薬師丸ひろ子、ボーカルの説得力はどこから? 歌手35周年アルバム『Cinema Songs』を紐解く

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2016年09月25日 17:01  リアルサウンド

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薬師丸ひろ子

 思えば、薬師丸ひろ子という女優にとって、シンガーとしてのキャリアはとても幸せだったのではないだろうか。1978年に映画『野性の証明』で高倉健との共演でスクリーン・デビューを果たし、1981年に公開された主演作『セーラー服と機関銃』で大ブレイク。この時、初めて歌に挑戦した主題歌が大ヒットし、歌手という大きな肩書が加わる。以来、主演作と主題歌を同時に連続してヒットさせていくのだ。


 彼女が幸せだった理由のひとつに、楽曲のクオリティの高さが挙げられる。「セーラー服と機関銃」は来生えつこ&来生たかおが楽曲提供。続く「探偵物語」は大瀧詠一、「メイン・テーマ」は南佳孝、「Woman "Wの悲劇"より」は呉田軽穂(松任谷由実)、そして作詞はいずれも松本隆という布陣だ。他のアイドルや女優と比較しても、ここまで一流のスタッフを起用し、そのレベルにしっかりと応えられたという例はほとんどない。演技力同様に歌唱力もあるからこそのヒットと評価だといえる。


 そんなこともあり、女優・薬師丸ひろ子の映画音楽に対する思い入れは人一倍大きいはず。だからこそ、歌手デビュー35周年を記念して制作されたアルバムが映画音楽のカバー集ということで思わず納得させられた。この『Cinema Songs』には、12曲に絞られた珠玉の映画音楽がセレクトされている。


 前半は洋画の主題歌が8曲。彼女が尊敬しているというドリス・デイのヒット曲「Tea For Two」(映画『二人でお茶を』)、ギター・インストに歌詞を付けた「Cavatina」(映画『ディア・ハンター』)などの英語曲にハッとさせられる。だが、それらよりもぴったりとはまっているのが日本語詞によるカバーだ。オードリー・ヘップバーンの気怠い歌声で知られる「ムーン・リバー」に始まり、マイケル・ジャクソンが少年時代に歌ってヒットさせた「ベンのテーマ」、80年代以降のミュージカル映画を代表する『アニー』の「トゥモロー」など、曲調は様々でありながら、彼女のキャラクターに上手くフィットした名曲を優しい言葉で表現。なかでも、バーブラ・ストライサンドの主演と歌唱で大ヒットした『追憶』のテーマは、大人のシンガーとしての魅力に溢れた名唱。あらためて、言葉の魅力を聞き手に伝えることができる女優ならではの歌なんだなと感じさせてくれる。


 そして、ファンにとって嬉しいのは、後半に収められた邦画の主題歌4曲だ。「コール」は1993年の主演作『ナースコール』の主題歌。普遍的な愛を描いた歌詞が沁み、大切に歌い込んだことがよく分かる。『犬神家の一族』の「愛のバラード」は意外だったが、彼女が育ってきた角川映画へのオマージュといったところだろうか。


 そして、何より嬉しいのはデビュー作『野性の証明』の主題歌「戦士の休息」だ。町田義人によるソウルフルなオリジナルとは一味違う、清冽な雰囲気でこの曲の新しい魅力を引き出している。まさに、原点回帰といえる美しい一曲だ。最後の「セーラー服と機関銃」は、ファン・サービスということでボーナス・トラック扱い。比較的オリジナルに近い感覚のアレンジに好感が持てる。どのように彼女の声が成長しているかはぜひ実際に聴いて楽しんでいただきたい。


 このように、映画に特化したアルバムは、まさに薬師丸ひろ子のスクリーン人生を反映した作品である。日本を代表する女優ならではの説得力に満ちたボーカルに、じっくりと耳を傾けてもらいたい。(文=栗本斉)


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  • 橋本環奈版のセーラー服と機関銃はとてもとても聴けたシロモノでなかった。元の歌手のクオリティとイメージが大きすぎるとこんな悲劇が起こるのである。
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