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作家の町田康さんが現代語に訳した古典文学「こぶとりじいさん」が、「おもしろすぎる」とネットで話題になっている。
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町田さん訳の「こぶとりじいさん」は、河出書房新社の「日本文学全集・宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)」に、「奇怪な鬼に瘤(こぶ)を除去される」という題名で収録されている。作品は、出版社のウェブページでも無料で公開されている。
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「ここまで言うんだからマジじゃね? やっぱ、瘤、いこうよ、瘤」「もしかしてマジで夢? そう思ったお爺さんは右の頬に手を当てた」など、町田さん独特のポップな文体で語られている。
読者からは「活字苦手なわたしでも楽しく読めた」「どれも町田康小説のように面白い。というか、これは訳ではなく町田康作品そのものである」など、絶賛する声がツイッターで数多くつぶやかれている。
「宇治拾遺物語」は、中世日本の物語集だが、古典であれば、誰でも自由に現代語に訳していいのだろうか。著作権の問題は、どう考えればいいのか。井奈波朋子弁護士に聞いた。
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「私も町田さん訳の『こぶとりじいさん』を読んでみました。ネットで評判になっているように、現代風の話し言葉を多用し、古典でも楽しく気軽に読める秀逸な作品と感じました」
井奈波弁護士はこのように作品の感想を述べる。著作権の問題については、どう考えればいいだろう。
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「著作権は、思想感情の創作的な表現を保護していますが、アイデアやコンセプトは保護されません。
小説などの言語の著作物でいうと、小説などのアイデアやコンセプトは保護されませんが、具体的な文章や、筋や主たる構成は、『思想感情の創作的表現』として保護される可能性があります。
そのため、小説を映画化する場合のように、具体的な文章を用いなくても、小説の筋や構成を用いる場合には、原則として、原作者の許諾を得なければなりません」
だが、「こぶとりじいさん」の原作者はとうの昔に亡くなっているはずだ。そんな場合は、どうすればいいのだろう。
「著作権の保護期間は、著作者の死後50年をもって終了します。
宇治拾遺物語は、鎌倉時代のころに作られた作品ですから、著作権の保護期間は、当然終了しています。
このように著作権の保護期間が終了した古典は、誰でも自由に現代語にすることができます」
今回の「こぶとりじいさん」のような古典は、だれでも自由に現代語訳を発表できるというわけだ。
「そうですね。ただし、注意も必要です。
このような古典は、古語のままでも出回っていますが、その一方で、子ども用に平易な言い回しを用いた書籍や現代語訳も出版されています。
このような現代語訳は、古文の現代文への置き換えという域を超えて、その文章に著作者の個性が表れていれば、古典を翻案した二次的著作物と扱われ、著作権により保護されることになります」
今回のケースでいえば、町田さんの「奇怪な鬼に瘤を除去される」という現代訳の著作権は、町田さんにあるということか。
「そうですね。第三者が、町田さんの現代語訳の文章そのままを勝手に使った場合は、著作権侵害となる可能性があります。
ただし、現代語訳の筋や構成を利用しても、それらが古典の筋や構成からくるものであれば、著作権として保護される対象ではないので、問題はありません」
町田さんにインスパイアされ、同じように古典を現代風な言い回しにすることは、問題ないということだろうか。
「『古典を現代風な言い回しに変える』という町田さんの思いつきはアイデアなので、それ自体は著作権法で保護されません。誰でも同じようなやり方で現代語訳ができます。
世の中では、二番煎じと言われるかもしれませんが、それはアーティストとしての評価であり、著作権の問題ではありません」
井奈波弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
井奈波 朋子(いなば・ともこ)弁護士
出版・美術・音楽・ソフトウェアの分野をはじめとする著作権問題、商標権、ITなどの知的財産権や労働問題などの企業法務を中心に取り扱い、フランス法の調査、翻訳も得意としています。
事務所名:聖法律事務所
事務所URL:http://shou-law.com/
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