「アイドルはクソ」発言で大炎上した濱野智史が「僕がクソ」と涙の公開生謝罪...アイドル共産党宣言とは何だったのか

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2017年02月17日 14:42  リテラ

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リテラ

放送中に涙をみせる場面も(ニコニコ生放送『濱野智史の告解と懺悔──PIPとは何だったのか』より)

「アイドルはもちろんクソなんかじゃありません! 僕がクソなだけです!」



 社会学者・批評家にして、アイドルグループ・PIP(Platonics Idol Platform)のプロデューサーである濱野智史が、11日に配信されたニコニコ生放送の番組『濱野智史の告解と懺悔──PIPとは何だったのか』のなかで涙ながらこのように謝罪し、一時ツイッターでトレンド入りするなど話題となった。



 なんのことやらさっぱりわからない人も多いと思うので、順を追って説明したい。



 濱野智史は『アーキテクチャの生態系──情報環境はいかに設計されてきたか』(NTT出版)などで知られる社会学者で批評家。2008年に出版された著書のなかで彼は、2ちゃんねる、mixi、ニコニコ動画など国産のウェブサービスを例に挙げつつ、日本国内における情報環境について鋭く論じてみせた。



 この本の出版以降、濱野は気鋭の若手評論家として一気に注目を集めるようになる。しかし、その数年後、誰も想像もしなかった事態が起こるのであった。



 当時人気絶頂だったAKB48、特に、島崎遥香にハマってしまい彼はアイドルオタク化。12年には『前田敦子はキリストを超えた──〈宗教〉としてのAKB48』(ちくま新書)という、どうかしているとしか思えないタイトルの新書を出版し、さらに、AKBだけでなく他の地下アイドルのライブにも通いつめるようになる。そして、好きが高じて14年からは前述のPIPを運営。自らアイドルのプロデュースにまで乗り出してしまったのであった。



 気鋭の社会学者がアイドルをプロデュースという驚きの展開に、PIPはグループ開始当初こそ大きな注目を集めるのだが、良い時期は長くは続かない。メンバーは次々に卒業していき、翌年の10月には初お披露目の22人から6人にまで減ってしまった。



 悪いことは重なるもので、15年9月には、濱野がゲスト出演したトークイベントで失言を放ち大炎上を巻き起こす。彼は「アイドルってクソだなってわかったんで」と吐き捨てながらこのようにグループの内情を語ったのだ。



「僕、最近、グループアイドルってないな、と思ってきた。自分でつくってみてわかったんですけど、ある年頃の女性を集団でまとめると、まあ、ろくなことがない。嫉妬、妬み、いじめ、陰湿な何々、もうね、はっきり言って、マネジメントなんてできませんよ。『勝手にいじめとかやってろ!』とかなるんですよ、正直」

「アイドルグループの運営を1年ぐらい前から始めて思ったんですけど、これをまともなビジネスにしようと思ったら、ヤクザになるしかない。ウチのグループってメッチャ辞めていくんですけど、辞めさせなくなかったらヤクザになるしかない」



 本稿冒頭の「アイドルはもちろんクソなんかじゃありません! 僕がクソなだけです!」という謝罪は、まさにこの炎上発言のことを指している。



 そんな状況のなか、15年10月にユニバーサルミュージックから発売されたメジャーデビューシングル「僕を信じて」は芳しい成績を残せず、16年のはじめには残っていたメンバーの多くも卒業していき、PIPは実質的な解散状態に陥ってしまう。そして、濱野はSNSの更新も止め、アイドル業界からも批評界からも消えてしまったのだった。その間は関係者も連絡がつかなかったという。



 それから1年近くの時が経ち、ようやく濱野本人によるPIP失敗の総括と反省と謝罪が始まった。ニコ生の放送『濱野智史の告解と懺悔──PIPとは何だったのか』は、その本格的なものの第一弾となる。濱野は社会学者として、そしてアイドルプロデューサーとして、PIPの活動をどうまとめるのか、多くの人々が注目して放送を見守ったのだが、内容は少し肩透かしだった面は否めない。



 ボサボサの髪、ヒゲも伸びた状態でカメラの前に座った濱野は、とにかく自分にはマーケティングの才能も、クリエイターとしての才能も、マネジメントの能力もなかったと、徹頭徹尾自分を卑下する。



 会計管理ができておらずスタッフにもボランティアで仕事をお願いしていた局面が多くあったこと、音楽に関する素養がなかったため質の高い楽曲を生み出すことができなかったこと、自らのアンガーマネジメントができておらずメンバーを怒ったあとのケアを十分にしていなかったこと──。彼は徹底的に自分のいたらなさを責め続けながら振り返る。



「とにかく、黒歴史」。こんな破れかぶれな言葉まで用いつつ、自らの能力不足を責めながらPIPが挫折していく過程を説明する。そして、自らが引き起こした舌禍に関してもこう謝罪した。



「一番炎上したのが、グループアイドルプロデューサーでありながら『アイドルはクソだ』と発言し、本当はイベントのなかのリップサービスでしかなかったんですが、もちろん切り取られ、もちろん炎上し、その後なにもかも放置し、本当に、誠に申し訳ありませんでした」

「『在宅は死ね』という発言でも炎上しました。これは趣旨としては『現場に来てくれないと地下アイドルは収支が成り立たないんです』というつもりで発言したんですが、これも本当に申し訳ありませんでした。在宅なんて最高です。私だって元は在宅だったのに。なぜだ」



 そして、「アイドルについても、公的な場で、自発的に言及することはいっさいありません」と語り、PIPのメンバーひとりひとりにも30分以上もの時間をかけて謝罪の弁を述べていった。



 本人がそのように低い自己評価をくだすのは、結果としてPIPというプロジェクトが失敗に終わってしまった以上、仕方のないことなのかもしれない。しかし、ひたすら謝罪を繰り返すのに終始したその姿は、見る者にどこかモヤっとしたものを感じさせてしまったようだ。たとえば、ロマン優光は番組の感想をこのようにツイートしている。



〈はまのんが本当にやるべきだったのはオタ〜運営時代の冷静な総括で、気持ちはあるのだろうけど何も伝えられてないような奇妙な個別謝罪ではなかったとは思うんだけど。いや、予想以上にななめ下に飛んでいってる感じだったなあ...。〉



 多くの人がそのように感じたのは、結果はどうあれ、PIPというプロジェクトの根本にあった発想は意味のあるものだったと思っているからだ。活動開始当初にPIPが大きな注目を集めたのは、確かに「社会学者の濱野智史がグループアイドルのプロデューサーになった!」というスキャンダラスな面白みがあったというのはもちろんあるが、それと同時に、彼の掲げたPIPのコンセプトが重要な問題提起であるとアイドルファンの皆が感じたというのも大きい。だからこそ、この放送ではその「総括」が聞きたかった。



 PIPというアイドルグループは、アイドルとしての活動中「やりがい搾取」のようなかたちで薄給で働かされ、セカンドキャリアへの道も満足に用意されぬまま捨てられていく、そんなアイドル界の現状に異議申し立てすべくつくられたものだった。「週刊金曜日」14年6月6日号に掲載された「アイドル共産党宣言 搾取されないアイドルを自分の手で!」と題されたPIPお披露目直前の文章ではこのようにグループのコンセプトが説明されている。



〈このプロジェクトのコンセプトはずばり、"アイドルをつくるアイドル"というものだ。具体的には、「歌って踊るメンバー」として所属するだけでなく、たとえば、メンバーの一部には「プロデューサー候補生」としてもガンガン運営に参画してもらう。そして、将来的には独立し、新たなグループを立ち上げてもらう。(中略)それぞれのメンバーが独立したあかつきには、もちろん、新グループの経営者として然るべきお金が本人の懐に入るようにする〉

〈なぜ、そんなネットワークをつくろうとしているのか。理由は運営側による中間搾取を、なるべくゼロに近づけたいからだ。「少女たちが"悪い大人"に"やりがい搾取"されている」というブラックなイメージは、アイドル業界にどうしてもついてまわる。「ステージに立ちたい」「雑誌の表紙を飾りたい」など、憧れの舞台のためには低賃金でも重労働でも"我慢するアイドルの健気さ"につけこむ人びとがいる。実際、そうした「クソ運営」も密かに存在しているのだろうけど、僕は「クソ運営」を払拭し、「搾取されないアイドル」を実現したい〉

〈なぜそこまでするのか。僕は、本当にアイドルを「素晴らしいもの」と考えているからだ。その世界を、未来永劫サステナブル(持続可能)な形で残したい〉

〈いまこの社会は寛容さを失い、リベラルな価値観が衰退していく一方である。そんな中、僕はアイドルこそが、「自由」(リベラル)にとっての最後の希望だと、大マジで信じている〉



 番組の最後で濱野と対談した宇野常寛もまた、彼に対してこのように語りかけていた。



「僕がね、いち仕事仲間として、あと友人として、いち読者として付け加えることがあるのだとすれば、いまのインターネット社会に蔓延している"世間の空気"のようなものに対して謝罪すると、それが本人にとって必要だと思うのなら、僕がそれに対して口を挟む権利はないと思う。ただ、『それで禊は済みました。終わりです』ということではなくて、ここからもち帰ったものをかたちにした"仕事"を発表してもらうことが、言葉を選ばなくてはいけないけれど、嬉しいかなと思います。(中略)そのときにもアイドルそのものについて言及する必要はないと思う。それは失敗だったかもしれないけれど、PIPという構想があがったときの問題提起というのは非常に正しかったと思うんですね」



 社会学者・批評家として濱野智史はPIPの経験を本当の意味で総括することはできるのか。その仕事を貫徹させることが、PIPの活動を通して傷つけてしまったメンバーやスタッフに対する、何よりの謝罪となるのだろう。

(新田 樹)


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