「いつも有難う先輩 的外れなナイスアドバイスは最高 もう最後 旅立ちます明日 fuck you お世話になりました」Swanky Swipe/Fake feat.仙人掌(2006年)
【ハハノシキュウのMCバトルコラム Vol.4 ゼロから始めるラッパー超入門の画像・動画をすべて見る】
ラッパー・ハハノシキュウによるMCバトルコラム連載の第4回である。
ルールは先攻後攻2回ずつ。ハハノシキュウ本人とそれを1歩引いて俯瞰している立場の母野宮子という2人が交互にコラムを執筆していく。
文/ハハノシキュウ 編集/ふじきりょうすけ
先攻1本目 ハハノシキュウ
僕はこれから、親切で優しくて現実味のある話をしようと思っている。
それはラッパーに憧れている君のための近道であり、MCバトルが史上最も流行っているこの現状を利用してできる最善の方法である。だからこそ、これだけは覚えておいてほしい。
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つまり、僕がこれから話す現実的なラッパー「超」入門を、君はひねくれたマインドで小馬鹿にすればいいのである。
簡単だろ? わかるだろ? それだけで君はラッパーになれる。僕のアドバイスなんて唾を吐きかけてしまえばいい。素直にハイハイ聞いたって、君はいいラッパーにはなれない。
まず、君の生活基盤や年齢や住んでいる場所は不確定要素ではあるけど、とりあえず東京に来てほしい。君が地元で幅を利かせられるなら、こんな文章を読む必要はない。
そして、休日を自由に選べる仕事をしてほしい。君が大学生で、関東の大学に通っているのなら、奨学金をしっかり借りておくか、親に嫌な顔をされても仕送りを値上げしてもらった方がいい。
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ラップでメシを食う方法を僕は知らない。だから僕は、何かでメシを食いながらラッパーをやる方法を代わりに教えている。
そしてラッパーになる入り口として、これから「MCバトルへの鍵」を渡すつもりだ。
まあMCバトルには鍵なんかかかってないし、ノックすればすぐに開けてくれる。だけど心配性の僕としては、万が一ロックされたドアのために、それを用意しようと思う。
僕は気軽にそれをノックできない側の人間だった。ノックできる側の人間はこんなのを読まずに、僕に対してひねくれて自分で入り口を探せばいいと思う。
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後攻1本目 母野宮子
最初にハハノシキュウの主張に対してひねくれるなら、“MCバトルに一切出ないでラッパーになる”ことを強く薦める。
MCバトルに出て売名に成功し、脚光を浴びている人たちを、下唇を噛み締めながら、零れ落ちそうな自尊心をぐっと堪えて歌詞を書き、曲をつくった方がいいだろう。
何も東京にこだわる必要もない。東京に居た方が都合のいいことが、地方より少し多いだけだ。
それに、そつなく普通の生活ができる人間のリリックに魅力を感じるか? と聞かれて、誰もが即答できるわけじゃない。
ハハノシキュウは“ラッパーを長く続ける方法”の一つとして、生活する力を提示したのだろうが、ヒップホップという価値観に従えば、それの真逆であるはずだ。
極端な例だが、今から好きな女に告白しろ。
1:OKをもらったらラップなんてしないで恋愛を楽しめ。
2:振られたらその悲哀を勢いにしてラップをはじめろ。
はっきり言ってこれだけで、ラッパー「超」入門は完結してしまう。
魅力のあるラッパーとは、負の力をどう活かし、ナルシズムに変えていくかが、いわば「鍵」みたいなものである。
大学に通わせてもらえて、仕送りももらえて。そんな環境でラップなんかはじめたら、高確率で卒業できなくなって親を悲しませることになる。
ハハノシキュウが描く新規加入のラッパー像には、人間的な魅力が薄いのである。
そもそも、ラッパーは“ひねくれていないといけない”という縛りに、明確な理由が見当たらない。無理矢理それを探し当てるとしたら、おそらくこういうことだろう。
「ハハノシキュウのアドバイスを素直に聞いてラップをはじめる奴は、人間的な魅力が希薄になりがちだ。だからその主張に逆らって、ひねくれて、アドバイスを無視しながらラップをはじめるべきだ」なんて要約してみる。
んなもんガソリンぶっかけ火付けちまえ。
先攻2本目 ハハノシキュウ
恥ずかしいけど僕は学生時代、とりあえず人の目を引くスキルは持ってるライターが書いたような、非常に俗っぽい本を何冊か読んだことがある。「目指せライターで年収一千万!」とか「副業で始めるフリーライター入門」みたいな。
それらほとんどの第1章には、共通項としてこんなことが書かれている。「フリーライターは自分で名乗った時点でフリーライターという職業だ」
僕は、この一文の“フリーライター”を“ラッパー”に言い換えてもいいと思った。名乗った時点ですでに“ラッパー”なのである。だから、周りの意見を素直に聞く必要はない。
それともう1つ。“ラッパー活動はモラトリアムじゃない”。学生時代の思い出、就職したらお終い。そんなものではない。
同時に、ラップでメシを食ってくという夢を持つ必要もない。夢を持ってそれを続けていくことは格好いいけど、夢を持つこと自体は別に必修じゃない。
僕の口じゃまだ説得力がないけど、とにかく続けるってことが一番格好いいと思ってる。君がひねくれた真っ当なラッパーなら、僕の価値観をケチをつけてくれればいい。
そんなわけで、改めて親切な本題に入りたいと思う。
ラップに興味があってはじめてみたいけど、人前で一度もラップをしたことがなく、その方法がわからないというなら、まずはMCバトルを知るため、DVDを見る所からはじめるべきだ。
ただ、MCバトルのDVDはあまりにも多く、その全てをチェックするのは難しいと思う。とりあえずこの3枚からはじめてほしい。これを観た後だと、「フリースタイルダンジョン」が数倍楽しめると思う。
YouTubeだけで済ますのはオススメしない。3時間、4時間の大会ごとの空気の変化をノンストップで感じながら観るのが、試合の内容よりも大事だからだ。
そして、この3枚を観終わった上で、“こういうラッパーがいたらいいのに”と思える理想の存在を考える。
この3枚の中にも、もちろん少なからず泥仕合がある。そこから受けた印象で、バトル中に絶対にやるべきじゃない行為をリストアップしておく。これは自分の価値観で、生理的に感じたものでいい。例えば「客の方を向いてラップするのは嫌だ」とか、「ニヤニヤしてるのが嫌だ」とか。
とりあえず、そこまで済ませたら君はもう立派なバトルリスナーである。ここでできる限り自分のフリースタイル観を確立させておこう。
そして、Twitterの検索バーに「◯◯サイファー」と打ち込んで調べてみよう。
◯◯の部分に代入するのは、自分の住んでる最寄駅の名前か、最寄りで思いつく繁華街で名称だ。渋谷だったら「渋谷サイファー」と検索すればいい。
数年前に比べてサイファーの数が爆発的に増えている。だからこそ、それを生で体験するフェイズに移行するチャンスが多くある。とはいえ最初のうちは、無理にサイファーの輪に入らなくてもいいし、そこで友達もつくらなくていい。
とにかくサイファーが何なのかを実感してほしい。
DVDを観て、サイファーを生で体感した上で「こんなの俺でもできるわ」と君が思えたなら、早速出場すべきMCバトルを探して欲しいと思う。
後攻2本目 母野宮子
後攻なので、盛大に揚げ足を取らせてもらうと、ハハノシキュウのチュートリアルは、MCバトル入門で終わりである。
ここまでだと、フリースタイラーになれるかもしれないが、自分で名乗らない限りラッパーにはなれない。
なので、MCバトルを入り口として最も手っ取り早いラッパーデビューのルートを紹介する。
「高校生RAP選手権」に出場するためにはとんでもない倍率のオーディションをクリアしないといけないし、まず君が高校生であることが必要だ。
ただ、これに出れると多くの人に認知されるため、ライブオファーや客演、レーベルからのスカウトなどの可能性が非常に広がりやすい。
ただし、ハハノシキュウが言うように、ある程度ひねくれていないと誰の目にも止めてもらえないこともある(あえてここで、「ひねくれる」という表現を使ったが、本質としてただバトルが強いだけでは、フリースタイラー止まりの高校生だという意味だ)。
フリースタイルダンジョン
「俺はまだ、一度も人前でラップしたことがありません。舐めたことを言ってると思われそうですが、本気で俺のデビュー戦を『フリースタイルダンジョン』にしていただきたいです!」
こんな風にオーガナイザーのZEEBRAさんにTwitterでリプライしてみよう(実際にこういう人が出てきて迷惑がかかったらすみません)。
「フリースタイルダンジョン」でラッパーデビューした人はいない。前例がないなら挑戦する価値はある。そういう観点です。
これに関しては、とにかく動画として残ることを目指してほしい。
「戦極MC BATTLE」の予選や、「戦極スパーリング」が最も手っ取り早いが、コメント欄が荒れやすいことでも有名なので、耐性のない人にはあまりお勧めしない。
ただ、代表のMC正社員さんは無名のラッパーに寛容であり、むしろ無名の子が出てる試合こそ熱を入れて観戦する人なので、あの人の目に止まれば「戦極MC BATTLE」の本戦出場でDVD化という理想のコースを歩むことも不可能ではない。
「KING OF KINGS」は、今年で2回目になる9sari group主催のMC BATTLEである。
この大会は、基本的に出場できるMCが少ないことで有名なので、自分を観てもらえる時間が他の大会よりも長く分母が小さい。また、点数による審査制を導入しているため、自分の実力を客観的に知るには絶好の場所と言える。
この大会の予選に出るための近道としては、ダースレイダーさん主催の「SCHOOL OF RAP」という若手限定の大会があり、さっきの正社員さんと同様にダースさんも無名の子には非常に目をかけてくれるので、そこでうまくアピールできれば「KOK」に出れる近道になると思う。
ただし、「SCHOOL OF RAP」は映像には残らないため現場での印象が大事になる。
ULTIMATE MC BATTLE予選
「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)は、最もオーソドックスなMCバトルデビューの方法である。ハハノシキュウも2007年の青森予選で初めてマイクを握った。
ベスト8まで行けば、アプリで動画が配信されるため、そこで認知されると次に繋げやすい。ただし、アプリは課金制なのでYouTubeに比べると、視聴者の絶対数は少なくなってしまう。
その分、マニアックなリスナーがまだ見ぬ新人を発見しようとする傾向が強いため、そういう人の琴線に触れると次に繋げやすい。そして、本戦に出場してDVD化されれば一気に知名度は上がる。
ほかにも「THE罵倒」や大阪の「ENTER」も映像に残り、YouTubeに載ったりDVD化も積極的にされるため、知ってもらうという点においてはオススメの大会だ。
ラッパーとして活動するためには知名度があった方が圧倒的に有利であり、そして楽である。曲はつくってもつくらなくてもいい。後から嫌というほどつくらされるだろうし、トラックだって誰かに貰えると思う。
特にハハノシキュウの言うような扉をノックする度胸のない人間にとっては、バトルに出ることが向こうから扉を開けてくれる免罪符になる。そこでようやく君を取り巻く環境が変わる。
だから「ラッパーになりたいならMCバトルからはじめよ」という結論に至るわけである。
これらを踏まえた上で、これらの全てを全く踏まえずにラッパーデビューする人間をハハノシキュウは楽しみにしている。これだけMCバトルが流行ってるのだから、それこそ「ポケモンGO」を否定するように、周りとは違う道のりを探してみてはどうだろう?
例えば、ハハノシキュウは批評家でも評論家でもない、現役のプレイヤーだ。だから、お手本として振る舞う義務があると言ってもいい。
このMCバトルが流行っている現状において、どうひねくれるべきか?
ハハノシキュウは今年、MCバトルに出ない。頼まれたって出てやらない。
それがお手本だ。
MCバトル必勝講座「MCバトルなんか出るな、疎外感を味わえ」