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姫乃たまに聞く、「地下アイドル」という職業の実情<後編>

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2017年10月24日 20:03  新刊JP

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新刊JP

写真姫乃たまさん
姫乃たまさん
どうしても過激なイメージで捉えられやすい「地下アイドル」の業界において、「姫乃たま」はアイドル自身の視点と客観的な視点双方から、地下アイドルという存在を文章に落とすことができる稀有な存在だろう。

16歳でアイドルとしてステージデビュー。一貫してフリーランスで活動をしながら、「下北沢生まれ、エロ本育ち」をキャッチコピーに、成人向け雑誌などはじめさまざまな媒体でコラムを執筆している。

そんな姫乃さんにとって2冊目となる『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版刊)が出版された。前作『潜行』がエピソードを中心に地下アイドルの実際の姿を照らす一冊だったのに対して、本書はアンケートデータを用いながら、より客観的に地下アイドルの本質を分析している。

現在月11本の連載を持っており“売れっ子コラムニスト”と言っても過言ではない姫乃さん。インタビュー後編ではその読書歴にも話を踏み込みながら、地下アイドルという存在についてお話をうかがった。

・前編こちらから

取材・文・写真:金井元貴(新刊JP編集部)

■地下アイドルからの「卒業」について

――前作『潜行』を読んだ時にも思ったのですが、姫乃さんの書かれる文章はとても淡々していて、あまり感情が乗っていないというか、少し離れた視点から書いているように思います。意識してそう書かれているのですか?

姫乃たまさん(以下、姫乃):感情的にならないように意識しています。地下アイドルは基本的にエモーショナルな業界で、文章も熱い想いが詰まったものが多いのですが、それを私もやっても仕方ないなと。

――「地下アイドル」と「ライター」の両立は難しくないですか?

姫乃:最近、文章を書いている時点でもしかしたら地下アイドルの枠から外れているのかもしれないと思うようになったんです。『潜行』を出版した頃は、地下アイドルの枠から外れたくなくて、「私は地下アイドルです!」って自分から言ってたんですけど…。

――それは、自分が地下アイドルであることにこだわる必要がなくなってきたということですか?

姫乃:そうなのかなあ。地下アイドルは好きですよ。でも、「地下アイドルってなんだろう」と自分で思いながら8年間、活動をしてきて、もうライフワークになっているんですよね。それがなくなるのが怖かったのかもしれません。

――何かしらの心境の変化があったのでしょうか。

姫乃:本を書いて出したことで、自分で定義していた地下アイドルから(自分が)外れてきているように思うところがあって。

私は自分が売れているとも、すごいとも思っていないけれど、昔よりもできることが増えているのは事実です。一方で、地下アイドルの業界を見ると、昔の自分と同じような駆け出しの子も、業界でもがいている子もたくさんいて。
自分の活動が新しい地下アイドルの形と言えるほどでもないですし、いつまでも地下アイドルでいることはできないなと思うようになりましたね。

――「地下アイドルからの卒業」ではないですけど、どうなれば「地下アイドル」ではなくなると思いますか? メジャーデビューというのは一つの選択肢であって、他にもあるように思いますが。

姫乃:どうなんだろう。でも、定義として一つあげるのであれば、「ファンに頼らずに活動できる」というところはあるかな。

地下アイドルって、ファンの前でライブをして、メインの収入は物販というところがあるから、ファンがいないと成立しないんですね。パフォーマンスもファンの熱気込みで成り立っているところがあって、それを逆手にとっているグループもありますけど、地下アイドルってそういうものだと思うんです。

でも、私は本を書いたりしているし、自分で曲が作れる子もいます。そういうファンの存在を介さないところにも収入があると、地下アイドルという枠から外れてくるのかな、と。2ショット写真1枚500円って帯に書いてありますけど、それがなくても稼げるようになると地下アイドルとは言いにくくなるように思いますね。チェキ撮影は地下アイドルとファンの距離を物理的に近づけているものでもあるので。



■姫乃たまが意識している書き手、そしてアダルト雑誌との出会い

――姫乃さんが書き手として意識している作家さんはいますか?

姫乃:最近は雨宮まみさんですね。去年、亡くなられてしまったのですが…。

――生前にお付き合いはあったのですか?

姫乃:ほとんどなかったです。同じ媒体で連載を持っていたり、周囲からも話の引き合いに出されることが多いので意識してしまって、勝手にぎくしゃくしていたところがあったんですよ。でも、最近自分のやりたいことを考えていくと、雨宮さんの存在が出てくるんです。雨宮さんもエロ関連の媒体で執筆をされていたから、自分と重なるんですよね。だから引き合いに出されてもいたのですが……。

――姫乃さんは「エロ本育ち」を自称されていて、ライターとしての活動もアダルト雑誌からスタートしています。子どもの頃からアダルト雑誌を読んでいたのですか?

姫乃:そうなんですよ。生まれが酒屋で、そこにエロ本が売っていたので。昔から後ろめたいものに興味があって、エロ本って読む時に後ろめたさがあるじゃないですか。だから好きでしたね。

――初めて読んだアダルト雑誌って覚えていますか?

姫乃:コアマガジンの『ニャン2倶楽部』っていう素人投稿雑誌です。それはお店ではなくて、幼稚園か小学生くらいの時に、公園で遊んでいて落ちていたのを拾って読んだんですよ。投稿誌って生々しいから、これは見てはいけないものだっていう後ろめたさから目が離せなくて。

――素人投稿雑誌が原体験というのはすごいですね。

姫乃:あの時に感じた後ろめたさは人生を通じて大事なものになっていて、それが原点になっている気がします。私のやってきたことは「後ろめたさ」を感じるものばかりで、「地下アイドルやってます」なんて人に言えないじゃないですか(笑)。

■「言語化できないものに興味があります」

――実は『潜行』の発売記念イベントで、2冊買うと姫乃さんから直筆の手紙が届くという特典があって参加したのですが、そこで「姫乃さんに聞いてみたいことを書いて下さい」とメモを渡されたので「最近読んで面白かった本はなんですか?」という質問を書いたことがあるんです。

姫乃:本当ですか!? 私、なんて書いていました?

――卯月妙子さんの『人間仮免中』が面白かった、と。

姫乃:ああー! 神保町の書店で買った本です。元AV女優で統合失調症の作者が、歩道橋から飛び降りて大けがを負ってしまうんですけど、それでも障害を持ちながら生きていくという実話を元にしたマンガです。
最近、どんな人生にも意味があると思っていて、業田良家さんの『自虐の詩』にも書かれていますが、それは『人間仮免中』の内容にも通じるところがあります。すごく面白い作品ですね。

――最近の読書事情はいかがですか?

姫乃:実は新刊を追えていなくて、お風呂で高橋留美子さんの『うる星やつら』をちょこちょこ読んでいます。あとは、文庫本なんですけど、社会学者の大澤真幸さんの『恋愛の不可能性について』を持ち歩いて読んでいます。言語化できないものに興味があるのですが、そのきっかけが「弱さ」について書かれている松岡正剛さんの『フラジャイル』という本でした。

――言語化できないものですか。

姫乃:感覚的なものというか。地下アイドルについて文章を書き始めたのも、「地下アイドルのことを伝えよう」というよりは、知られていないことや、まだ言語化されていないものに対する興味の延長線上にあったんです。だから、大澤真幸さんの『恋愛の不可能性について』も、恋愛って言語化できないじゃないですか。

――それに、姫乃さんが昔から好きだという「後ろめたさ」も。

姫乃:そうなんですよね。言語化できないから。



■姫乃たまの「今まで」と「これから」

――姫乃さんにとって転機になった本はなんですか?

姫乃:これは色んなところで話しているんですけど、地下アイドルになって、鬱で一番つらかった時期に読んだ、北尾トロさんの『男の隠れ家を持ってみた』です。『裏モノJAPAN』に連載したエッセイをまとめた本ですね。

北尾さんはライターなので、自分の好きなことを何でも仕事にしてしまう人で、例えば映画を観ていても「これは原稿にできる」と思ってしまうタイプなんです。でも、その中で「俺って一体何だろう」と思い始めて、奥さんの許可を得て、まったく馴染みのない駅でアパートを借りて、そこで暮らし始めるんです。もちろんペンネームではなく、本名で。北尾トロではなく、本名の自分で過ごせる時間を持ちたかったのだと思います。

その本を読んだ時に、すごく救われた気がしたんですよ。自分と同じように悩んでいる人がいて、「結局、自分は自分でしかない」ということに気付かされた一冊です。

もう一冊は根本敬さんの『因果鉄道の旅』というエッセイです。根本さんの周囲にいる、とてつもなく不条理な人たちの人生について書かれていて、こんなに不条理なことがあるのかという驚きと、そういう人たちを手放さない根本さんがすごくいいなと思っていて。
根本さんの磁場の形成の仕方がすごく勉強になりましたね。私にとっての唯一のアイドルかもしれません。

――そんな姫乃さんが今後、書いてみたいことはなんですか?

姫乃:ちょうど今、失われてしまったものや、最初から持っていなかったものをテーマにした「永遠なるものたち」という連載エッセイを、「AM」というサイトで書かせていただいています。

そこで最初に書いたのが、知らない家の窓の明かりが好きという話です。その家の中には私がいない世界があって、私の知らない生活がある。そこに憧れがあるんですよね。でも、もし私がその家の中に入ってしまったら、途端に興味がなくなってしまう。決して持つことができないものに対する憧れを書いています。

これって興味がない人には全く響かないんですよ。でも、私はそれを切り捨てられないタイプの人間なので、今後もそういうのをちまちま書いていこうと思っています。

――最後に『職業としての地下アイドル』をどんな人に読んでほしいと思っていますか?

姫乃:地下アイドルが好きな人はもちろんなんですけど、地下アイドルのことをあまり知らない人、日々なんとなく鬱屈としている人に読んでもらえると嬉しいです。居場所って本当にどこにあるか分からないんですよね。私は元々アイドルが好きではなかったけれど、自分の能力が発揮できる場所がそこにあったから、生きながらえることができていますし。

また、「プロローグ」と「エピローグのようなもの」は私の話なので、最初と最後を読み物として、中は資料的に読んでもらってもいいかもしれません。本を出してから「(データを)卒論で使わせてください」という問い合わせが届いているんですけど、ぜひ使って下さい。私も地下アイドルを卒論で書いたのですが、この本があったらよかったのにと思いますね。

――「プロローグ」と「エピローグのようなもの」で書かれている姫乃さんのエピソードは壮絶でした。

姫乃:「泣きました!」みたいな感想が届いていて、すごく気を使われているなあと思っています(苦笑)。鬱の時のエピソードは繊細な話が多かったので、「普段いつもニコニコしているから、気にしなくてごめんね」って。でも、自分の中ではもう終わっている話なので大丈夫です(笑)。

(了)



■姫乃たまプロフィール

地下アイドル/ライター。現役地下アイドル歴8年。1993年2月12日、下北沢生まれ。16歳よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業も営む。ライターとしては、本人名義での連載が現在月に11本。他にモデル、DJ、司会としても活動。著書に『潜行 地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー)がある。(書籍より)

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