ROCK IN JAPAN FES.はなぜ拡大し続ける? 「ロック」概念の変化を通してレジーが考察

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2015年08月19日 12:11  リアルサウンド

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『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』公式HP

・「ロック」を拡張し続けてきた15年間


 2000年にスタートし、今年で16回目を迎えた『ROCK IN JAPAN FESTIVAL(以下RIJF)』。ひたち海浜公園を舞台に毎年規模を拡大してきたこのロックフェス、2015年の観客動員数は約25万人。昨年から開催日数が4日間となったこともあり単純比較はできないが、今年の『FUJI ROCK FESTIVAL』(3日間開催)の動員数が11万5千人だったことを考えるとその大きさが際立つ。初回から毎年足を運んでいるこのフェスに今年は後半の2日間、8月8日と8月9日に参加した。


 8月9日のGRASS STAGE(一番大きいメインステージ)にDragon Ashとして出演していた降谷建志は、「今日のこのステージのメンツは最高じゃないか」という旨のことをMCで口にしていた。チャットモンチー、クリープハイプ、Dragon Ash、9mm Parabellum Bullet、ACIDMAN、the HIATUS、10-FEET。日本のロックを引っ張ってきたバンドが居並ぶ様を賛美した彼の心境は、「もっとロックバンドのかっこ良さを知ってもらいたい」という一心で「ミュージックステーション」に出演した横山健とも共通するものがあるのかもしれない。


 一方で、『RIJF』の歩みは「狭義のロック」という概念をいかに拡張するか(少し悪意も込めると「骨抜きにするか」)という取り組みの積み重ねでもある。2回目となる2001年の時点でゆずとMr.Childrenという「お茶の間寄り」に受容されていた存在を出演させ、Mr.Childrenが再び出演した2005年にはサザンオールスターズまで引っ張り出してきた。今でこそ普通のこととなった矢沢永吉のロックフェス出演の端緒を作ったのは06年の『RIJF』であり、08年から(厳密には07年のCDJから)始まるPerfumeの大々的なプッシュは「ロックフェスとアイドル」という流れの先取りになっていたとも言える。さらに、今ではゴールデンボンバーやFly or Dieといった「従来のロックに対するパロディもしくはカウンター」という構造のアクトも平然と出演している。


 「○○はロックか?」などという問いが馬鹿馬鹿しくなるような多様なラインナップ。「ユニークなスタイル」「思わず自己投影してしまうような物語性」を持つミュージシャンを「ロック」の名のもとにひたすら取り込むことで、『RIJF』は全方位型の音楽ショーケースとして巨大化していった。そして、そんな「何でもあり」のスタンスの帰結として生み出される『RIJF』のタイムテーブルは、今のシーン(もちろん「全音楽」ではなく特定の幅の中ではあるが)についてのなかなか正確な縮図となっている。今年も大物アーティストやフェスに強そうな若手ロックバンドを揃えるだけでなく、これからメインストリームに打って出ようとするポップアクトを各日の同一ステージ・同一時間帯に配置した(Awesome City Club、水曜日のカンパネラ、tofubeats、Shiggy Jr.)。また、多数の女性アイドルを短い時間でまとめて見せる企画を2013年と2014年の2回で打ち切ったところにも、フェスとしてのフレッシュさを保つためのシビアな判断が垣間見える。鮮度維持のために「機を見るに敏」な施策を繰り出すスピード感は、他のロックフェスよりも48グループやLDHの方が比較対象として適切かもしれない。秋元康、HIRO、渋谷陽一と言ったところか。


・『RIJF』における「ロック」、ゴスペラーズの場合


 あ〜ちゃん「ロックっていうものの捉え方が変わっているのかなって。そのことを、ここにいる皆さんは考えていらっしゃると思うんですよ。夢とか、信じるものを、想い続けることなんじゃないかなって」
(ROCK IN JAPAN FES. 2013 Perfume クイックレポート)


・『RIJF』における「ロック」、ゴスペラーズの場


 「狭義のロック」とは距離のあるスタイルでRIJFの大トリを務めるまでに成長したPerfumeは「ロック」という言葉の意味をこう定義したが、あらゆる音楽ジャンルの異種格闘技戦となるこのフェスにおいて「自らのアイデンティティを信じる」ということは極めて重要である。2日間で自分が見たアクトの中でそれをもっとも体現していたのが、『RIJF』初登場となったゴスペラーズだった。


 メンバー用のモニタースピーカーのみがセットされたステージに登場して「永遠に」をアカペラで披露した後、村上てつやはこう言った。


「初めてここに乗り込むにあたっていろいろ考えました。今日、楽器は持ってきていません。マイク5本だけで勝負します!」


 自らのコアであり、また他の出演者が絶対に真似できないやり方でもある全曲アカペラというセットリスト。「ウイスキーが、お好きでしょ」「真っ赤な太陽」といった誰もが聴いたことがありそうな曲のカバーから「ひとり」「星屑の街」といったオリジナル曲、さらにはMCやコール&レスポンスまで駆使して場を盛り上げ続けた彼らのパフォーマンスは、こういった音楽に馴染みがないであろうオーディエンス(MCでのやり取りによるとその場にいた大半がゴスペラーズを初見とのことだった)に確かなインパクトを残した。


 「楽屋では孤独だった。友達はRHYMESTERだけ(笑)。でも孤独には慣れている。なぜなら自分たちがこの音楽を始めたとき周りは誰もアカペラのことを知らなかったし、だからこそ自分たちなりのアカペラを作っていこうとやってきた」


 こんなMCがあったが、常に「アウェー」の場でどうするかという状況に直面し続けてきたとも言える彼らの道程は、様々なタイプのオーディエンスが集まるロックフェスと実は非常に相性がいい。考えてみれば、彼らがデビュー前に腕を磨いていたストリートライブにおいてはロックフェスよりもはるかに無関心な通行人の足を止めさせなければならない。お金を払ってその場を訪れている人たちの心を掴むことなど、百戦錬磨の5人からすれば造作もないことなのだろう。


 シーンともトレンドとも関係のないミュージシャンがたちまちベストアクト候補に名乗り出てしまうことこそがロックフェスの面白さのひとつでもある。ゴスペラーズの『RIJF』への初出演は、そんな風に語り継がれるであろう「事件」となった。


・魂が磨かれる場所としての『RIJF』、ミュージシャンの創意工夫


 ロックフェスの歴史は、普段のライブとは異なる環境の中で苦闘するミュージシャンの歴史でもある。『RIJF』においても2000年のHUSKING BEEやKING BROTHERS、2002年のBOOM BOOM SATELLITESやBUMP OF CHICKENが終演後に自らのステージがしっくりいかなかったことを悔いている(いずれも当時のロッキング・オン・ジャパンより)。最近ではボールズの山本剛義が昨年初出演した『RIJF』について「全然自分が思い描いていた感じと違った。他のアーティストに比べてお客さんを全然満足させられなかった」と述べており、その経験がバンドにとって新境地となるアルバム『SEASON』を生み出す原動力になったと明らかにしている(「レジーのブログ」でのインタビューより http://blog.livedoor.jp/regista13/archives/1031039863.html)。


 山本はそのインタビューの中で「歌を聴きに来ているわけじゃなくて、明らかにフェスそのものを楽しみに来ている人がたくさんいた」という発言をしているが、「自分たちの熱心なファン」と「フェスの空気をなんとなく楽しめれば満足な層」が混在する独特の雰囲気の中でやりたいことをどうやって提示するかというのは出演者の腕の見せどころでもある。たとえば先日のワンマンで見せたメロウな側面を封印してわかりやすくアッパーなセットリストで臨んだShiggy Jr.や「知らない曲でもいい感じにノっておけばOK!」というメッセージを繰り返し発していたtofubeatsは、「皆で盛り上がりたい」というフェス特有のムードと正面から向き合っていた。クリープハイプは東京スカパラダイスオーケストラをステージに呼び込んで「ルパン三世’78(スカパラのナンバー)」「爆音ラブソング(尾崎世界観のボーカルをスカパラがフィーチャー)」だけでなく自身の楽曲である「社会の窓」のスペシャルアレンジを披露することで、ロックフェスという空間が「普通の週末にあるちょっとしたレジャー」ではなく「いつもと違う特別な場所」だということを見せつけているように感じた。また、パスピエは当日のパフォーマンスだけでなく「フェスミックスCD(フェスではあまり演奏しない楽曲を集めた会場限定販売のCD)」という取り組みを通して自分たちの音楽がフェスのみに閉じてしまわないようなチャレンジを行っている。


 「ロックフェス中心に動く日本の音楽シーン」という構造に関する問題提起はすでに各所で出つつあり、それらの意見については是々非々で精査していく必要がある。ただ、確実に言えることは、与えられた環境で自分たちの音楽を何とか届けようとするミュージシャンの姿はどんな場所であれいつも尊いということだ。今年のRIJFに参加した25万人の中に「音楽よりもフェスそのものを楽しみに来た人」が何人含まれていたかはわからないが、ミュージシャンのパフォーマンスを通じてそのうちのほんの数%にでも音楽というエンターテイメントの熱さが伝染していることを心から願う。(レジー)


このニュースに関するつぶやき

  • 市川哲史ロキノンに残ってたら若手のヴィジュアル系(武道館までいかないクラス)もロキノンフェス出てたんじゃないかみたいな話面白かったな
    • イイネ!2
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