離婚後に直面する「養育費」不払いの対処法…事前の取り決めが重要

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2016年10月21日 09:11  弁護士ドットコム

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「元夫からの養育費の支払いが滞ってしまった」「行方をくらましてしまったので、どうしたらいいかわからない」。弁護士ドットコムライフでは、『離婚前に知っておきたい「養育費」の仕組み…子どもの権利として考えよう』(https://www.bengo4.com/c_3/li_358/)と題して、離婚に伴う子どもの養育費の仕組みを解説しましたが、弁護士ドットコムの法律相談コーナーには、養育費の不払いについての質問が数多く寄せられます。そこで今回、養育費不払いの対処法をまとめました。


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 <事前の対策1 養育費を取り決める>


まず、養育費を取り決めて離婚することが重要です。養育費の取り決めをしている母子家庭は4割弱にすぎず、さらに、現在も実際に養育費を受けている家庭は2割に満たないのが現状です。つまり、養育費の取り決めをせずに離婚しているケースが多く、また離婚時に養育費の支払いを約束したとしても、後になって支払われなくなっていくことが多いのです。


お互いにもう離婚するということには合意しているから、条件面は後に決めることにして、早く離婚を成立させたいということもあるかもしれません。しかし、子供を監護する側とすると、先に離婚を成立させてしまうと、後に相手側が提示してきた養育費に納得がいかない場合、離婚を拒否することで交渉するという切り札がなくなってしまいます。


また、離婚後に養育費についての話し合いがまとまらない場合、養育費の額を定める調停・審判をおこすことはできますが、基本的に認められるのは申立日以降の分となり、話し合っていた期間の養育費は得られないこととなります。いずれにしても、養育費を取り決めないままに離婚を成立させるメリットは、早期に離婚を成立させたい場合を除き、まずありません。


■離婚するとき「養育費」を決めている夫婦はなぜ少ないのか?(https://www.bengo4.com/c_3/n_815/)


 <事前の対策2 差押えができるように「合意書」を作る>


養育費についての話し合いでは、養育費の金額、支払時期(毎月○日までに支払う)、支払期間(子供が大学を卒業するまでなど)、支払方法(○銀行の口座に振込みなど)を決めるようにします。加えて重要なのは、養育費の支払いがされなくなった場合のために、差押えができるように取り決めることです。


差押えとは、勤務先等から本人に給与等が支払われる前に、まず養育費を取り立てる手続です。差押えは強力な効力があるため、単に2人の間で作る書面で、これについて定めることはできません。差押えをできるようにするためには、公証役場という施設において、公証人の立合いのもとに「公正証書」で養育費についての合意書を作る必要があります。公正証書による合意書の中に「強制執行認諾条項」を定めることで、不払いが生じたときに、給与等を差し押さえることが可能になります。


また、家庭裁判所に養育費の額を決める調停・審判を申し立て、「調停調書」「審判調書」という書面で養育費を定めることによっても、給与等を差し押さえることができます。


 <事後の対策1 内容証明郵便や履行勧告等で自発的な支払いを促す>


ここからは養育費が支払われなくなった後の対策になります。


養育費が約束どおりに支払われないときには、電話やメールで支払いを促し、それでも支払われないときは内容証明郵便で督促することが有効です。内容証明郵便は、郵便局がどのような手紙がいつ出されたかを証明するだけですので法的な強制力はありませんが、強い態度を表す内容証明郵便で、「○日までに支払われないときは法的措置をとる」旨記載することによって心理的に圧迫を加えることは可能です。


また、調停や審判で養育費を定めた場合は、家庭裁判所が支払いの滞っている相手方に電話や郵便できちんと支払うように通知する「履行勧告」という制度を申出により利用することができます。


■養育費から逃げる夫への「未払い分の請求」は「時効」に注意(https://www.bengo4.com/c_3/li_75/)


 <事後の対策2 給与の差押え>


ここまでの対策を行っても支払われない場合は、財産や給与の差押えしか方法は残っていません。<事前の対策2>の繰返しになりますが、差押えができるのは、養育費の合意を公正証書で定めた場合、調停・審判により調停調書・審判調書で定めた場合又は離婚訴訟で養育費について判決が下された場合です。


もし、養育費の合意についてこれらの書面で定めていない場合は、まず、支払いの滞っている相手方の協力を得て公正証書を作るか、家庭裁判所に養育費を定める申立てを行い、すでにしてある合意内容を調停・審判の場で決め直す必要があります(従前と同額の養育費が認められるとは限りません)。


差押えの実際の手続としては、地方裁判所に、一定の書類を提出して、強制執行(差押え)を申し立てることになります。差押えができる財産は、不動産(土地・建物)、動産(車など)、債権(給料や預金など)ですが、養育費は子供が成人するまで長期にわたって支払われるものですので、定期的な収入である給料から継続的に取り立てることが理想的です。養育費について給料を差し押さえた場合、一度、強制執行の申し立てをすれば、その後は毎月継続して、勤務先から直接支払われます。


給料差押えの申立てにあたっては、相手方の住所と勤務先の情報が必要となります。これらの情報が分からない場合には、申立て前に弁護士等に依頼して調査する必要があります。


差押えについて注意すべきことは、相手方が転職した場合、強制執行手続がやり直しになることです。相手方が新しい勤務先を教えてくれない場合は、勤務先の調査から始まって強制執行の申立てをし直すことになります。その対策として、勤務先の報告を約束する条項を養育費の合意書で定めることが一つの方法です。


最終的な対策方法である差押えですが、実際に行われると相手方の勤務先には「養育費を支払っていない」という事実が知られてしまいます。そのデメリットは、職場に居づらくなって退職する、またはリストラ等の対象になる可能性があることです。退職してしまえば、せっかく給与を差し押さえた意味がなくなってしまいますし、定期的な収入が途絶えれば、ますます養育費の支払いが危ぶまれます。


養育費は、子供が成人するまで長きにわたって支払いが続くものです。支払いが一時的に滞ったとしても、相手の意向を無視した対応をすることは得策ではないでしょう。差押えができるという優位な法的地位を認識しつつも、いきなり差押えを行うのではなく、ご自身又は弁護士等の専門家の助けを借りて、まずは相手に任意に支払うよう求め、それでも支払ってくれない場合は、最終手段として給与等の差押え手続きに移行する方がよいでしょう。


■母子家庭の「8割」元夫からの養育費なし・・・弁護士が教える「不払い」対策(https://www.bengo4.com/c_3/c_1029/n_4410/)


【監修】澤藤 亮介(さわふじ・りょうすけ)弁護士


東京弁護士会所属。不倫、離婚問題などを中心に取り扱う。iPad、iPhoneなどのデバイス好きが高じ、事務所内の事件資料や書籍の全面データ化等、ITをフル活用して業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』などにも寄稿。


事務所名:新宿キーウェスト法律事務所事務所


URL:http://www.keywest-law.com



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