冬のO157は「季節はずれ」じゃない──冬に起きる食中毒の件数は夏の1.5倍!

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2017年04月14日 14:00  citrus

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「食中毒って夏に起きるものじゃないの?」「冷凍メンチカツのような冷凍品は年中問わず危ないの?」と疑問に思っていませんか。最近は、夏よりも冬の方が食中毒の発生件数が多くなっています。ご存知でしょうか、東京都における冬の食中毒事件数は、夏の約1.5倍です。

 

 

■食中毒の半数以上は「衛生意識の欠如」から摂取するノロウイルスが原因

 

11月初旬に神奈川県内で冷凍メンチカツからO157(腸管出血性大腸菌)が検出され、先日は東京都内でも同様の条件でO157の被害者が出たと報道されました。食品が傷みやすい夏ではなく、本格的に寒くなってきたこの季節に食中毒が話題になることに違和感を覚えている方もいるのではないでしょうか。

 

冬より夏のほうが食中毒の件数が多いと思うのは自然なことです。10年ほど前まではそうでした。この状況は2000年以降に大きく様変わりし、現在では、冬の食中毒の件数が夏の1.5倍と逆転しています。食中毒統計(平成23〜27年の平均)によると、年間の食中毒患者の半数以上はノロウイルスが原因です。その内、約65%は11月〜2月に発生しています。ノロウイルスは少量(100個以下)の摂取でも食中毒の原因となるため、わずかに付着した食品が原因で食中毒が起きてしまう可能性があります。

 

東京都において過去10年以上、ノロウイルス食中毒の原因は「ウイルスに汚染された食品(カキ等の二枚貝類等)を食べること」よりも「従業員の手指等を介して調理過程でウイルスが食品に付着し、その食品を食べること」が多くなっています。すなわち、ノロウイルスに感染した人がトイレの後などに手洗いが不十分で食品を汚染することが多いのです。ノロウイルスに感染しても、おう吐、下痢などの症状が出ない人もいるので気づかないこともありますが、特に調理に携わる人は手指などにウイルスを付着させないよう注意し、清潔にしていることが必要です。

 

ノロウイルスの食中毒の予防には、

・適切な手洗いの徹底

・塩素系漂白剤処理などによる施設内や調理器具などを殺菌

・汚染されている可能性がある食品への十分な加熱調理(中心部まで85〜90℃、90秒の加熱以上)

が重要です。

 

 

■夏の食中毒が激減した背景には何があったのか                   

 

冬の食中毒件数が夏を逆転し1.5倍となったのは、冬の食中毒が増えたのではなく、夏の食中毒が激減したのが要因です。この背景には問題への対処が功を奏したという実情があります。食中毒は一般的に「病原菌が付着(汚染)→増殖→加熱不十分(菌を死滅させない)な食品を食べる」ことで発生します。食中毒を防止するためには、発生原因に対して「菌を付けない」「菌を増やさない」「菌をやっつける」の三原則でアプローチします。夏の食中毒が減少した大きな理由は、三原則のうち「菌を増やさない」対策が効果を発揮したといえます。

 

夏に多発していた食中毒の原因は「腸炎ビブリオ」という細菌──日本の細菌性食中毒の代名詞で1998年には全国で約12,000人の患者が発生──でした。原因食品は刺身、寿司などの生で食べる鮮魚介類。この食中毒は、夏に海水中にいる腸炎ビブリオが魚介類の表面に付着して、まな板や包丁類などの調理器具などを介し刺身などを汚染、その後の温度管理不良により菌が大量に増殖して発生します。

 

2001年に食品衛生法の一部が改正され、魚介類には「流通・販売時には10℃以下で保存」「加工時には『食品製造用水』または『殺菌した海水』等の使用」「生食用鮮魚介類における腸炎ビブリオの菌数の基準設定」の要件が設けられました。これらの対策により、腸炎ビブリオ食中毒による事件数は2003年以降、急激に減少したのです。

 

また魚介類のみではなく、鶏卵あるいは卵を材料に使用した食品を原因として多発した「サルモネラ食中毒」への対策も効果をあげました。特に「鶏卵の生食用としての賞味期限表示」などの義務づけ、「8℃以下での保存・流通など衛生管理」などの徹底により、サルモネラ食中毒の件数は2000年から徐々に数を減らしました。夏の食中毒の減少は食品の“生産から消費まで”の過程で、“どこで菌がつくか、なぜ菌が増えるか”を分析し対策をとった結果、成功した例と考えられます。

 

 

■冷凍メンチカツのO157は「中心部までしっかり加熱」してやっつける

 

多くの食中毒原因菌が10万個以上に増殖し摂取して発症するのに比べ、現在、細菌性食中毒の原因菌の第一位である「カンピロバクター」や冷凍メンチカツの食中毒事件の原因菌である「O157(腸管出血性大腸菌)」は、数十〜数百個の少量菌で発症するという特徴があります。そして少量菌による食中毒は冬もたくさん発生しています。また、これらの菌は冷凍でも死滅しません。

 

カンピロバクターは健康な鶏や家畜の腸管内に分布していることから、鶏肉は高い確率で本菌に汚染されています。原因食品は「鶏レバー、ささみ等の刺身、鶏肉のタタキ」「鶏の湯引きなどの半生製品」「加熱不足の鶏肉の調理品」です。

 

一方、O157は元来、牛の腸管にいる菌。主に牛の生肉、加熱不十分な肉や内臓肉が食中毒の原因になります。冷凍メンチカツは原材料の中に牛肉が使われており、O157に汚染されていたものと考えられます。O157の食中毒防止策は“中心部までしっかり加熱をすること”です。今回の食中毒は加熱不十分が原因と言われています。たとえばお弁当の冷凍メンチカツは、朝に調理をして昼に冷めてから口にするため、食べる人は中心部まで十分に加熱されていないことを確認できない……こんなシチュエーションが想像できます。

 

これらの菌による食中毒を予防するには、

・肉の生食を避ける

・中心部まで加熱処理(75℃1分以上)を徹底する

・生肉を触った手や調理器具はよく消毒し、生肉から他の食品への汚染を防止する

などが重要です。

 

以上のことに加え、大前提として下痢やおう吐などの症状がある人は調理作業を行わないこと。被害を拡大するようなことには、ならないように。季節を問わず油断せずに、正しい知識と実践で食中毒を予防しましょう。

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