「安く済ませたい」社内勉強会の参考書籍を「PDF化」して共有…著作権侵害では?

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2016年11月21日 11:02  弁護士ドットコム

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業務上必要な知識を得るために、雑誌や書籍をコピー、もしくはスキャンして「ご参考まで」と社内で共有した経験はないだろうか。東京都内のIT系企業に勤める男性(20代)は、ある日、「次回勉強会資料」というタイトルのメールを開けて、驚いたそうだ。部署全員宛てに、ある専門書から数十ページを抜き出してPDFにした資料が添付されていたからだ。


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男性の所属する部署では、毎月、1冊の本を参考資料として、勉強会を開催している。「いつも1000円程度で買える書籍を購入しています。今回は3000円近くする専門書だったため、部で1冊だけ購入し、PDF化して共有したようです」という。


しかし、男性は「著作権的には、大丈夫なんだろうか?」と心配になって、PDF化の指示を出した上司に聞いてみたところ「だって安く済むし、購入の手間も省けるからね」とつれない返事だったそうだ。


雑誌や書籍を社内で「PDF化」して共有することに法的な問題はあるのだろうか。齋藤理央弁護士に話を聞いた。


●PDF化は「著作権侵害」になる?

まず、PDFファイルにする時点で「複製権侵害」の問題が発生します。著作物は原則として、著作権者でなければ「複製」、つまり、コピーすることはできません。


そこで、著作権者の許可なく、紙媒体をPDFファイルなどの電子データに変換すること、メール送信するときにデータをメールに添付して、メールサーバーに保存することは、基本的に複製権の侵害になってしまいます。


しかし、著作物は権利者の許可なく勝手に複製してはいけないのですが、例外として認められるケースがあります。例外の代表的なものは、「私的使用」、つまり個人や家庭内、あるいはこれに準じた範囲での複製や、「引用」のための複製です。


しかし、今回のように企業の勉強会で使用するための複製は、個人や家庭に準じた範囲の使用とは言えないでしょう。また、今回は「引用」といえるような使い方でもありません。複製が例外的に許されるケースには当たらないことになりそうです。


●メール送信が「自動公衆送信権侵害」となるケース

メールでPDF資料を添付して送信することは、「自動公衆送信権侵害」にあたる可能性もあります。


著作物は、著作権者でない限り、インターネット等を通して、公衆に送信することが禁じられます。ただ、対象が公衆ではなく特定個人であれば、原則的には自動公衆送信には当たらず、「自動公衆送信権侵害」とまでは言えないでしょう。


もっとも、メーリングリストなどで一斉送信する場合は注意が必要です。今回の事例のように、部署のメンバー全員に一斉送信されたケースでは、対象が特定少数とはいえず、自動公衆送信権侵害に該当すると判断される可能性が高いです。


●コピーして配ると「複製権」「譲渡権」侵害となることも

資料を当日、紙媒体でコピーして配っても、「複製」したことに変わりなく、「複製権侵害」の問題が生じてしまいます。さらに、配布することは「譲渡権侵害」となることもあります。


今回のケースでいえば、勉強会に本当に必要な部分だけを、勉強会のレジュメなどに引用という形で掲載してしまうというのは一つの方法かもしれません。


ただし、扱いとしては「引用」として、レジュメなどの補助的な役割でしか掲載できません。その場合も、引用資料と本体であるレジュメの区別がはっきりつくこと、引用資料の出所を明示すること等、守らないといけないルールがいくつかあります。


本当に必要な資料であれば、メンバー全員が購入するか、場合によって権利者に配布の許可を得るのが安心だと思います。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
齋藤 理央(さいとう・りお)弁護士
I2練馬斉藤法律事務所弁護士。事務所では、著作権を中心とした知的財産権(IP)や、ICT(通信技術)法務を「I2法務」と位置づけ特設サイトを設けるなど積極的に対応している。これまで写真、アニメ、建築物、商用ウェブサイト、BLOG、文書、編集著作物などさまざまな著作物についての相談を受け、訴訟対応、契約書作成など種々の対応を行ってきた。また、事務所は練馬駅徒歩1分に立地し練馬区民の一般民事などの相談にも積極的に対応している。
事務所名:I2練馬斉藤法律事務所
事務所URL:http://ns2law.jp/


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