「引きこもりの兄を追い出したい」 実家を相続した「弟」の願いは認められるか?

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2015年09月07日 16:51  弁護士ドットコム

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引きこもりの兄に家から出ていってもらいたいーー。父が亡くなり、実家の土地・建物を相続したという男性から、弁護士ドットコムの法律相談コーナーにそんな相談が寄せられた。


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相談者は、父の死後、母の意向もあって、実家の不動産を相続した。その家には、母のほかに引きこもりの兄も暮らしている。しかし相談者の男性は、兄の面倒を見るつもりはなく、もし母が亡くなったときには兄に家を出て行ってもらいたいことを伝え、同意を得たのだという。



しかし、「仕事無し、友人無しの兄が今後、素直に家を出るのか」と不安を吐露している。母の死後、兄が家に居座った場合、相談者は兄を追い出すことができるのだろうか。また、今からできる準備は何かあるだろうか。小松雅彦弁護士に聞いた。



●退去期限を明示した「使用貸借契約書」を作るのが良い


「詳細な相続内容が今回のケースではわかりません。まず、前提となる相続状況を仮定した上で、整理していきましょう。



仮に、亡くなった父親が残した財産が、自宅の土地建物と預貯金・現金だったとします。遺産分割で、相談者は自宅の土地建物を全て、兄は預貯金・現金を相続したと仮定します。



母は、相談者に一生面倒を見てもらえば良いということで、遺産を取得しなかった。兄は、母の生前は今まで通り家に無償で住むが、母の死後は自宅を出ることに同意したーー。こういう設定にしてみましょう」



では、そのような状況下で、母が亡くなったとする。約束に反して、兄が実家に住み続けた場合、相談者が追い出すことはできるのだろうか?



「自宅はすでに相談者のものですが、兄は、当面、無償で家を使用することができます。その権利は民法上の『使用貸借権(593条)』となります。しかし使用貸借は返還時期を決めることができるので(597条)、母の死亡時を返還時期(不確定期限)とすれば、相談者は、兄に対して、母の死後に明け渡しを求めることができます」



確実に家を出て行ってもらうために、母の存命中にできることはないだろうか。



「退去期限を明示した使用貸借の契約書を作るべきです。また、この契約を公正証書にしておくと、さらに良いでしょう。兄が母の死後、明け渡しを拒否した場合、残念ながら明け渡しは金銭給付ではないので、公正証書に基づく強制執行はできません。裁判や調停などの法的手続が必要です」



では、公正証書にする意味はあるだろうか。



「公正証書にしておけば、公証人が本人確認・意思確認をするので、使用貸借の契約書が偽造文書だとか、錯誤無効、詐欺・強迫による取消などの主張はされにくくなります。



また、公正証書の原本は公証役場に保管されているので、万が一、手元の公正証書を紛失しても大丈夫です。



そして、判決や訴訟上の和解、調停などで明け渡しが決まったのに、それでも兄が居座る場合、裁判所の強制執行手続で強制的に出ていってもらうことになります」



小松弁護士はこのように話していた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
小松 雅彦(こまつ・まさひこ)弁護士
後見・相続・遺言を多数取り扱う。「気軽に相談できる、親しみやすい法律家」をモットーに身の回りの相談にも対応している。薬害エイズ事件やハンセン病国賠事件、薬害肝炎事件なども担当した。
事務所名:多摩オアシス法律事務所
事務所URL:http://komatsu6.com/


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