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<フランス大統領選で決選投票に進んだのは中道のマクロンと極右のルペン。第1回投票で敗退した2大政党はマクロン支持を表明したが、ルペンの支持者と同じく未来に恐怖を感じて極左のメランションに投票した支持者は誰につくのか>
驚くべきことに、今回は世論調査が当たった。
日曜にフランス大統領選の第1回投票が実施され、投資銀行出身で親EU、左右の支持者を集めて中道の政治運動「前進!」を立ち上げたエマニュエル・マクロン前経済相(39)と、極右政党・国民戦線の創設者である父親を除名して党首の座に就いたポピュリスト政治家、マリーヌ・ルペン(48)の両者が、決選投票に進出する見通しになった。
日曜夕方の時点における仏内務省の推計(開票率96%)によると、ルペンの得票率は21.4%、マクロンは23.9%だった。ほぼ事前の予想通りだったが、右派と左派の2大政党は有権者にはっきりと拒絶された格好だ。敗北を認めた中道右派の最大野党・共和党と中道左派の与党・社会党の両候補者は、相次いでマクロン支持を表明した。
【参考記事】仏大統領選、中道マクロンの「右でも左でもない」苦悩
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仏イプソスが公表した世論調査によると、決選投票に進んだ場合のマクロンの勝率は62%で、ルペンの38%を大きくリードしている。
対照的な2人
昨年のイギリスのEU離脱をめぐる国民投票や、ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプが接戦を演じたアメリカの大統領選で浮き彫りになった分断を再現するかのように、今年の仏大統領候補は単なる党派の違いではなく、対立する世界観を互いにぶつけ合う選挙戦だった。
【参考記事】大統領選挙に見るフランス政治のパラダイムシフト
ルペンはEU離脱と保護主義を掲げ、つい先日も第二次大戦中にユダヤ人を一斉検挙したフランスに国家としての責任はないとする持論を展開して物議を醸した。一方のマクロンはEUを擁護する立場で、フランスはもっと世界とつながるべきだと考える。アンゲラ・メルケル独首相の側近であるペーター・アルトマイヤー独首相府長官は、「フランスとヨーロッパは共に勝利できる」とツイッターに投稿し、マクロンの決選投票進出を歓迎した。
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「未来に自信をもち、楽観的で、オープンな経済を望むフランス国民がいる反面、未来を怖れ、将来安泰だった古き良き時代を懐かしむ人々もいる」と米コロンビア大学のアレッシア・ルフェビュール准教授(フランス政治)は指摘する。
日曜に国民戦線の大統領候補として過去最高の得票率を記録したルペンは、選挙戦を通じて党のイメージをより親しみやすくしようと試みていた。だが「文明が脅かされている」という、彼女の核心的なメッセージは変えなかった。
【参考記事】極右ルペンの脱悪魔化は本物か
「グローバル化は我々の文明をリスクにさらしている」とルペンは勝利演説で訴えた。
それとは対照的な演説で、マクロンは言った。「私は希望と楽観主義を代弁する。フランスとヨーロッパの未来のために」
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5月7日に予定される決選投票で、2大政党の支持層を囲い込む力があり、勝利を収めそうなのはマクロンの方だ。だがルペンに勝ち目はないと判断することを、疑問視する専門家もいる。
ルペンはマクロンにとって「非常に手ごわくて危険な対抗馬だ」とコロンビア大学のアイリーン・フィネル・ホニマン准教授(ヨーロッパ経済史)は指摘する。「追いつめられたルペンは、なりふり構わず立ち向かうはずだ」
ただし、自国第一の極右主義を標榜する彼女の主張を一部の有権者が受け入れるとしても、経済政策は「ほとんどが支離滅裂」だ。マクロンが勝機を広げられるのはそこだ。つまりフランスがグローバル経済から手を引けば、置き去りにされた労働者層はさらに逼迫するのだと、有権者を説き伏せればよい。ただし彼は既存政党の後ろ盾なくして、それをやってのける必要がある。それも1年前に「前進!」の結成にこぎつけたばかりの身で。
異例の勢力図
逆に決選投票から姿を消したのは、過去何十年もフランスの政治を動かしてきた主流派の2大政党だ。フランスの有権者の政治への関心の高さは健在で、今回の第1回投票も日曜午後の時点で投票率が69%に達した。だが既存政党の政治家にうんざりしている有権者は、共和党と社会党の現職議員を敬遠する(支持率が1ケタ台に落ちた社会党のフランソワ・オランド大統領は、そもそも立候補を見送った)
伝統的な左右の既存政党は機能不全に陥っていると、ルフェビュールは言う。フランス人にとって「自分たちがどの政党を支持するかは、もはや重要でなくなった」。
2大政党が擁立した大統領候補が敗退したのを見ても、その傾向は明らかだ。つい数カ月前には次期大統領の最有力候補と目された共和党候補フランソワ・フィヨンも、選挙戦終盤で大躍進した極左・左翼党の古参ジャンリュック・メランションに肉薄されて力尽きた(フィヨンは選挙中、100万ユーロに上る妻子の架空雇用疑惑で訴追されて支持率が伸び悩んでいた)。社会党候補のブノワ・アモン前国民教育相も、得票率わずか6.5%だった。
今後は敗退した候補者の言動に世間の注目が集まる。決選投票で有権者がどちらの候補に投票するか決めるのに、影響力を持つからだ。敗北を認めてマクロン支持を表明したフィヨンとアモンは、国民戦線がフランスにもたらす脅威を激しい言葉で訴えた。フィヨンは極右の勢いを阻止する必要があると主張。アモンはさらに踏み込み、政敵と共和国の敵は区別すべきだと息巻いた。
ただし今回の投票で露呈したのは、有権者がかつてほど主要政党の言い分に耳を傾けなくなったことだ。むしろ、コロンビア大学のフィネル・ホニマンがフランス版のバーニー・サンダースになぞらえたメランションのほうが説得力を持つかもしれない。得票率も19.5%と健闘した。彼は国民は良心に従って投票すべきだと主張して、有権者が決選投票でどちらに投票すべきかかについて明言を避けた。
【参考記事】フランス大統領選3位に急浮上、左翼党メランションの脅威
その結果、大きな疑問は渦巻いたままだ。ルペン支持者と同じくフランスの未来に不安と怖れを抱くメランションの支持層が、果たしてマクロンに投票するのだろうか。或いは極左から極右に乗り換えてでもルペンに票を託すのか。それとも投票しない選択肢を取るのか。
フランスとヨーロッパ、そして世界中が、2週間後に出る答えを待っている。
(翻訳者:河原里香)
From Foreign Policy Magazine
エミリー・タムキン
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