この夏も『パイレーツ・オブ・カリビアン』が大暴れ

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2017年06月30日 10:32  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<スパロウ船長の冒険を描く人気シリーズの第5弾は、演技も映像もストーリーも合格点で最後まで楽しめる>


『ワイルド・スピード』はこの春にシリーズ8作目が登場し、リドリー・スコット監督は9月公開の『エイリアン:コヴェナント』でまたエイリアンを生き返らせる。ますますシリーズ作品全盛のハリウッドは、引き際を知らないらしい。


同じようなネタを使い回せば、たいてい行き着く先は2つに1つ。新しい監督を投入して新鮮味を加えつつうまく観客の期待に応えていくか、マンネリ化して失速するかだ。


ヨアヒム・ローニングとエスペン・サンドベリが共同監督したシリーズ最新作『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』は、どちらかといえば前者。冒険譚に軽やかなユーモアを織り交ぜ、アクションをたっぷり詰め込んだ。


とはいえ、傑作だった第1作『呪われた海賊たち』のような魅力には欠ける。カリスマあふれるキャラクターとダークな味わいは消え、何より残念なことに型破りなストーリーも切り捨てられてしまった。


5作目となる今回も、物語は海賊ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)と宿敵の対決を中心に展開する。ただし敵を演じるのは、ジェフリー・ラッシュでもビル・ナイでもなくハビエル・バルデム。だからスパロウもうかうかしてはいられない。


バルデム扮するサラザールはかつてスペイン海軍の軍人で、「汚らわしい海賊ども」を血祭りにあげることに人生をささげていた。ところが当時まだ少年だったスパロウに魔の三角海域バミューダ・トライアングルに誘い出され、命を落とす。


亡霊となった彼は乗組員と共に魔の海域に閉じ込められてしまうが、呪いが解けたのを機に脱出し、復讐を誓う。相手はもちろんスパロウだ。


【参考記事】『ハクソー・リッジ』1度も武器を取らず仲間を救った「臆病者」


肝心のデップが魅力不足


『007 スカイフォール』や『ノーカントリー』を見た人はご存じだろうが、悪役をやらせたらバルデムは超一流。今回のサラザールは黒い液体を吐きつつ、顔がひび割れて腐っていく。まさに身の毛がよだつほど恐ろしい――と言いたいところだが、実はそうでもない。


なぜか。第1にサラザールは陸に上がれないから、すごみに欠ける。しかも復讐の矛先を向けるのは海賊限定なので、それほど冷酷に思えない。汚い手を使うのも、海賊退治のためなら理解できなくもないし、まともな軍人なら海賊を目の敵にするのが普通だろう。スパロウの名を呼ぶ以外に、あまりセリフがないのも痛いところだ。


ヘンリーたちの冒険に巻き込まれるカリーナは聡明で気の強い天文学者 ©2017 DISNEY ENTERPRISES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.


しかし、本作の最大の弱点は主演のデップだ。これまでの作品で見せたシャープさは影を潜め、自分自身のパロディーに成り下がってしまった。わざとらしく悲鳴を上げ、泥酔し、運だけでピンチを切り抜けるシーンがとにかく多い。これでは頭は切れるがどこかトボけたミステリアスな海賊というよりも、『アリス・イン・ワンダーランド』のマッドハッターが海賊のコスプレをした感じだ。


幸い、今回もラッシュがキャプテン・バルボッサ役で登場。03年の1作目以降は地味な扱いだったが、今回は出演シーンが大幅に増え、一番の見せ場にも絡む。百戦錬磨のバルボッサは相変わらず狡猾な策士だ。海の覇権を守ろうとサラザールと怪しげな契約を結んだりもするが、優しい一面も見せる。


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新たなヒロインに注目


3作目の『ワールド・エンド』で恋に落ち、結婚したウィル(オーランド・ブルーム)とエリザベス(キーラ・ナイトレイ)が、10年ぶりに登場するのもうれしい。


彼らの息子ヘンリー(ブレントン・スウェイツ)と行動を共にする天文学者カリーナ役のカヤ・スコデラリオも光る。男だらけのキャストの中で一歩も引かず、鼻っ柱が強く皮肉屋の女性を魅力的に演じた。


スタッフもいい仕事をしている。作曲家のジェフ・ザネリはハンス・ジマーによるおなじみのテーマを生かしつつ、趣のある音楽を作り出した。撮影監督のポール・キャメロンはファンタジー色の強い場面で才能を遺憾なく発揮。お化けのサメがスローモーションで宙を飛ぶシーンには、思わず見とれてしまう。


つまり『最後の海賊』はどこを取っても合格点。要素を盛り込み過ぎた前2作と違って、シンプルな復讐劇にまとめたのも賢明だった。


銀行強盗やスパロウが危機一髪で処刑を逃れる場面など、印象的なアクションシーンも盛り沢山。第1作の大人っぽい味わいにこだわるファンには物足りないかもしれないが、最後まで楽しめるのは確実だ。




[2017.7. 4号掲載]


エイミー・ウエスト


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