林遣都が語る、『チェリーボーイズ』で感じた深い友情 「描かれていない部分をいかに想像してもらえるか」

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2018年02月17日 06:02  リアルサウンド

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 “童貞漫画の金字塔”と謳われた古泉智浩の同名コミックを、松居大悟脚本、本作が長編デビュー作となる西海謙一郎監督によって映画化した『チェリーボーイズ』が2月17日より公開された。ある地方都市に住む、25歳で童貞のボンクラ3人組、国森信一(クンニ)、吉村達也(ビーチク)、高杉誠(カウパー)を主人公とした本作は、彼らの挫折と成長を描いた笑いと共感を呼ぶ“青春映画”だ。


 リアルサウンド映画部では、本作の主演を務めた林遣都にインタビュー。様々な作品で異なる顔を見せる林が、これまでで“もっとも格好悪い”キャラクターをいかに演じたのか。撮影の裏側から、役者としての今後までたっぷりと話を聞いた。


参考:NHK放送中『火花』のキャスティングは完璧だーー林遣都&波岡一喜の奇跡的な演技を考察


■衣装合わせの時に感じた『火花』との共通点


ーー今回の国森信一役は、林遣都史上、“もっとも格好悪い”キャラクターだと思います。演じてみていかがでしたか?


林遣都(以下、林):共演の前野(朋哉)さんにお会いしたとき「林くんがこの役をやるとは思わなかった」と言われました。僕も原作漫画を読んで、ハードルの高い役だなと思っていたので、観てくださる方も「大丈夫ですか」って視線があると思いますが、それをなんとか覆したいと思って取り組みました。


ーー本作の国森のビジュアルを観たとき、Netflixオリジナルドラマ『火花』で林さんが演じた徳永を思い出しました。黒縁メガネに、グレーのパーカー、茶色のトレンチコートという衣装と、共通点が非常に多いです。


林:僕も衣装合わせのときに、「あれ? これすごい似てるな……」と思っていました。最初は原作のイメージから離れて、派手なバンドTシャツも着てみたんです。でも、あまりしっくりこない。国森は、「音楽で食べていく」と東京に出ていった人物なので、髪型も派手な感じもありかなと思ったのですが、イメージする国森にはならない。結局、原作漫画に近い、最初に決まっていた衣装で演じることになりました。


ーーそれでも、ほとんど同じ衣装で、同じ林さんが演じているのにまったく同一人物には見えません。歩き方だったり、話し方だったり、内面が変わると、ここまで別人に見えるんだなと驚きました。


林:そう言っていただけて、とてもうれしいです。立ち方、歩き方、目つきなど、細かいところで国森にならないとって意識した部分があります。


ーーそもそも、本作のオファーをもらったときはどういった心境だったのですか?


林:原作を読んでこういった空気感の作品をやりたいというのありました。そして、何と言っても脚本を手がけた松居(大悟)さん。松居さんとは共通の知り合いもいて、本作の前から交流はありました。繊細な気持ちをリアルに表現される方という印象が以前からあって、松居さんの作品に出ている同世代の俳優が羨ましかったんです。そんな松居さんが代名詞でもある“童貞”をテーマにした脚本を書いている、その情報だけでやりたいなと。


■「深い友情を、本作を通して感じることできました」


ーー本作は吉村役の柳俊太郎さん、高杉役の前野朋哉さん、そして林さん演じる国森と、3人の関係性が作品の根幹であり、その空気感が一番の魅力です。ふたりと現場では?


林:これまで“男だけの青春もの”という作品はあまり触れてこなかったので、前野さんと柳君と本作を作り上げることができて本当によかったと思います。西海監督も含めて、女性に対してどういう考え方をしてきたかを、撮影に入る前に密に話し合いました。やっぱり男同士なので、通ずるものがあったり、盛り上がる瞬間がすごくあって。作品の方向性を確認し合う中で、リハーサルに入ったんですが、知らないうちにアドリブ合戦みたいになっていったんです。演じるというよりは自然に作品のキャラクターになれていたと思います。


ーー国森はリーダー格でありながら、なぜふたりが付いていこうとするのか不思議なくらいダメな奴です。国森にはどんな魅力があるのでしょうか。


林:国森も吉村も高杉も、3人とも女性にモテない、地元から出ていけないという強いコンプレックスを持った人物です。でも、国森はふたりよりも一歩踏み出す勇気を持っていたり、人と違うことをやろうとしたり、何か発信をするきっかけになる人物。このグループ内の狭い世界ですが、ふたりにとってはそんな国森は、自分たちの世界を拡げてくれるカリスマなんですよね。


ーー物語の中盤、昔から3人を目の敵にしている地元の不良・プーチン(石垣佑磨)に襲われ、国森はふたりを置き去りにして逃げるという見事に最低な行動を取ります(笑)。でも、なぜか愛おしいキャラクターで。


林:あの行動は本当に最低です(笑)。あのシーンは脚本を読んだときから一番好きだったので、面白くしたいなと思っていたんです。国森がひとり逃げ出す前、タイミング悪くふたりから国森だけが隠れ場所に入ることができず締め出されます。その後合流した高杉に、「お前、友達のくせに裏切るのか、最低だな」と言い放つ。でも、その直後に自分だけ逃亡。お前が“友達”を語るなって話ですよね(笑)。


ーーラストシーンに象徴的なように、3人の関係性が素敵です。


林:国森は、自分ではわからない人とのズレみたいなものに悩まれてきた人物なのかなと僕は思いました。そんな中で唯一なんでも言い合える吉村と高杉。あんなに陰口言ったり、罵り合ったりする3人なんですけど、苦しいときに一緒にいられる3人は素敵だなと思います。この3人は言葉で絆を伝え合うことが中々できない。お互いがいま何を考えているのか、全部を分かっていない。でも、分かろうとしている。そして根本の部分で、それぞれが持つ、「こんないいいところあるんだよ」というのをみんなが知っている。表面的なものではない深い友情を、本作を通して感じることできました。


■「年々、演技に対しての考え方は変わっている」


ーー西海監督は本作が長編デビューとなります。現場では林さんの意見も汲んでもらったそうで。


林:監督には申し訳ないのですが、わがままを言ってしまいました。撮影が非常にタイトなスケジュールだったこともあり、松居さんの脚本をそのまま撮ることは物理的に不可能なシーンがあったんです。そんな中でも、なんとかなりませんかと相談させていただいたシーンがあって。


ーーそれはどのシーン?


林:国森が思いを寄せる笛子(池田エライザ)に告白をして、あっさりとフラれて、ビール瓶を投げるシーンです。僕の勝手なイメージでは、玄関先でフラれて、階段を駆け下りて、笛子の見えないところで発狂する、という形だったんです。でも、一連のシークエンスを笛子が住むアパートの敷地内でやらなくてはいけない。しかも笛子の住まいは1階。でも、それでは国森が発狂している姿は笛子に筒抜けだし、それは違うと思ったんです。監督さんや製作の方々が、歩道の撮影の許可を取ってくださって、完成した映画の形になりました。


ーー納得したふりをして帰宅するものの、抑えきれずに爆発してしまう。当初の予定通りでは、その感情の流れが分かりづらかったと思います。


林:これまでそういった意見を監督に言うことはほとんどなかったんです。でも、今回の現場では、西海監督にお会いしたとき、「林くんが思いを込めてくれればくれるほど、お互いで高め合うことができる」と言ってくださって。監督が最初にそう言ってくれたからこそ、このシーンも実現することができたと思います。


ーーともすれば、嫌悪感を持たれてしまう題材だと思うのですが、絶妙なバランスで、さまざまなしがらみに、もがき苦しむ青春映画になっていると感じます。


林:原作はどちらかというとコメディ寄りなんです。でも、松居さんの脚本はラストシーンの変更が象徴的なように、人間ドラマとして味わい深いものになっていました。その点に関して、演じる僕たちは読み解きながら応えないといけない責任がありました。最後も「泣き出す」の1文しかなかったのですが、そこにどれだけの思いが入っているのか、それを観ている方に感じてもらえたらと思います。


ーー演技者として、今後はどういった歩みを?


林:映像作品に出演させていただいているときは、変なテクニックを身につけるのではなくて、“その人になればいい”と思っていたんです。でも、舞台での演技を通して、演技者としての技術も必要だし、役者として勉強することは何よりも大事だと感じました。年々、演技に対しての考え方は変わっています。映画の場合は、だいたい2時間の間にひとりのキャラクターの人生を見せなければいけません。そのときに、作品の中で描かれていない部分をいかに想像してもらえるか。それを改めて感じたのは、波岡(一喜)さんの、『わろてんか』(NHK総合)天才落語家の団吾役の演技を観たときです。団吾が落語を披露するシーンがあるんです。現在観ている限りでは、落語を最初から最後まで披露されるわけではなくて、劇中ではほんの一部分なんです。その一瞬だけでも団吾が天才として、この世界で活躍していることが伝わってきました。波岡さんの凄さを感じると同時に、僕も今後見習わなければいけない部分だなと感じています。


※柳俊太郎の「柳」は旧字体が正式表記


ヘアメイク:SHUTARO(vitamins)
スタイリスト:菊池陽之介/YONOSUKE KIKUCHI


(取材・文・写真=石井達也)


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  • 25歳の童貞がボンクラなら、33歳の童貞は生きる価値無しということでしょうか?
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