テレ朝「ドラマ枠をシリーズ作で埋める」ことの是非 刑事&医療モノには海外販売の狙いも

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2017年10月19日 06:03  リアルサウンド

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 今秋は民放各局の力作が目白押し。TBSは、池井戸潤の小説が原作の『陸王』、宮藤官九郎が脚本を手掛ける『監獄のお姫さま』。日本テレビは、綾瀬はるかが元工作員としてアクションに挑む『奥様は、取り扱い注意』、櫻井翔が校長となり学校の立て直しに取り組む『先に生まれただけの僕』。フジテレビは、政治を真っ向から扱う『民衆の敵〜世の中、おかしくないですか!?〜』、教育現場にミステリーを絡めた『明日の約束』。いずれもキャストの豪華さだけでなく、プロデューサー、脚本家、演出家にエース級をそろえていることから、一年前の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のような大ヒット狙いであることがわかる。


参考:『ドクターX』『相棒』『科捜研の女』……テレ朝ドラマ好調の理由は“長さ”にアリ?


 しかし、力の入った新作がそろう中、テレビ朝日だけはまったくの別路線。プライムタイムに放送されるすべての枠を『相棒』『科捜研の女』『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』のシリーズ作で埋め尽くした。


 『相棒』は16シリーズ目、『科捜研の女』は、17シリーズ目、『ドクターX』は5シリーズ目。しかも『相棒』と『科捜研の女』は、半年間の2クール放送である。固定ファンが多い反面、「もう飽きた」「新作を作るべき」など批判の声も少なくない。つまり、シリーズ作の連発は、賛否両論が飛び交いやすい戦略なのだ。


 その理由は、これらのシリーズ作が「質が高い」「視聴者の熱が高い」というより、「高視聴率を獲得しやすい」タイプのコンテンツだから。「強烈なキャラクターや問題解決の爽快感は保証されている」が、「予想外の展開が少なく、同じ結末を迎える」というのがお決まりになっている。そのため、録画してじっくり見るのではなく、リアルタイム視聴したくなるタイプの作品=視聴率に直結しやすいのだ。


■今年放送した8割がシリーズ作だった


 テレビ朝日が今年放送したプライム帯のドラマは、今秋の3本だけでなく、『警視庁捜査一課9係』『警視庁・捜査一課長』『遺留捜査』『刑事7人』『緊急取調室』も含め、10本中8本がシリーズ作だった。また、リメイク作の『黒革の手帖』も、ある意味シリーズ作に近いと言える。


 しかし、筆者自身、これらの作品について今さらどうこう書こうとは思わないし、シリーズ作に振り切るテレビ朝日の判断も間違っていないと感じる。民放各局が視聴率をベースにした経営スタイルを採用している以上、戦略としては「アリ」なのだ。


 ただし、他局がテレビ朝日の戦略を模倣すると、ドラマが刑事と医療モノばかりになり、業界全体が衰退してしまうだろう。シリーズを重ねるほど、事件や病気の種類と、その解決策は類似し、「どこかで見た展開」に視聴者は飽きてドラマそのものから離れかねない。


 幸いにして、テレビ朝日以外で今秋放送されるシリーズ作はTBSの『コウノドリ』のみで、今後シリーズ化の可能性があるのもフジテレビの『刑事ゆがみ』くらいではないか。前述したように、各局が力の入った新作をラインナップしたのは、質の高さや視聴者の熱と高視聴率の両方を獲得した『逃げるは恥だが役に立つ』のようなホームラン狙いであるとともに、ドラマの多様化を重視しているからだろう。


 テレビ朝日が「先に必勝パターンを見つけた戦略勝ち」である一方、他局は「われわれは意地でも新作で真っ向勝負」という図式になっている。今のところ、結果的にバランスが取れているし、テレビ朝日の戦略に模倣するテレビ局がない限り、それは保たれるのではないか。


■海外販売と時代劇の代替というメリット


 シリーズ作には、「海外へ販売しやすい」というメリットもある。日本のドラマは1クール(3か月間)全9〜11話の作品が多く、欧米やアジアなどで放送する上で「少ない」とみなされてしまう。そんな国際競争上の不利を補えるのがシリーズ作であり、だからこそ「世界の共通テーマである刑事や医療モノが選ばれている」のだ。


 また、シリーズ作には、「視聴者に安心感を与えられる」という側面も強い。とりわけ中高年層は、シリーズ作の“定型美”とも言える作品フォーマットに、『水戸黄門』『遠山の金さん』など時代劇の代替作として安心感を覚えている。『相棒』『科捜研の女』『ドクターX』の3作から古き良き時代の香りを感じる人が目立つのはそのためだろう。


 現状は「好きな人」と「嫌いな人」の両極端だが、視聴率の面では申し分ない結果を出しているのは間違いない。シリーズ作の象徴である『相棒』の視聴率が1桁まで下がるなどの窮地に陥らない限り、今後もこの戦略は続くのではないか。ただ、極端な戦略だけに、視聴率が下がりはじめたとき、「嫌いな人」たちからの猛バッシングを食らうリスクもあるなど、先行きは必ずしも明るいとは言えない。


■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月間20数本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。


このニュースに関するつぶやき

  • テレ朝「ドラマ枠をシリーズ作で埋める」ことの是非 刑事&医療モノには海外販売の狙いも (リアルサウンド - 10/19 06:03) 私がテレ朝に文句言いたいのは、「シリーズものの連ドラばかり」より、それより歴史の長い『土曜ワイド劇場』と『日曜洋画劇場』を打ち切りやがったこと…。
    • イイネ!2
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