TOKIOや関ジャニらが体現するエンタメ精神。『テレビとジャニーズ』を読む

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2018年02月28日 13:21  CINRA.NET

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太田省一『テレビとジャニーズ  〜メディアは「アイドルの時代」をどう築いたか?〜』blueprint 表紙
太田省一の著書『テレビとジャニーズ  〜メディアは「アイドルの時代」をどう築いたか?〜』が先日刊行された。著者は『中居正広という生き方』『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』などの著書を発表している社会学者。

■ジャニーズの転換期?
SMAP解散騒動以降、「ジャニーズ事務所そのもの」が世間の話題に上がることが増えた。昨年末にはジャニーズWEST主演のネットドラマ『炎の転校生 REBORN』がスタートし、つい先日はジャニーズタレントのネットでの画像使用が一部解禁になった。戦後の日本芸能界で特別な位置を占めてきたジャニーズ事務所。転換期を迎えつつあるいま、その現在地が知りたくて、この本を手に取った。紹介していこう。

■ジャニーズファンなら安心して読める。絶妙のバランス
本書は2015年からウェブメディア「Real Sound」で連載されているコラム「ジャニーズとテレビ史」を書籍化したもの。前置きとして書き下ろしの総論「テレビとジャニーズの55年史」を収録。各コラムは時評的な色もありつつ、随所に過去のジャニーズタレントやテレビ番組への参照、考察を交えている。コンパクトにまとまった総論を各コラムがあとから肉付けしていく構成だ。末尾には年表も付されている。

通読してまず言えることは、ジャニーズファンなら安心して手にとることができる一冊であるということ。ジャニーズタレントやテレビ番組を題材に、分析し、面白がり、魅力を伝える。そのバランスが絶妙である。学者ならではの冷静なトーンは保ちながら、ファン目線も併せ持ったポジティブな語り口が印象的だ。どのグループに対しても、彼らの秀でた点、秘めた可能性、ジャニーズ史における立ち位置を示し、今後の活動に期待感を抱かせる。とはいえ、アカデミックなメディア論やアイドル論を期待する読者は肩透かしを食うかもしれない。本書の持ち味は鋭利な批評ではなく、「沼」の温かさである。

■38本のコラム。タイトルがキャッチー
それでは、本書がたんなるファンブックなのかというと、そういうわけでもない。38本収録されているコラムの中から、タイトルをいくつか並べてみよう。「Mステはなぜ30年も生き残れたのか?」「スマスマはなぜ愛され続けた?」「人気者を生んだ“学園もの”番組」「TOKIOはなぜ広い世代から支持される?」「香取慎吾はテレビの世界の“生き物”だ」「ジャニーズとバレーボールの深い関わり」。

熱心なファン以外にもアピールするようなキャッチーなテーマを噛み砕きながら、それほどジャニーズに興味がなかった読者の目をもいつの間にかテレビの方へ、そしてタレントたちの方へ向けさせる。

■TOKIOと関ジャニ∞の体現するもの
たとえば関ジャニ∞について。著者は彼らの柔軟な対応力の背後にジャニーズのノンジャンルなエンターテイメント性があることを指摘しつつ、「テレビというメディアもそうした面が本質的な魅力だ」と書く。続けて引用しよう。

<関ジャニ∞はジャニーズとテレビに共通するそうした楽しさを、サービス精神旺盛に表現してくれる。(中略)『クロニクル』と『関ジャム』は、彼らのファンやジャニーズファンだけでなく、テレビ好きであれば、今見ておいて損はないクオリティを持った番組であると言っていい。
(太田省一『テレビとジャニーズ  〜メディアは「アイドルの時代」をどう築いたか?〜』blueprint 158ページ「テレビで目覚ましい、関ジャニ∞の活躍」)>

『ザ!鉄腕!DASH!!』での奮闘ぶりで、今や「兼業アイドル」とも呼ばれるTOKIOについては、「ジャニーズなのに」農作業やDIYをしているという但し書きは不要であるとしながらも、彼らこそ広い世代に訴えるジャニーズ流のエンターテイメントのひとつの理想を体現していると評する。

■アイドルの「旬」とは?
あるいはSexy Zoneについてはこう綴る。

<アイドルグループの「旬」とは、メンバーの「成長」と「成熟」のバランスがとれ、化学反応が起きている状態のことではないだろうか。それはキャリアの長さとは必ずしも関係ない。そのグループが、新しい挑戦を繰り返すたびに訪れる。だからひとつのグループも「一度」とは限らない。その何度か訪れる「旬」の瞬間に立ち会えることが、ジャニーズに限らずアイドルグループを見守り、応援する喜びのひとつだろう。現在のSexy Zoneも、そんな「旬」の状態に近づいているように私には思えた。
(太田省一『テレビとジャニーズ  〜メディアは「アイドルの時代」をどう築いたか?〜』blueprint 82ページ「冠番組が映す、彼らの“成熟”と“成長”」)>

ついつい長めに引用してしまったが、どうだろう。なんとポジティブな愛情に満ちていることか。こういったパンチラインが随所に散りばめられているのが本書なのだ。

■SMAP解散騒動については……
一方で、SMAPの一連の解散騒動については、ほぼページが割かれていないことも忘れずに書いておこう。たとえば2016年1月18日の『SMAP×SMAP』で放送された、「SMAPが解散しないこと」を伝えるための謝罪生放送。あれは平成のテレビ史と芸能史に残るものだったように思うが、本書では触れられていない。

短いコラムの枠組みには収められない出来事だったということなのかもしれないし、ジャニーズタレントやテレビ番組をポジティブに楽しもうとする本書の意図にそぐわないものだったのかもしれない。事実、SMAP解散後に刊行された太田氏の著作『SMAPと平成ニッポン』では、SMAP解散騒動についても氏の見解が記されている。

■来るべき「ジャニーズとインターネット史」
本書を読みながら頭の隅でつねに考えていたのは、アイドルたちがいかに多くのファンに支えられているか、ということだ。日々生活をしながら、テレビの前で彼らの出演番組の放送を待ち、楽しみにしているファンたち。彼らもまた、おそらくアイドルの存在に支えられている。

今後のジャニーズがどうなるか。事務所を離れた元SMAPたちは、タレント性を損なうことなく、ネットを基盤としたタレント活動を開拓しようとしている。ファンたちにとってテレビとネットの境界線が薄れるにつれ、いずれはジャニーズにとってもネットがステージのひとつになるのだろう。そのときにはきっと、ジャニーズならではのやり方でファンたちを魅了するはずだ。様々な分野に活躍の場を開拓し、批判に屈せず人々を楽しませてきたのが彼らの歴史だからだ。いつか著者による「ジャニーズとインターネット史」も読んでみたいものだ。

なおCINRA.NETでは『ザ!鉄腕!DASH!!』のプロデューサー・島田総一郎へのインタビューも掲載中。こちらもあわせて読んでほしい。
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