BOOM BOOM SATELLITES、川島不在のなかラストライブを実現

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2017年06月23日 18:52  CINRA.NET

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BOOM BOOM SATELLITES
■ボーカリスト不在で、どのように歌が表現されたのか?

2017年6月18日、新木場STUDIO COASTにて、BOOM BOOM SATELLITES(以下、BBS)のラストライブ『FRONT CHAPTER - THE FINAL SESSION - LAY YOUR HANDS ON ME SPECIAL LIVE』が開催された。BBSにとって、EX THEATER ROPPONGIで行われた『SHINE LIKE A BILLION SUNS PREMIUM GIG』以来、2年3か月ぶりのワンマンライブとなる。

しかし、昨年10月9日に逝去した川島道行(Vo,Gt)が不在のなか、一体どのようにライブが行われるのか、幕が上がるまで誰も想像がついていなかった。開催が発表された3月に中野雅之(Ba,Programming)を取材した際は、中野自身でさえも「できるのかな、本当に!? 怖えー」なんて発言をしていた(CINRA.NET掲載インタビュー記事:BOOM BOOM SATELLITES中野が語る、故・川島への想いと未来)。

開演前から会場内にオーディエンスの拍手が湧き上がるなか、“LAY YOUR HANDS ON ME”からライブはスタート。ステージの前後にスクリーンが設置され、映像総合演出を務めた関和亮と、柿本ケンサク、長添雅嗣、山本太陽といったこれまでBBSの作品に関わってきたクリエイターたちによる映像が、曲に合わせて映し出される。

そして、中野と、サポートメンバーである福田洋子(Dr)、山本幹宗(Gt)の生演奏に交じって、川島の歌が響き渡る。この「歌」は、この日のライブのために、中野が既存の音源から音を選び抜き、さらに緻密なエディットを加えたものも一部あったように聴こえた。3曲目“DRESS LIKE AN ANGEL”が演奏されたあと、ステージ前の紗幕が上がって見えたのは、川島の立ち位置にマイクスタンドとMarshallのギターアンプ、そして会場内で一番眩しく光るライトが置かれていることだった。

■必要以上の湿っぽさはない、「芸術的」なロックライブを作り上げた

BBSにとって「最後のライブ」は、追悼でもレクイエムでもなく、これまで彼らが突き詰めてきたことの集大成を見せるかのようで、それを一言で集約するならば「芸術」であった。中野と川島の二人が出会った頃から、ニューウェイブ、パンク、デジタルロック、エレクトロニックミュージックなど様々な音楽を昇華してきたBBSだが、最終的にたどり着いた地点は、「芸術」と「ロックミュージック」の見事な融合表現であったと言えるのではないだろうか。辞書で「芸術」という単語を引くと、そこには「美を追求・表現しようとする人間の活動」(デジタル大辞泉)と書かれているが、この日のライブは、とにかく美しかったのだ。

スクリーンに映し出される映像は、「宇宙」「水中」「細胞」などを彷彿とさせるものも多く、BBSが最後の作品(『LAY YOUR HANDS ON ME』)で描いていた「自然」と「生命」の掛け合わせを表しているかのようだった(CINRA.NET掲載レビュー記事:BOOM BOOM SATELLITES、活動終了。最後の歌に涙はいらない)。

人間は、どうしたって自然の原理には抗えない、ある意味、脆くて残酷なものだ。でも、こうして楽器を弾けたり映像を作れたり歌を歌えたりするような、器用で自由な身体と心を持つ人間は実に美しいのだと、BBSの肉体的なダンスミュージックが象徴してくれているように思えた。人間は、「美を追求しようとする活動」ができる、唯一の生命体なのだから。

そして、照明の組まれ方も印象的だった。照明というのは、基本的にステージ上を彩るために仕込むものだが、この日は、ステージの横側やフロアの上にも組まれており、フロアも彩るような演出だったのだ。そういった照明と映像が見事に相まって、オーディエンスを日常から一歩離れた場所へ連れていき、まさに光でEMBRACE(8thアルバムタイトル)してくれているかのような演出を実現させていた。

きっと「悲しい」という感情を抱えて、この場に足を運んだファンもいただろう。しかし、フロアにいたオーディエンスは、1曲目からステージ上にいるBBSに対して、前向きな眼差しを向けているように見えた。そして2曲目“NINE”から、その眼差しに寄り添うように、黄色い温かなライトがフロア全体を包み込んだ。約100分間、これほどまでに「美しい」という言葉が相応しい音楽ライブを観たことないと言えるような芸術的な空間を、BBSチームとファンはともに作り上げていた。

■エゴがないのは、中野雅之だった

川島の生前中、中野は何度も川島の声やボーカリストとしての佇まいを「エゴがない」と表現していた(CINRA.NET掲載インタビュー記事:BOOM BOOM SATELLITES、残酷な運命から希望を描いた傑作)。でも、この日やっと気づけたのは、実は一番エゴがないのは中野自身なのだということ。

川島が悔いを残さないようにサポートし、最高の最後の作品を完成させたあと、中野の意識はBBSのファンに対して強く向いていた。3月の取材時、一人でインタビューを受ける意義を聞いた際には、「(話さないと)ファンが置いてけぼりにされた感じになっちゃうんじゃないかなと思って」とこぼしていたことを、ステージ前方に立ってギターをかき鳴らす姿を観て思い出した。フロアを彩る照明然り、ギターを思いっきり弾く1音1音然り、まるでファンにプレゼントを贈っているかのようだったのだ。

ボーカルは、すべて川島の声が流れていたわけだが、中野も歌詞に合わせて口を動かしているのが印象的だった。その表情を観るたびに、「川島くんは、僕の人生観、死生観、それから音楽に、ものすごく影響を与えた人でした」と話す中野がこの場に立っているということは、川島の存在もここにあるのだというふうに思えた。

■「BOOM BOOM SATELLITESでした! ありがとうございました!」

最後は、『LAY YOUR HANDS ON ME』の最後に収録されている“NARCOSIS”が演奏され、美しいシンセの旋律が走馬灯のように流れると同時に、スクリーンには過去のライブ、ドキュメンタリー、ミュージックビデオなどが断片的に繋ぎ合わさった映像が流れた。そして、川島の声で「最後に言いたいことがあります。BOOM BOOM SATELLITESでした! ありがとうございました!」(2013年の武道館ライブのMCより)と流れ、大きな拍手に包まれるなか、中野は何度もお辞儀をしてから、この日初めて言葉を発した。

「長いこと支えてくださって、言葉がありません。本当にBBSのことを大事にしてくれて、ありがとうございました。あなたたちは僕と川島くんが一番大切にしてきたもので、誇りです。これからも僕たちが作ってきた音楽を大事にしてください」

BBSの最後のライブは、1990年の結成時から今日までのBBSの時間を、川島道行の人生を、そしてこのライブを観ていたファン一人ひとりの人生を、大肯定して、さらに明日へと送り出すようだった。
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