バンド「黒夢」の商標権がネット公売に…作品の販売にどんな影響がある?

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2016年09月17日 08:12  弁護士ドットコム

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ビジュアル系ロックバンドとして一世を風靡した「黒夢」のものとみられる商標権が、東京国税局から公売にかけられていることがわかった。


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Yahoo!の官公庁オークションには、「黒夢」(第5106735号)や「KUROYUME」(第5339371号)など4つの商標が出品されている。入札の申し込みは9月9日に締め切られており、入札期間は23日〜26日と指定されている。


特許や商標の検索サイト「J-PlatPat」によると、これらの商標権は、黒夢のボーカル、清春(森清治)さんが代表取締役をつとめていた有限会社フルフェイスレコードが所有している。


今後、誰かに落札されることになると、音楽作品の販売などはどういう影響を受けるのだろうか。知的財産にくわしい岩永利彦弁護士に聞いた。


●CDに『黒夢』と付けて販売できなくなる?

「まず、4つの商標のうち、『黒夢』(第5378084号)を『J-PlatPat』を見ると、たしかに、登録日を2010年12月24日とした『黒夢』の標準文字登録商標があり、有限会社フルフェイスレコードが商標権者になっています。


また、商標を使用する商品・役務は、『レコード、インターネットを利用して受信し、および保存することができる音楽ファイル、録画済みビデオディスクおよびビデオテープ、インターネットを利用して受信し、および保存することができる画像ファイル』(9類)や『音楽の演奏』(41類)などが指定されています。


他方、この商標権が、東京国税局による官公庁オークションに出ているのも間違いありません。おそらく、有限会社フルフェイスレコードが税金を滞納したのだと思います。


ですので、このままいくと、商標権者は、黒夢と関係のない赤の他人ということになるでしょう」


そうなると、黒夢は「黒夢」と名乗れなくなってしまうのだろうか。


「名乗ること自体は、商標的使用にはあたりません(商標法26条1項6号)。


しかし、黒夢が、CDに『黒夢』と付けて販売したり、コンサートのためのチラシに『黒夢』と付して宣伝することは商標権侵害となるのが原則です(同法25条)。


ただ、場合によっては、商標権侵害とならない可能性もあります。それは、『商標権の効力が及ばない範囲』にあたる場合です(同法26条)。たとえば、自己の氏名や名称などを普通に用いられる方法で表示することがあげられます(商標法26条1項1号)。


つまり、黒夢が『自己の名称』である『黒夢』を、ゴシック体などの普通のタイプ字で表現すること、たとえばCDの裏の目立たないところに、『演奏者:黒夢』と記載したり、チラシの下部などに『演奏者:黒夢』と記載するような場合だと、商標権侵害とならないでしょう」


●これまで通り使用できる可能性は?

このように、ひっそりとした感じではなく、これまで通り堂々と「黒夢」を使うことは難しいのだろうか。


「その可能性も少しあります。『先使用権』(商標法32条)です。その要件は以下の(1)〜(6)です。


(1)他人の商標登録出願前からその商標を使用していたこと


(2)日本国内で(1)をおこなっていたこと


(3)不正競争の目的でなく(1)をおこなっていたこと


(4)他人の商標登録出願にかかる指定商品・指定役務またはこれらに類似する商品・役務について(1)をおこなっていたこと


(5) (1)をおこなった結果、他人の商標登録出願時において、その商標が自己の業務にかかる商品・役務を表示するものとして、広く認識されていること


(6)継続してその商品・役務について、その商標の使用をすること


このように要件が厳しいのですが、今回のケースでは、特に(1)『他人』、(6)『継続して』の要件が厳しいと思います。


しかし、黒夢が、有限会社フルフェイスレコードからライセンスを受け『黒夢』商標を使用していたのだとすれば、『他人』の要件は何とかなるかもしれません(なお、商標のライセンスは特許と異なり、登録しないと新商標権者に対抗できません(商標法31条4項))。


また、バンド活動も地道にやっていたとすれば、(6)『継続して』の要件も何とかなるかもしれません」


今回のケースについて、どう考えるか。


「そもそも、今回バンドにとってこういう困った状態になったのは、報道によると、リーダー格であるメンバーが経営している会社の税金の不払いということに原因があるようです。そうすると、それにもかかわらず、これまで通り商標を使用できるというならば、若干筋が違うかなとも思います。


ですので、仮に、黒夢が『黒夢』商標を今後も使用したい場合は、新しい商標権者から商標を買い戻すことや、ライセンスを受けるなど、きちんとそれなりの対価を支払って解決すべきと考えます」


岩永弁護士はこのように述べていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
岩永 利彦(いわなが・としひこ)弁護士
ネット等のIT系やモノ作り系の技術法務、知的財産権の問題に詳しい。
メーカーでのエンジニア、法務・知財部での弁理士を経て、弁護士登録した理系弁護士。著書「知財実務のセオリー」好評発売中。
事務所名:岩永総合法律事務所
事務所URL:http://www.iwanagalaw.jp/


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