

もちろん、何が起きていたかを知ること、それだけで十分意味がある。スタートはそこからだ。でも「他人事」の域でなく、もっと「自分事」として捉えられないか。経験していない自分と、さらに下の子ども世代を見ていると、余計にそんな思いを強くする。

元少年兵だった人たちにとっては、それがどんな異常事態であれ、それまでの日常と地続きの現実だったはずだ。実感として心と身体に刻まれ、今も続く自分の人生の一部であり、現在進行形のリアルさをもっている。彼らが証言する姿を見ているとそう感じる。

そういう切迫したリアリティを、経験していない私たちは同じレベルで感じることはできない。そこに精一杯の想像力を動員するけれど、色も感触も臭気も暑さも熱風も痛みも、向こう側にある。

だから、何か違う方法でぐっと自分に引きつけることはできないかと模索するのだ。

■今も「よくある構造」と同質かも、というリアリティ
何かの渦中にいるとき、どんなに外から見れば/後で考えれば「おかしなこと」でも、当事者にとっては「やむを得ない」「抗えない」もしくは「当然」で「普通」ですらある場合が多い。

少年兵として取り込まれた子どもたちは、過酷な自分の目の前の現実をひたすら受け入れ、耐え、こなし、こなせなくても後ろから押されて前に進むしかなかった。訓練した大人たちは、組織の中でその価値を本気で当然と信じ加担した。もしくは抗う術なく結果的に加担した。

同じような構造、自分の周りの日常で思い当たらないだろうか? 教室で、職場で、家庭で、「外側から見れば異常」なことはいくらでも普通に起きている。多対個の過酷な関係、個対個の閉じた高い緊張状態、集団の中に明示/非明示的に広がる支配的空気……。いじめやハラスメントの多くに似たような構造があるだろう。

いつの間にか、弱い側で耐えていたり、強い側で誰かを追い込んでいたり、そのどちらも、誰もがきっと経験しているはずだ。

「子どもによるゲリラ部隊」という理不尽でありえない異常事態は外からやってくるのではない、今の私たちも持っている「よくある構造」と同質で、その延長線上にある、と思うと、ぐっと自分にリアルに近づいてくる。

「殺害」と「破壊」が「やむを得ない」と肯定される舞台が用意されれば、今だって、私たち自身が、こんな異常事態を生み出したっておかしくない。

そういうリアリティを「経験していない世代」だからこそ、大切にしたい。

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この番組を息子と一緒に見たら彼はどんな感想を持つだろうか、私はそれに対してどんな言葉を選ぶだろうか。……経験したことのない世代同志がどういうリアリティを持って受け止めていく道があるのか、きっとそれを考えるきっかけになるだろう。

NHKスペシャル アニメドキュメント『あの日、僕らは戦場で 〜少年兵の告白〜』
放送:2015年8月11日(火) 午後7時30分〜8時43分
番組サイト
http://www.nhk.or.jp/special/70years/channel05.html
「あの日、僕らは戦場で」メイキングと制作秘話
http://www.nhk.or.jp/po/channel/2575.html

狩野さやか
ウェブデザイナー、イラストレーター。企業や個人のサイト制作を幅広く手がける。子育てがきっかけで、子どもの発達や技能の獲得について強い興味を持ち、活動の場を広げつつある。2006年生まれの息子と夫の3人家族で東京に暮らす。リトミック研究センター認定指導者。

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