イギリス音楽業界、心を病む人が国民全体と比べ3倍で、ホットライン開設

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2017年10月27日 18:53  ニューズウィーク日本版

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パニックアタックやうつ、約7割が経験


英国のミュージシャンは、うつ病になる可能性が一般の人と比べ3倍になることが分かった。この調査結果を受けて、慈善団体ヘルプ・ミュージシャンズUKは、電話で24時間365日健康相談できるホットラインを設立すると発表した。


調査は、ヘルプ・ミュージシャンズUKが依頼し、ウェストミンスター大学と同大の独立系音楽シンクタンク「ミュージックタンク」が2016年11月に開始。音楽業界全体を対象に行い、今年10月に発表したもの。回答者数は2211人で、音楽とメンタルヘルスについての学術調査としては世界最大となった。


報告書によると、「パニックアタックや強い不安を経験したことがある」と答えた人は、71.1%に上った。また、「うつに苦しんだ経験はあるか」との問いに、「ある」と答えた人は69%だった。一方、報告書は英国統計局が2010〜2013年に行なったデータを引用し、16歳以上の英国民でうつやひどい不安を経験したことがある人の割合は19%だったとしている。つまり、音楽業界では一般国民の3倍近い人が、精神的に苦しんでいる可能性が高いことになる。


「経済的な不安」、「労働環境の悪さ」、「セクハラ」


ミュージシャンが精神衛生面で追い詰められる原因として、報告書は「経済的な不安」、「労働環境の悪さ」、「性差別・ハラスメント」などを挙げている。


「経済的な不安」の要素としてヘルプ・ミュージシャンズUKが挙げているのは、音楽業界での仕事は多くの場合、不安定で予測不能だという点だ。「生計を支えるのが難しい」と感じている人も多いようで、結果として、複数の仕事をかけもちし、なかなか休みが取れない状態になってしまう、と指摘している。


「労働環境の悪さ」としては、「非社交的な労働時間」、「計画を立てられない」といった声が挙げられていた。ヘルプ・ミュージシャンズUKは、ミュージシャンは常に批判的なフィードバックに耐える必要がある一方で、多くが個人事業であり、孤立感を味わうことが多い、と述べている。そうした環境が、精神的に追い詰められる状況に追いやっているのかもしれない。


また、「性差別的な態度」、「セクハラ」などを挙げた回答も多く、報告書は、女性が英国音楽業界で活動することの難しさを指摘している。なお今回の調査では、女性の回答者は男性より若干少なかった(男性55.2%、女性43.9%)。


また、助けを求めるにしても、どこに連絡していいのか分からない、という声や、相談に行ったとしても、不要で高価な薬を処方される、薬物治療以外だと高価になる、などといった不満があるようだ。


手に届きやすいメンタルヘルス・サービスを


今回の調査結果を受けて、報告書は音楽教育のカリキュラムの中に今後はメンタルヘルスに関する問題を盛り込んで啓発する、という提案をしている。また、専門家による手に届きやすいメンタルヘルス・サービスを提供する意向だ。具体的には、「ミュージック・マインズ・マター」という24時間365日電話で相談に乗ってもらえるメンタルヘルス・サービスを今年12月までに立ち上げる。


ヘルプ・ミュージシャンズUKの広報担当クリス・ブラウン氏は、「英国音楽業界は非常に健康であり、また世界的な評価を得ている。しかし業界とそこで働く人たちの長期的な健康を維持するために、話し合いやパートナーシップ、協力に向けた建設的な話し合いの場を構築していくことを目指している」と述べている。


報告書は、2211人のアンケートと、調査に参加した26人のミュージシャンへの聞き取り調査で構成されている。


回答者の66.2%が18〜35歳。職業は39%がミュージシャンだが、作曲家やプロデューサーなどさまざまだった。活躍分野も、ポップスが最多の768人、クラシックが689人だったが、ロックやワールド・ミュージックなど多岐にわたった。




松丸さとみ


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  • 北欧では冬季鬱になりやすく気分を高揚させるメタルが好まれる。そしてメタルは輸出品目。国家が音楽を支援。他国では還暦ツアーとグッズ販売。不安定な生活が現状��
    • イイネ!17
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