画期的ホラー『死霊館』の続編で、ひと味違う背筋の凍る体験を

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2016年07月08日 16:21  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<実在の心霊研究家夫妻を主人公にした異色作『死霊館』にファン待望の続編が。ストーリーとドラマが光る極上の心理ホラー>


 ジェームズ・ワン監督の『死霊館』(13年)は、実在のアメリカ人心霊研究家ウォーレン夫妻を主人公にした異色のホラー。「いわくつきの映像」という設定の「ファウンド・フッテージ(発見された未編集の映像)」ものとも、スプラッターものとも違う、画期的なホラー映画として批評家から絶賛され、歴代有数の興行収入を達成した。


 同じくウォーレン夫妻が追った実在の事件を描いた続編『死霊館 エンフィールド事件』も前作ファンの期待を裏切らない上々の出来栄えだ。


 77年、ロレイン・ウォーレン(ベラ・ファーミガ)は夫エド(パトリック・ウィルソン)とロンドン北部エンフィールドに向かう。そこではシングルマザーのペギー・ホジソン(フランシス・オコナー)と4人の子供たちを超常現象が襲い、特に次女ジャネット(マディソン・ウルフ)が数々の怪奇現象に苦しめられていた......。


【参考記事】恐怖の「それ」がえぐり出す人生の真実


 エンフィールド事件といえば、アメリカのアミティビル事件(長男が家族を皆殺しにした後で悪霊に命じられてやったと証言、映画『悪魔の棲む家』のモデルにもなった)と並び称される有名な超常現象だ。ワンは今回そのエンフィールド事件を題材に、超常現象が現実に存在するかどうかについても、明確な見解を打ち出そうとしている。


 映画の冒頭、アミティビル事件の真相を確かめるべく降霊術を試みたロレインは、戦慄の体験を通して長男の言葉に嘘はなかったのだと悟る。この短いが強烈なシーンに続いて、再びウォーレン夫妻の生き方とその代償に光が当てられる。特にロレインは持ち前の強さと情熱と精神力に加えて、前作でちらりとのぞかせた不安もにじませる。


 ファーミガとウィルソンの息はぴったり。夫妻の人柄と関係の温かさが伝わる。登場人物の身を本気で心配してしまうホラー映画なんて、新鮮だ。


 2人の役作りはむしろヒューマンドラマ向きで、それがこの作品を人間味あふれる奥行きのあるホラー映画にしている。悪霊にとりつかれる話はホラーでは珍しくもないが、感情移入せずにいられない2人の演技が陳腐なストーリーに命を吹き込んでいる。


「古典」へのオマージュも


 それだけに、些細なアラが目立つのは確かだ。お化け屋敷的ホラー『インシディアス』と同じ監督とは思えないと、多くのホラーファンを驚嘆させた前作に比べ、今回はやや『インシディアス』寄り。特殊メークの悪鬼と絶叫シーンがてんこ盛りだ。


 だがホラーらしい手法がいい味を出している部分もある。テレビのチャンネルが勝手に替わるシーンや殺風景で息苦しさを感じさせるセットなどは、『ポルターガイスト』や『サイコ』といった古典ホラーに捧げられたオマージュだ。


 いずれにせよ、ワンも脚本のケアリー・ヘイズとチャド・ヘイズもストーリーを最優先しているのは明らかだ。そういう意味では前作以上に伝統的なホラーに近い。絶叫系ホラーを期待すれば肩透かしを食うだろうが、じわじわくる怖さが好きな人にはおすすめ。安っぽい小細工に頼ることなく身の毛もよだつシーンを生み出す手腕は、さすがホラー映画の名匠だ。


【映画情報】


THE CONJURING 2


『死霊館 エンフィールド事件』


監督╱ジェームズ・ワン


主演╱ベラ・ファーミガ


   パトリック・ウィルソン


日本公開は7月9日




[2016.7.12号掲載]


エイミー・ウエスト


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