みんな、真面目すぎるんですよ!
こういうときぐらい嘘ついちゃえばいいのよ。嘘も方便。
「スミマセン。うちの子、熱があるんで。今日はこのくらいで失礼します」とかなんとか。その代わり普段から贈り物はこまめにしておくとかね。
(「スナックさいばら おんなのけものみち ガチ激闘編」(西原理恵子/角川書店)より)
既婚者の場合、年末年始だからといって、わーい! 冬休みー!! と、はしゃいでばかりもいられないらしい。自分の実家と夫の実家に顔を出すとなると、よほどのご近所結婚でない限り、交通費もかさむし、夫のお母さんと気が合わなければ、「正月早々なんでこんな目に!」とイラだつ羽目になる。数日ぐらいテキトーに流しておけばいいのに、というのはおそらく、シビアな状況に直面したことがない人間のノンキな意見なのだろう。北風吹きすさぶ荒野に向けて、行きたくもない戦場に足を運ばざるを得ない人もいるのだ(と、「発言小町」を読んでいると思う)。
姑の底意地が悪いにしろ、嫁が神経質すぎるにしろ、一度関係がこじれてしまうと、ちょっとやそっとの建前では修復できない。「このおせちおいしいですねー。さすがお母さん!」と持ち上げたときに、「どうせ、お世辞だろ」と返されては鼻白むばかり。ステージで外人アーティストが「コンニチハ! トウキョー!!」と叫んだら、こぶしをつきあげて「イェーイ!!」と返す。そんなコール&レスポンスの作法が建前にも必要なんである。
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嫁姑間の建前が最もいきるのは関係が決定的にこじれる前段階。「やっぱりお母さんの煮物は最高ですね」と料理を褒めてもいいし、夫がいかにこの一年間、仕事をがんばり素晴らしい夫であり、父親であったかを褒め称えてもいい。たいして役に立たないぼんくら亭主だったとしても、姑にとってはいとおしい息子。くれぐれも愚図ダンナ呼ばわりするのは避けたいし、グチをこぼすのも御法度。“使えない部下”扱いするのも百害あって一利なしである。
姑の一挙一動には注目しない。悪気がなくても、許されることと許されないことがあるというのは百も承知で、「まあ、悪気がないんだからしょうがないわよね」という建前を貫く。あとは姑が他人行儀だろうが、無神経だろうが気にしないに限る。そもそも、相手はさほど親しくなりたい相手でもなければ、気が合う友達でもない。であれば、目先の平和維持にエネルギーを注ごう。
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決定的にこじれてしまっている場合はむしろ、建前を駆使すべきは姑ではなく、夫。「こっちの気もしらないで、こたつでゴロゴロしてんじゃねーよ」「なに調子にのってビールお代わりしてんだよ」などと殺意を抱きながら正月を過ごすのは、心身ともに疲弊するのでぜひとも避けたい。かといって「絶縁よ!」なんていきなり大騒ぎするのは得策ではない。「行きたいのは山々だけど……」と揺さぶってみたり、隔年ごとの訪問を提案してみたり、やれることは案外たくさんある。
大切なのは「お義母さんに悪感情を抱いているわけではない」というフリをし続けること。年齢問わず、「あんたの母親なんて大嫌い!」というカードを切る女の言い分に耳を傾けようとする男は稀だということはキモに銘じておきたい。マザコンがどうの、という話ではない。身内の悪口を他人に言われると腹が立つ。それがたとえ、配偶者であっても、だ。
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夫でいらっしゃるみなさんにおかれましては、ぜひ忘年会の余興の合間にでも、「君のおかげで平和な正月を迎えられた」だの、「母さんにはよく言っておくよ」だのといった建前を練習されておくことをおすすめいたします。