相続放棄の落とし穴...骨肉の争いを防ぐ「遺産分割協議書」の作り方

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2016年12月03日 11:02  弁護士ドットコム

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親が亡くなった際の遺産相続について、しっかり備えている人は少ないのではないでしょうか。「不謹慎な気がして言い出しにくい」などと消極的になるのが人情ですが、それでは、いざという時に困ったことになるかもしれません。


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今回ご紹介するのは「父が亡くなったら、母に全財産が残るようにしてあげたい」という親孝行が泥沼の相続トラブルを招きかけた女性(Aさん)の事例です。(ライター・椙原繭実、監修・山本直樹弁護士)


● 相続放棄の落とし穴


Aさん(40代・主婦)は、父親が亡くなる以前から、実姉と「私たちが相続放棄をして、母親に全財産を残してあげよう」と合意していたそうです。両親は持ち家で、2人暮らし。預貯金はそれなりにあり、借金などの負債はなかったとのこと。


父親が亡くなると、当初決めていたとおり、姉妹で一緒に相続放棄しようと話がまとまりました。父親は「遺言書」を残していませんでした。ところが、相続放棄について何気なく知人に話したところ「絶対ダメ」と断言されたそうです。


なぜでしょう? その知人はAさんに「姉妹が相続放棄しても、母親に全財産が渡るわけではないよ。お父さんの両親や、お父さんのきょうだいにも、財産を相続する権利が発生してしまう」と忠告したそうなのです。


これは民法第939条と民法第889条の規定によるものです。仮にAさん姉妹が相続放棄をした場合、Aさん姉妹が相続開始時から相続人ではなかったことになります。すると、まず、被相続人(亡くなった父親)の直系尊属(祖父母など)、次に、被相続人の兄弟姉妹が相続人となるのです。今回のケースでは、祖父母などは既に亡くなっているため、父親のきょうだいが相続人になるということです。


「父は遺言を残さなかったので、今回、父の法定相続人は母と私と姉だけだと思い込んでいました。これには驚きましたね」と、Aさん。


● 「遺産分割協議書」とは?


Aさんは専門家のアドバイスを得るべく、相続放棄の手続きをする前に、弁護士事務所を訪ねて事情を説明しました。すると弁護士は「遺産分割協議書」を作るよう助言したそうです。


「遺産」と一口に言っても、不動産・動産・預貯金・株式などさまざまなものがあります。相続人が複数いる場合は、誰がどの財産をどのくらい相続するか、話し合って決めなければなりません。この話し合いを「遺産分割協議」といいます。遺産分割協議は、相続人全員の同意を得て初めて成立します。


Aさんによれば「私たちの場合は、母と姉と私の3人で協議を行い、遺産は全て母親が相続することを決めて文書にしました。父のきょうだいは、相続人ではないので話し合いにまじえていません」。


遺産分割協議は、話し合いだけで済ませることもできますが、それでは後々「言った言わない」のトラブルが生じる可能性がありますし、預金の解約などの各種手続きにおいて、協議の内容を記載した書面が必要になることもあります。このような場合のために、協議の内容を文書にしたものが「遺産分割協議書」です。


● どうやって作成すればいいのか?


遺産分割協議書に決まった書式はありませんが、以下の項目は記入するべきでしょう。財産をもれなく記載することも重要です。


・被相続人の「氏名」「生年月日」「死亡日」「本籍」「最後の住所」・相続する財産についての詳細と正確な情報・相続人の「氏名」「押印(実印)」「住所」


また、後日、新しく遺産が見つかる可能性を想定して「本協議書で定めた遺産以外の遺産が発見されたときは、相続人○○が全て相続する」という文言を記すことが多いです。


この文言があれば、新しく遺産が見つかっても再び協議を行う必要がなく、仮に行うとしても、スムーズに事が運びます(新しく遺産が見つかった場合に、その遺産をどうするかについて再度協議を行うつもりの場合は、先ほどの文言を「別途協議する」と記します)。


何も相続しない相続人も、遺産分割協議書にその旨を記し、署名押印します。


遺産分割協議書は、できれば公正証書(公証役場にいる公証人が、法律に従って作る公文書)にすると良いでしょう。費用は多少かかりますが、協議書の証明力がより強力になりますし、公証人という第三者が間に入り、相続人全員の意思を確認して作成するため、後々争いになることを避けられます。


遺言書があれば、このように遺産分割協議を行わなくても、遺言書に記載されたとおりに相続することになります。ただし、遺言書が民法の規定通りに作成されていないなど不備がある場合は、遺産分割協議などの手続をしなければなりません。


なお、今回のケースで、Aさん達は父親のきょうだいをまじえずに協議書を作成したということですが、法律上特に問題はありません。


遺産分割協議は、前述したように、相続人全員の同意を得て初めて成立します。今回のケースにおける相続人は、Aさん達が相続放棄をしていなければ、被相続人(亡くなった父親)の配偶者であるAさんの母親と、Aさん姉妹のみです。したがって、この3人で遺産分割協議が成立すればいいことになります。


● Aさん「急いで相続放棄しなくて良かった」


弁護士のアドバイスをもとにAさんは、「遺産分割協議書」を作成。さらにそれを公正証書にしました。


Aさんは「おかげで、母が生きている間は、母が父の遺産を使うことができ、また母が亡くなった時は、私たち姉妹が相続人になります。あの時、急いで相続放棄しなくて、本当によかったと思います」と語ります。


「今回のことで懲りたので、母には遺言書を作ってもらいました」とAさん。まさに備えあれば憂いなし、ですね。



【監修】山本 直樹 (やまもと なおき)弁護士


「社会貢献できる仕事をしたい」との想いで弁護士を志す。交通事故・相続・離婚問題など、身の回りで起こる身近な法律問題をまじめ一筋にサポートしている。


事務所名 :弁護士法人みお 


京都駅前事務所事務所URL:http://www.miolaw.jp/



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  • 公証人や弁護士を頼らないと出来ない社会はどうかと思うな。誰でもが日常的に使いこなせないような法律じゃダメだ。人を縛り付け弁護士等を儲けさせるだけの今日の法制度。
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