ラスベガス旧市街のザッポス本社、入居時はまっさらだった

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2017年09月29日 15:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<ダウンタウン中心部にオフィスを移転したアパレル・オンライン通販のザッポス。社員自らがつくり込んでいった新オフィスは、コミュニティに開かれ、会社と街がともに成長していくビジョンを体現している>


ダウンタウン地区と共存共栄するザッポス本社[Zappos.com]


アパレル関連のオンライン通販を展開するザッポス。マニュアルなし、24時間年中無休のコールセンターに365日以内返品OKなど、その徹底的な顧客サービスは高い評価を受けた。


ザッポスはまたユニークな「10のコアバリュー」を組織に根付かせていることでも知られる。「サービスを通して『ワオ!』という驚きの体験を届ける」「変化を受け入れ、変化を推進する」「楽しくて、ちょっと変わっているものを創造する」などだ。


ここラスベガス・ダウンタウン地区の中心に位置する新オフィスは、これらコアバリューを体現するものだ。


移転を決める以前、ラスベガス郊外にオフィスを構えていた頃から、いくつかのビジョンがあった。グーグルやアップルのような、オフィスキャンパスとなる場所であること。様々なアメニティを地元コミュニティに提供しながらともに1つの街をつくりあげていくこと。


そんな折、ダウンタウン地区の旧市庁舎が空いていることを知り、2013年に現オフィスに移転した。ダウンタウン地区はかつての中心的なカジノ街であり、むしろ衰退傾向にあったが、新しいコミュニティを作るには好都合だった。


オフィスは、各チームがその個性を生かしてカスタマイズ。この一角には動物園とタイアップした際に作ったという動物の人形が飾られていた。


1階人事部のオフィス。ジャングルをイメージさせる大ぶりな観葉植物に囲まれている。


154あるミーティングルーム。かつては各部屋に実在するホテル名がつけられていたが、実際にホテルに向かう間違いが多発し、数字のみの表記となった。


(左上)外壁のストリートアート。ダウンタウンはラスベガス発祥の地。古き良き街並みが残るが、反面、裏通りには寂れたムードも。アートでそれを華やかにしようという意図。(左下)ザッポスのカルチャーブックは有名。社内外に企業カルチャーを浸透させるツールとして活用される。(右)回廊には取引のある企業のロゴが掲載され、つながりを大切にするザッポスの姿勢を感じさせる。


個人のワークスペース。各人、思い思いにデスクまわりを作り込んでいる。ここはウクレレが得意な日系ハワイ人の席。


個室を持つのは顧問弁護士のみ。オープンな執務スペースのおかげでコミュニケーションが活性化した。


ザッポス社員はチーム間の移動が頻繁。人員の増減に対応しやすいよう、デスクは動かしやすいものに。電源は天井から下ろしてくる。


ザッポスの心臓部とも言えるコールセンター。チームで相談しながらワオ!と言わせる応対をするのが同社のスタイル。


まっさらなオフィスに社員自らが環境をつくり込む


「私たちはラスベガスという地域に愛着を持ち、『街に貢献したい』と考えていました。旧市庁舎があるのは、街のかつての中心部。新しいコミュニティの発展とザッポスの成長が一致するベストな場所です」と語るのは、エクスペリエンス&コミュニティチーム・マネジャーのローレン・ベッカー氏。


旧市庁舎は「まっさら」な状態だった。大まかなデザインこそ社員のインタビューをもとにまとめたが、移転当時は賑やかなペインティングもデコレーションもない状態。


サステナビリティ・ディレクターのブラッド・トム氏が語るように、「文化は有機的に育まれるもの。社員が欲しい文化を自ら築いてほしい」と考えたからだ。こうしてワークスペースは、チームごと、メンバーごとに作り込まれ、彼らの個性を表現する場となった。


音楽好きの日系ハワイ人はウクレレを飾り、HR部門はジャングルさながらの観葉植物に囲まれて働く。スーパーマーケットやドッグパーク、学校といった充実したアメニティも社員と地元住民の意見を吸い上げ、トニー・シェイCEOが立ち上げたDTP社主導で整備された。


2階カフェに常設されているテックサポート。コンピュータが修理されるのを待つ間、コーヒーを飲みながら同僚と交流できるしかけ。


2階のカフェ。


人が移動するよう、隔階に設けられたキッチンスペース。日常、フロアで隔てられている同僚ともここで接点を持つ。


地元食材を使ったビストロで健康に配慮。


受付スペース。ホスピタリティの高い応対。ひっきりなしにやってくるオフィスツアー客の期待感をあおる。


市庁舎だった時代には議会場として使われていたホール。現在は改修中だが、ダウンタウン地区には大きなカンファレンスや講演に使える会場がないため、これをコミュニティにも開放する計画を進めている。


エントランス付近に飾られた靴のアート。訪問者を驚かせる。


受付横の来賓スペース。


ともに成長していくため、街と会社のシナジーを目指す


しかしザッポスらしく「楽しくて、ちょっと変わっている」のは、それらの多くがオフィスキャンパス外にあり、ダウンタウン地区のコミュニティに対し開かれていること。現在は、旧市庁舎の議会場を改修し、「コンサート会場のように」作り変えているところだ。


「ダウンタウン地区にはこれまで、大きなカンファレンスや講演ができる会場がありませんでした。コミュニティの人たちにもTED Talksのようなイベントやプレゼンテーションなどに使ってもらいたい」とは、オペレーション・ディレクターのロブ・ティモシュク氏。


ザッポスには会社と街がともに成長していくビジョンがある。ローカル人材を多く雇用しているのも、街と会社のシナジーだ。ザッポスがダウンタウンに移転してから社員は1460人に増加。いっぽう街にはレストランが増え、スーパー、クリーニング、バーなどが増えた。さらにラスベガス市とパートナーシップを結び、街づくりに関する定期的なミーティングに出席している。


「今、私のチームが取り組んでいるのは、ダウンタウンの自転車シェアリングのプログラムです。ミーティングには他の企業も参加していますが、できればザッポスがコミュニティの成功の一翼を担いたい」(ベッカー氏)


ラスベガス市の産業はやはりカジノが中心。多くの住民がラスベガス・ストリップと呼ばれるエリアで働いている。その中でザッポスは異質。しかし、だからこそ街を多様にする。街は「楽しくて、ちょっと変わっている」彼らを歓迎しているのだ。


創業:1999年


売上高:非公表


純利益:非公表


従業員数:1460人(2016)


http://www.zappos.com


コンサルティング(ワークスタイル):非公開


インテリア設計:非公開


建築設計:非公開


WORKSIGHT 10(2016.10)より


text: Yusuke Higashi


photo: Hirotaka Hashimoto


建物中央にある中庭を、回廊が取り囲む。このエリアは一般に解放されており、地域住人が出入りしている。


敷地内にはちょっとした公園もあり、市民や社員がふらっと立ち寄る憩いの場としても機能している。


社内通貨「ザラー」。評価の証として社員同士で与えあうことがある。換金も可能。


(左)長年勤続した社員を表彰するプレートと、活躍した社員にプレゼントされるマント。(右)左/オペレーション・ディレクターのロブ・ティモシュク。中/エクスペリエンス&コミュニティチーム・マネジャー 通称:カルチャー・コマンドーのローレン・ベッカー。右/サステナビリティ・ディレクターのブラッド・トム


※当記事はWORKSIGHTの提供記事です






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