トランプ入国禁止令に追加されたチャドはアメリカの同盟国

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2017年09月27日 17:22  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<チャドを拠点とする対テロ作戦はどうなるのか。非イスラムのベネズエラと北朝鮮を加えて反イスラム色を薄める狙いも?>


ドナルド・トランプ米大統領は9月24日、同日に期限切れとなった大統領令に代わる新たな入国禁止令を発表した。新たな対象国は、チャド、イラン、リビア、北朝鮮、ソマリア、シリア、ベネズエラ、イエメンだの8カ国。ホワイトハウスによれば「危険なテロと国境を超えた犯罪の時代に、米国民の安全を守るための重要な一歩」だ。


だが、本当にそうか。ベネズエラと北朝鮮が対象国に追加された背景は、まだ理解できる。両国とも米政府との対立が激しさを増し、米政府がすでに厳しい経済制裁を科している相手だ。だが、チャドが対象国に追加されたのには、専門家も驚きを隠せない。チャドは、アフリカにおけるテロとの戦いでアメリカの最も緊密に連携する国の筆頭だからだ。


「入国禁止の対象国にチャドが追加されたことに困惑している」と言うのは、米シンクタンク、戦略国際問題研究所でアフリカ・プログラムの副所長を務めるリチャード・ダウニーだ。「まったく意味不明で、理由を理解しようという気にもならない」


苛立つ関係者


アフリカ中部の内陸国チャドは、リビアやスーダンや中央アフリカ共和国など紛争や暴動が絶えない国に周囲を囲まれており、同地域でのテロとの戦いで重大な役割を果たしている。チャドにはイスラム過激派組織ボコ・ハラムの掃討作戦に従事する多国籍部隊が本部を置き、チャド軍の兵士も戦闘に参加している。フランス軍もアフリカで対テロ部隊の本部をチャドに置く。しかもチャドは、アフリカで「テロの脅威に対抗し暴力的な過激思想の拡散を防ぐ」ことを目標にアメリカが主導する「トランス・サハラ・対テロパートナーシップ」(TSCTP)の参加国でもある。


トランプ政権は、チャド国籍を持つ人々のアメリカへの入国を禁止する根拠について、「チャドが公共の安全やテロに関する情報共有を十分に行わなかったため」と主張。チャド国内で「複数のテロ組織が実際に活動している」ことも理由に挙げた。


チャドがデータや情報共有で手を抜いていた可能性はあるにせよ、それだけでは、あえてチャドを対象国に加える決定的な根拠になり得ないと、ダウニーは指摘する。「米政府の要求を満たす情報提供を怠っている国は、決してチャドだけではないはずだ」


トランプ政権がなぜ、チャドを入国禁止の対象国に加えたのか、決定の理由がわからず関係者は苛立っている。


今回のような決定には、当然のことながら公平なアプローチが不可欠だと、米シンクタンク、ブルッキングスのアフリカ安全保障専門家マイケル・オハンロンは言う。「米政府は明確で分かりやすい基準を設け、どの国にも等しく適用するべきだ」


入国禁止はテロとの戦いにおける米国防省とチャド政府の連携を傷つけるものでしかないと、ダウニーは言う。「アメリカとチャドの関係を悪化させるだけだ」


より広範には、新たな入国禁止令でトランプの大統領令が「イスラム教徒を差別にしている」として裁判所に訴えることが難しくなると、専門家は懸念する。非イスラム国のベネズエラや北朝鮮を追加したことで、トランプが昨年の大統領選中に訴えた反イスラム的な政策としての意味合いが一見、薄まるからだ。


1月の政権発足後に発表したイスラム圏諸国からの入国を禁止する2つの大統領令は、いずれも連邦裁判所で違憲と判断されるなどして差し止められたが、今度は通るかもしれない


新たな入国禁止令は10月18日から施行される。


(翻訳:河原里香)


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ルビー・メレン


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