なぜ米海軍は衝突事故を繰り返すのか

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2017年09月07日 20:12  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<8か月で4件のワースト記録、しかもすべてが横須賀を拠点とする第7艦隊に所属する船ばかり。いったい何が起こっているのか>


米海軍はここ2カ月半、平時に航行中だった洋上艦の衝突事故が相次いだ。過去41年間で最悪だ。


6月の米イージス艦「フィッツジェラルド」と8月のイージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」(以降、マケイン)は、いずれも太平洋西部で通常の「単独航行」を実施中に民間船舶と衝突し、乗組員17人が死亡した。


それだけではない。2月には米海軍のイージス巡洋艦「アンティータム」が横須賀市沖で座礁、5月にはミサイル巡洋艦「レイク・シャンプレイン」が日本の公海上で韓国漁船と衝突していた。8カ月の間にこれだけ事故が相次げば、米海軍の洋上艦の即応力や運用能力を疑問視する声が上がるのも当然だ。


【参考記事】米駆逐艦衝突、艦隊一時停止で太平洋での防衛が手薄に


さらに気がかりなのは、事故を起こしたすべての艦船が、神奈川県の横須賀基地に拠点を置く前方展開海軍部隊(FDNF)、第7艦隊に所属していたことだ。


マケインの衝突事故を受け、米海軍は即座に3つの対応を取った。


■事故原因や安全性を確認するため、世界各地に展開する全艦隊に24時間の「運用停止」を指示した


■60日以内に洋上艦隊の運用や訓練、人員、装備を包括的に見直し、とくに事故を起こした第7艦隊に対して徹底検証するよう指示した


■第7艦隊のジョセフ・アーコイン司令官を、統率力に疑問が生じたとして解任した


真摯な対応だが、これで十分とは言いがたい。


アメリカ国民の多くは、なぜ「世界最高の海軍」が基本的な操船や航行でこれほどひどい事故を繰り返すのか、理解できずにいる。GPS(全地球測位システム)やレーダーなど新型技術を搭載した駆逐艦なら、簡単に衝突を避けられるはずではないか。


【参考記事】トランプ政権の最後のとりでは3人の「将軍たち」


だが海軍、とくに第7艦隊には、事故を起こしそうな兆候がたくさんある。


「基本中の基本だった」


海軍上層部は、艦隊の即応力が低下していると繰り返し警告してきた。米議会や海軍が作った複数の報告書も、海上任務の長期化や、訓練不足、兵士の過労、メンテナンスの遅れについて警告している。


海軍による事故調査で、衝突を起こしたマケインやフィッツジェラルドの乗組員に業務上の過失が見つかるのは間違いない。だが、第7艦隊そのものを徹底的に調査しない限り、艦隊が弱っている本当の原因は明らかにならないだろう。


海軍上層部による報告書や警告は、主に国防予算の削減による艦船の老朽化を問題視してきた。だが事故が多発する最大の原因は、基本的な操船や航行をこなせる乗組員が減ったことだ。


米海軍太平洋艦隊のスコット・スウィフト司令官は事故当時の状況について、「基本運用の基本」だったと言った。なぜ海軍はそんな状況で衝突事故を起こすほど落ちぶれたのか。


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以下は最も現実的な3つの理由だ。


1)艦船数と人員が削減され過ぎて、運用ニーズに追いつかなくなった


海軍が保有する艦船は、2001年の316隻から現在は277隻まで削減されたが、今も従来のまま約95〜100隻の艦船を絶えず世界中に派遣している。結果的に海上任務は長期化し(半年〜9カ月間、もしくはそれ以上)、メンテナンスは後回しになり、装備の不具合が増えた結果、運用可能な艦船にますます負担が集中している。


最終的に、運用とメンテナンスが優先され、訓練(と睡眠)にかける時間が削られる。現状、乗組員は十分な訓練を受けていないばかりか常に疲れ切っており、仕事の質が格段に落ちている。


操船より電子技術優先


また過去14年間で艦隊の訓練や人材育成を疎かにした結果、若い乗組員が操船や航行技術に関する集中的な訓練を十分受けられなくなった。


たとえ訓練の時間ができても、GPSや電子海図、レーダーなど新型の航法装置の使い方を学ぶことが優先される。


海軍では毎年兵士のおよそ3分の1が海上任務につく。その合間を縫って、衝突事故を回避するための見張りや操船を教えるのは一苦労だ。まして熟練の兵士に育てあげるのは至難の業と言える。


2)前方展開する艦隊の運用ニーズが極度に高まり、艦船や乗組員の運用能力を認証する時間もとれない


各艦船の任務は、任務の遂行能力ではなく、時間的な空きがあるかどうかで決まる。


第7艦隊の中でも潜水艦部隊は、適切な認証を取得していた。


3)国防予算削減のつけが回ってきた


──以上の点を踏まえ海軍と議会は、洋上艦の操船術と航行技術の習得を優先させるべきだ。乗組員が最も基本的な操船を習得できるよう、訓練に時間や予算を割かなければならない。早急に。


(翻訳:河原里香)


This article first appeared on the Daily Signal.



トム・カレンダー(米ヘリテージ財団シニアフェロー、軍事専門家)


このニュースに関するつぶやき

  • 米国価値観崩壊だからね。自称自由民主なのに、自国の民主を弾圧、他国を侵略。
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