裁判官「スマホ見せて」法廷でウソの証言見破り無罪…虚偽証言の女性、罪に問われる?

1

2017年04月06日 10:23  弁護士ドットコム

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

弁護士ドットコム

記事画像

「LINE」のやりとりから裁判官がウソを見破ったーー。スナックを経営する中国人女性を殴ったとして元従業員の中国人女性が暴行の罪に問われてた裁判で、東京地裁(三上孝浩裁判官)が2016年10月に無罪判決(求刑・罰金15万円)を言い渡していたことを毎日新聞が報じた。


【関連記事:ラーメン二郎「2度と来ないで」投稿が話題…食べきれない「大」注文客、拒否できる?】


毎日新聞によると、法廷で経営者のスマホの「LINE」を検証したころ、事件をでっち上げていた可能性があるとして、暴行を認める証拠がないと判断した。検察側が控訴しなかったため、無罪が確定した。


女性は2014年9月、未払い給与の支払いを経営者と口論となり退職したが、その際に経営者を殴るなどしたとして、暴行の容疑で逮捕された。女性は容疑を否認したが、別の中国人従業員と客が、暴行を目撃したことを証言をしたため起訴された。


公判でも証言をした従業員と経営者は同じ主張をつづけていたが、当初「親族などではない」とされていた2人が伯母とめいの関係で、以前同居していたことが判明した。 2人の証言の信用性の疑問が生じたため、裁判所が経営者にスマートフォンの提出を命じ、その場でLINEのやりとりを検証した。


すると、事件があったとされる日の1週間後、従業員が経営者に対して「(証言した)客がママのために(元従業員を)懲らしめる」などと送信していたことがわかった。経営者も「逮捕できる?」などと返していた。証人として出廷した客は「ママが平手でたたかれるのは見た」と証言したが、詳しい状況については「記憶にない」とくり返した。


判決は、客と経営者らとの間に「何らかの話し合いがあったと見るのが合理的」と指摘し、各証言について、「意図的に虚偽を述べている部分があり信用できない」として無罪とした。


元従業員の女性の無罪が確定したが、今後、虚偽の証言をしたとされる女性従業員、経営者、客らはなんらかの刑事責任を負う可能性はあるのか。また、無罪になった女性は、虚偽証言を見抜けず起訴した検察に対して補償を求めることなどはできないのだろうか。富永洋一弁護士に聞いた。


●「ウソはつきません」と宣誓した証人が虚偽の証言をしたら・・・

「刑事裁判において、証人として証言する場合、法廷で嘘をつかない旨の宣誓を行います。


『良心に従い、知っていることを隠さず、正直に述べることを誓います』などと書かれた『宣誓書』を読み上げます。宣誓文は、全国の裁判所によって表現に若干の違いがあるようです。


刑事訴訟法にも、証人には原則として『宣誓をさせなければならない』と規定されています(154条)。正当な理由なく宣誓を拒むと、刑事罰が科せられる可能性があります」


宣誓した証人がウソの証言をした場合、法的にはどのような問題があるのか。


「宣誓した証人が虚偽の陳述をした場合、偽証罪として3か月以上10年以下の懲役に処せられる可能性があります。


ここで、『虚偽の陳述』とは何かですが、『証言内容が客観的事実に反している場合』を虚偽という客観説と、『自らの記憶に反している場合』を虚偽という主観説とがありますが、実務では主観説が採られています。


主観説によれば、証人が自己の記憶にしたがって証言する限りは、仮にそれが客観的事実に反していても偽証罪とはなりません。


反対に、証言内容が客観的事実に合致していても、それが証人の記憶に反するものであれば偽証罪が成立することになります。


したがって、ことさらに自らの記憶に反する証言を行った場合は偽証罪が成立します」


今回のようなケースで、仮に偽証罪で起訴された場合、どのような点がポイントになるのか。


「仮に、偽証罪で刑事訴追(起訴)された場合、今回の事件とは別の刑事事件になりますので、担当する裁判官も別の裁判官になる可能性が高いです。


裁判官が変われば判断(事実認定)も変わる可能性がありますし、LINEなどの証拠が、ことさらに記憶に反して偽証したことを裏付け得る確かな証拠かどうかが争われる可能性はあり得ます」


●無罪となった被告人への補償は?

無罪判決を受けた被告人には、何らかの補償はないのか。


「刑事裁判で無罪になった場合、刑事補償法によって所定の補償が受けられます。


それとは別に、虚偽証言を見抜けず起訴した検察(国)に対して補償を求めることができるかどうかですが、単に『虚偽証言を見抜けなかった』というだけで補償(損害賠償)を求めることは難しいでしょう。


しかしながら、たとえばですが、検察官がLINEなどの証拠を意図的に隠ぺいしたり、証人に対して虚偽の証言をするよう教唆したような場合には、検察(国)に対して補償(損害賠償)を請求できる可能性があるでしょう」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
富永 洋一(とみなが・よういち)弁護士
東京大学法学部卒業。平成15年に弁護士登録。所属事務所は佐賀市にあり、弁護士2名で構成。交通事故、離婚問題、債務整理、相続、労働事件、消費者問題等を取り扱っている
事務所名:ありあけ法律事務所
事務所URL:http://jiko.ariakelaw-saga.com/


    ニュース設定