「偽装結婚」で逮捕、容疑者は「愛し合っていた」と否認…偽装と判断するポイントは?

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2017年01月30日 10:43  弁護士ドットコム

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「偽装結婚」したとして、都内に住む中国籍の女性(31)と日本人男性(53)が1月11日、電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで警視庁に逮捕された。


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報道によると、女性はマッサージ店従業員、男性は会社員で3年前に婚姻届を提出。同居はしておらず、女性は勤務先の店舗で寝泊まりしていたそうだ。警察は、日本での在留資格を取得するための「偽装結婚」と見ているが、女性は「夫婦として愛し合っていた」と否認しているという。


どんな場合に偽装結婚と言えるのだろうか。元検事の山田直子弁護士に聞いた。


●同居事実や生計などから「婚姻実態」を判断

ーー「在留資格」とはどのようなもの?


外国人が日本に在留するには、類型化された「在留資格」を申請し、法務大臣からの許可を受ける必要があります。そして、外国人は、在留資格で定められた範囲でのみ活動が許可されています。在留期間は、在留資格ごとに定められており、在留期間が経過後にも、日本での滞在を希望する場合、期間の更新許可を受ける必要があります。


在留資格の中には、「日本人の配偶者等」という資格があります。この資格の該当者は、日本人の「配偶者」もしくは「特別養子」または「日本人の子として出生した者」とされています。この資格では、活動範囲が制限されることはなく、資格外活動を理由として、在留期間の更新申請が不許可とされることはありません。


このため、外国人女性も、日本人の男性の配偶者という在留資格を取得しておけば、マッサージ店などで長期間働くことができることとなります。


ーー婚姻届を出しているのに、なぜ「偽装」結婚になるの?


結婚については、民法に婚姻として規定されています。婚姻の成立には、「婚姻届の提出」という形式的要件の他、「婚姻意思の合致」という実質的要件も必要とされています。


この婚姻意思の合致を、どう考えるかについては、さまざまな見解があります。ただし通常、婚姻届の提出をした当事者に、「婚姻成立の効果」を受ける意思がまったく認められないような場合には、婚姻意思の合致は認められず、「偽装」と評価されることとなります。


婚姻成立の効果として、夫婦に、同居し、協力し扶助する義務(民法752条)が生じるほか、夫婦財産制(民法760条等)の適用や、一方の死亡により相続権が発生する効果、その間に生まれた子が嫡出子の身分を取得する効果等があります。


婚姻意思の合致がないにもかかわらず、これがあると偽装して、婚姻届を提出する行為は、「虚偽の申立て」として、公正証書原本不実記載・同行使罪(刑法157条)にもあたります。


ーー具体的には、どの部分で判断される?


本件のようなケースでは、婚姻届を提出した後、同居した事実があるかどうか、定期的な接触があるかどうか、生計を共にしている事実があるかどうか、双方の親族に紹介・報告した事実があるかどうかなど、諸般の事情を考慮し、およそ婚姻実態がなく、また、それを代替する特別事情もないような場合には、偽装結婚と認定され得ます。


「愛しあっている」ことは、夫婦実態を持つ動機とはなりますが、実態の伴わない動機では、当然のことながら、不十分です。


ーー偽装結婚をすると、どのような処分になるのか


公正証書原本不実記載・同行使罪の法定刑は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。


偽装結婚を生業にし、これを繰り返していたブローカーであれば、偽装結婚当事者に比して、量刑が重くなる可能性はあります。ただ、初犯の当事者は、懲役刑に執行猶予を付した判決となるのが一般的なようです。


また、行政処分ではありますが、偽装結婚が認定されれば、日本人の配偶者等の在留資格が取り消される結果、当該外国人は、在留資格を失い、日本からの退去を余儀なくされることとになります。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
山田 直子(やまだ・なおこ)弁護士
奈良弁護士会所属(元検事)
事務所名:弁護士法人松柏法律事務所生駒事務所
事務所URL:http://shohaku-law.jp/


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