カネも時間もかかるイタリアの離婚、複雑な裁判手続きで「結婚も離婚も一度が限界」

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2017年08月12日 08:22  弁護士ドットコム

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恋やアバンチュールが大好き。肉食なイメージのあるイタリアですが、実は、世界でも有数の「離婚が難しい国」なのだそうです。イタリア人弁護士の夫とイタリアで暮らして28年のライター、タケイ・ルチアさんが、彼の国の離婚事情をお届けします。


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●イタリアの離婚、どうして面倒くさい?

「旦那さんと離婚したいんだけど」


先日、私と同じくイタリアで結婚した女友達のミヤ(タイ出身)から、そんな相談を受けました。思わず、私は、「えー、大変! この国で離婚するのって、簡単じゃないよ」と言ってしまったのです。私の夫・ジョルジョは、ローマで刑事や家事を取り扱う弁護士。イタリアで離婚するのがどんなに大変か、耳にタコができるほど聞かされていました。


イタリア在住10年になるミヤですら知らないイタリアの複雑な離婚事情について、改めてジョルジョにきいてみると、ああ、やっぱりこの国の離婚は特殊だなあと思うことばかり。そこで今回、この原稿を書いてみることにしました。


イタリアの離婚はなぜ面倒くさいのか。ポイントとしては、次の3点です。


1)必ず裁判所を通す必要がある


2)離婚成立まで時間もお金も必要


3)民事離婚の次は、宗教離婚の手続きが必要


特に3つ目にあげた、宗教がかかわってくるのが、この国の特徴でしょう。かつてイタリアの国教でもあったカトリックは、結婚を終生にわたる神聖な契約ととらえており、離婚は認めていません。


恋に情熱的なラテンのイメージが強くあるかもしれませんが、今でもカトリックの国であるイタリアで、離婚が法的に認められたのは、1970年になってからのことでした。


●1)必ず裁判所を通す必要がある

まず1点目は、「協議離婚制度」がないがゆえの難しさ。これは協議離婚が離婚全体の9割を占めるという日本では考えられないことでしょう。


日本では役所に離婚届が受理されれば、離婚は成立しますが、イタリアでは、必ず裁判所を通す必要があります。裁判所で話し合いにより離婚が成立することもありますが、一方が離婚を希望するものの、一方は拒否しているようなケースでは、法定離婚理由に基づき、審理されます。


法定離婚理由には次のようなものがあります。


・犯罪を犯した


・別居期間が半年以上


前述したように、1970年まで「離婚」という手続きが存在しませんでした。今でも年々、離婚に関する法律が変化しているとはいえ、日本のように簡単に離婚はできないのです。


●2)離婚成立まで時間もお金も

離婚成立まで時間がかかることも特徴の1つです。離婚を決意してから、実際に離婚できるまで「一生かかる」と冗談混じりに語られるほど。


まずは、法的別居という手順を踏まないといけません。裁判所を通さずに別居を始めても、何年別居したところで、離婚を請求することすらできないのです。この点も、一定の別居期間が、夫婦関係の破綻とみなされる日本との大きな違いではないでしょうか。


ちなみに、別居を始めるのにも、手続きが必要です。普通は、離婚希望者たちが、別居に同意している旨を「協議別居申請書」に記入し、住民票がある地区の裁判所に提出。ただ、この時点から別居期間の開始までは、約半年を必要とします。


けれども、この法的別居を始めないと離婚に向けた話し合いにすら進めないのです。


法的別居は、あくまでも離婚に向けて前進しただけのこと。ここから親権、養育費、家賃、各ローン、生活維持費、などの決め事をしていきます。子どもがいる場合は、別居期間中の子どもの国内外出国をどうするかなど、取り決めも必要です。


ちなみに、夫のジョルジョに言わせれば、これでもスピードアップしているそう。


「1986年までは5年間、1987年から2015年までは3年間も、法的別居をする必要があった」


ようやく2015年からは、法的別居1年で調停離婚に進み、法的別居6ヶ月で離婚に進めることが可能になりました。


法的別居後の離婚の方法は、大きくわけて2つ。裁判所での協議による離婚、あるいは判決がくだされる離婚。離婚成立まで、前者が平均250日くらい、後者が平均500日程度かかります。当然、弁護士費用や別居費用などで、お金もかかります。


●3)民事離婚の次は、宗教離婚の手続きが必要

以下は、あくまでも「民事結婚の離婚」のことです。民事での離婚ができても、人口の大半を占めるカトリックたちの「教会婚」は継続しますので、これはこれで手続きをしなければいけません。最終的には教会裁判所が判決をくだすことになります。


非常に複雑な手続きになりますので、別の機会にお話しましょう。


●イタリアが「晩婚」な理由は結婚制度にある

以上は一般例であって、実際にはもちろん、ケースバイケースです。


それでも言えることは、イタリアの離婚は長い。その一言に尽きます。ですから結婚するのが怖いので、今の若者は晩婚型に、さらに婚姻届を出さない事実婚の人たちも多くなるのです。


バツイチ男性は給料の多くを前妻や子供に支払いに苦労するため、新しい生活や、再婚が難しくなるという人もいます。特に外国人の伴侶と別れる場合には、経済的にも大変になります。離婚手続き中に、母国へ帰ってしまう事例もたくさん。


こんなプロセスを話しているうちに、友達のミヤは、面倒くさい離婚よりも、旦那さんと仲直りして静かに暮らしたほうがいいと、思いなおしたようです。


イタリアでは、結婚するのも大変ですし、離婚もさらに大変です。超大金持ちのみ、離婚、結婚を繰り返すことができますが、庶民は1回の結婚で充分というのが本音でしょう。イタリアにいると、なぜ日本はこんなに結婚、離婚が簡単なのかしらと不思議に思えてきます。



【著者プロフィール】


タケイ・ルチア


現在ローマ在住。芸術研究家、聖絵画研究家、演出家(scenografa 1994年卒業Accademia di belle arti)、芸術博士(Dott.ssa storia delle arti 2014年 Universita di roma sapienza)。その他、イタリア国観光ガイド、通訳、添乗員免許取得。夫は、刑事事件を主に扱う弁護士。


(弁護士ドットコムニュース)


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  • かつては「教会内で神様の前で結婚する」って誓ったら、それに従って頑張ろうと思うのが当たり前だったんだが、当たり前で無くなった昨今。私の仕事も減っている。
    • イイネ!6
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