オランダのアムステルダムからフランスのパリに向かう国際特急列車「タリス」の客車内で8月下旬、男性が発砲し、乗客3名が負傷する事件が起きた。この列車に乗っていたフランスの俳優ジャンユーグ・アングラードさんは「乗務員は乗務員室に逃げ込み、鍵をかけた」と運行会社の対応を非難した。
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報道によると、武装した男性が発砲した直後、乗員は客車の通路を走って乗員室に退避したという。アングラードさんが扉をたたいて「開けてくれ」と叫んでも無視を続けたそうだ。結局、乗り合わせた休暇中の米兵らが男性を取り押さえたという。逮捕された男性はイスラム過激派に所属しており、テロと見られている。
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もし日本で、テロや事故に遭遇した際に、電車や飛行機の乗務員はどう対応するべきなのだろうか。金子博人弁護士に聞いた。
「旅客の運送契約の中身として、運送会社は、旅客を目的地まで安全に運送する契約上の義務があります。旅客機や列車の乗務員は、その契約上の義務を履行する補助者ということになります」
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金子弁護士はこのように述べる。具体的には、どんな義務だろうか。
「航空機の場合、東京条約(1969年12月発効、日本は70年8月加入)があります。
この条約によると、機長には、機内の人と財産の安全をはかるため、身体の拘束を含む、妥当な措置をとる権限を与えられています。それを実行するため、他の乗務員に対する命令権もあります。
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権限があるということは、対応する義務もあるということです。機長には、自らの命を危険にさらしてでも、事態を制圧し、乗客の安全を守る義務があるといえるでしょう。
船舶も同様で、日本では、総トン数20トン以上の船舶の船長は、一定の海員とともに、『特別司法警察職員』に指定されています。諸外国も同様に、警察権が与えられています。
彼らは、自らの命を危険にさらしてでも、事態を制圧し、乗客の安全を守る義務があります」
今回事件の舞台となった、鉄道についてはどうだろうか。
「鉄道は、乗務員にそこまでの権限はありません。そのため、旅客を適切に指示、誘導して、安全を確保する義務にとどまります。
ただし、テロ等に対しては、さらに、迅速に警察に連絡を取り、出動を要請する義務を負っています。今回のケースが日本で起きたと仮定した場合、『乗務員は乗務員室に逃げ込み、鍵をかけた』といった証言が事実だとすれば、こうした義務を果たしていないとされる可能性があるでしょう。
日本では、鉄道特別司法警察隊が編成されており、自らの命を危険にさらしてでも対応することになっています。諸外国も同様です」
金子弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
金子 博人(かねこ・ひろひと)弁護士
「金子博人法律事務所」代表弁護士。国際旅行法学会の会員として、国内、国外の旅行法、ホテル法、航空法、クルージング法関係の法律実務を広く手がけている。国際旅行法学会IFTTA理事。日本空法学会会員。
事務所名:金子博人法律事務所
事務所URL:http://www.kaneko-law-office.jp/
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