東日本大震災以降、自宅の安全対策や、食糧・水の備蓄は当たり前となってきた。なかでも、地震時の死傷原因となりやすい家具等の転倒防止は、多くの人がとっている策だ。ネジやビスを使った家具の固定は、その費用を助成する自治体もあるほど、防災に有効だという。
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しかし、ネットでは「賃貸マンションの規約に『壁の穴あけ禁止』ってあるから、地震対策できないよ」といった嘆きが見られる。
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原状回復が困難だという貸し主側の事情もあるだろう。しかし、賃貸住宅の「穴をあけてはいけない」というルールは、住む人の安全を脅かすものであるようにも感じる。「壁の穴あけ禁止ルール」は、法的に問題ないのだろうか。久保豊弁護士に聞いた。
「地震による負傷者の3〜5割は家具の転倒・落下が原因であるとも言われ、家具等の転倒防止策に関心が向けられています。しかし、賃貸住宅における転倒防止策については、問題が指摘されています」
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久保弁護士はそう指摘する。いったい、どんな問題があるのか。
「賃借人は、善管注意義務や用法遵守義務を負っているため、賃貸人の許可なく、建物を損傷する行為を行うことは賃貸借契約違反ということになってしまいます。そのため、建物の損傷を伴う家具等の転倒防止策を行うこと、具体的には床や壁に穴を開ける形での転倒防止器具を設置することは、原則としてできません。
国土交通省が公表している『賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を見てみましょう。壁等の画鋲、ピン等の穴や、エアコン設置による壁のビス穴については、『一般的に生活する上で必要な行為』により生じた損傷(通常損耗)であるとして、原状回復義務を負担しないこととなっています。また、原則として、賃借人が行うことができる行為とされています」
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では、防災目的での家具の転倒防止策も、「一般的に生活する上で必要な行為」に含まれないのだろうか。
「同ガイドラインにおいては、床や壁の損傷を伴う家具等の転倒防止策については、『善管注意義務違反』による損傷として分類されています。『地震等に対する家具転倒防止の措置については、予め、賃貸人の承諾、または、くぎやネジを使用しない方法等の検討が考えられる』としています。ですから、賃貸人の許可なく行うことは禁じられているという認識でしょう」
これだけ首都圏直下型や東南海地震への備えが叫ばれているなか、クギやネジを使って効果のある転倒防止策をとることは当たり前ではないかと思えるが・・・。
「そうですね。賃貸住宅では、まずは賃貸人に対して、家具等の転倒防止策のために床や壁に穴を開けることを許可してもらうよう働きかけるべきでしょう。その際に、設置する器具や原状回復の方法について話し合っておけば、退去時のトラブルを避けられるはずです」
もし、賃貸人が許してくれなかったら、どうしたらいいだろう。
「許可が取れない場合、ほかの対策を取るほかありません。穴を開けない転倒防止器具をなるべく効果的に設置するという方法のほか、転倒するような家具を置かなかったり、転倒してもケガをしないような位置に家具を置くといった工夫ができるでしょう。
ただ、現在各方面で、賃貸住宅における家具等転倒防止策の重要性が叫ばれています。今後は、エアコン設置による壁のビス穴等と同様に、『一般的に生活する上で必要な行為』により生じた損傷(通常損耗)として認識されるように変化していくことも十分に考えられます。
また、賃借人とのトラブルを防止するためにも、冷蔵庫などの設置場所がおおむね決まっているものについては、物件に転倒防止器具を予め設置する流れも、徐々に進んでくるのではないでしょうか」
久保弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
久保 豊(くぼ・ゆたか)弁護士
大学卒業後、旅行会社、一部上場IT企業を経て弁護士に。弁護士に転身後、不動産、建築・建設、法人破産、相続などを中心に多数の案件に精力的に取り組む。2008年弁護士登録。
事務所名:鎌倉総合法律事務所
事務所URL:http://www.kamakurabengoshi.jp/#index02
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