「今までが日本アニメにとってのボーナスタイム」識者が語る中国アニメ市場のリアルは?

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2018年06月23日 19:52  アニメ!アニメ!

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「今までが日本アニメにとってのボーナスタイム」識者が語る中国アニメ市場のリアルは?
海外においても人気な日本のアニメですが、作品の売り上げに大きく貢献しているのがお隣の中国です。日本動画協会による「アニメ産業レポート2017」では、「ビリビリ動画」などの中国大手プラットフォームによる日本のアニメ爆買いが報告され、国別海外展開状況でも中国が1位を記録しています。

しかし一方、日本でも公開された中国国内興収192億円を記録したアニメ映画『西遊記之大聖帰来』(邦題:『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』)に代表されるように、近年では中国国産アニメの人気ぶりが取りざたされるようになりました。
4月5日から6日まで東京ビッグサイトで開催された国内最大規模のコンテンツビジネス総合展示会「コンテンツ東京2018」のセミナー「中国アニメ配信事業の最前線と未来」(http://www.animeanime.biz/archives/44680)においても、中国アニメ市場規模の拡大と国産アニメの作画などのクオリティーが高まっていることが報告されています。

国内から見ている限り、「日本のオタクイベントにもやって来るぐらい、中国の人は日本のアニメが大好き」というイメージが強くなりがちですが、実際のところは中国のアニメ愛好家にとって日本のアニメはどういう位置づけなのでしょうか。
中国でオタク文化が形成され始めた1993年頃から2006年まで中国に滞在し、長年中国のオタク文化を見てきて『オタ中国人の憂鬱 怒れる中国人を脱力させる日本の萌え力』を出版、ブログ「『日中文化交流』と書いてオタ活動と読む」で中国オタク事情を発信している百元籠羊(ひゃくげん・かごひつじ)さんにお聞きしました。
[取材・構成=乃木章]

百元籠羊さん
■中国におけるアニメ視聴の環境

――中国でアニメはどのように広まったのでしょうか?

百元籠羊(以下、百元)
中国アニメは子ども向けの娯楽として長年続いてきましたが、近年は青少年向けの娯楽としてオタク要素も含んだ作品が増え、2次元と呼ばれるジャンルがいよいよ確立されてきました。環境的な面ではアニメの放送はテレビから動画サイト配信に移行しまして、現地の制度的な障害も少なくなって配信ペースも上がり、商業的に扱える若者向けコンテンツとして存在感が増しています。

さらに、近年はビジネス的に成功させようという意図を持った企業からの金銭的な後押しも増え、良質な作品を作ろうという動きが活発になっています。

――そういった環境の中で日本のアニメはどういった立ち位置なのでしょうか?

百元
現在の中国における日本のアニメ配信ではiQIYI・YOUKU・ビリビリ動画が、国産アニメでは多くのスタジオを有するテンセントが活発に動いているなど国内の競争は激しいです。オタク向けのコミュニティーということでは、日本でもビリビリ動画の勢いが知られていますね。

そこでの有力なカードのひとつとして日本のアニメがある、といったところでしょうか。一般受けするドラマや実写化作品と比べてメインにはなり得ないのですが、定期的に一定数以上の新作が提供され、ファンが毎シーズン盛り上がるということで需要があるんだと思います。

――中国では日本のアニメを観るに当たって反日感情は作用しないんですか?

百元
日本が気に食わないところはあります。ただし、中国では政治的、歴史的、宗教的といった敏感な問題はスルーしたやりとりに慣れているんですよ。いわゆるダブルスタンダードなので、反日感情は別にして日本のコンテンツを楽しむ人が多いわけですし、さらに言えば、中国で日本のアニメやマンガが人気になったのは、そういった政治色なり歴史色のない無色だったことも大きいと思います。

ネットのアニメ作品を語る掲示板などでは、日本のコンテンツに対して、政治的に取れるような中国では敏感な問題になる内容があると「俺達がせっかくアニメを楽しんでいたのに、何故そんな野暮なことをするんだ」と叩かれることがありますから。

――俗に言われる海賊版問題はどうでしょうか?

百元
まずディスクを売る一般的な海賊版のイメージがありますよね。それが中国では非常に多かったのが、P2Pのファイル共有ソフトによって、ネットに繋げばタダで動画が手に入るようになり、海賊版売りが大打撃を受けてほぼ消えてしまいました。

次に中国での正規配信より先にネットに違法アップロードをする字幕翻訳組が出て来まして、独自に翻訳した字幕を付けてアップしたデータが一時期多く見られました。
しかし、それも動画配信サイトでどんどん大量のリソース投入されるようになり、安定した画質や字幕の精度の高さで正規配信の勢いに押されて無くなってきています。視聴者にとっては比較的楽な環境で基本的には無料で見られるので、需要がなくなったと言えるのではないでしょうか。

ただし、今年に入ってから動きがありまして、今度は各動画配信サイトが有料会員向けの先行配信、あるいは有料配信というのをかなり強く打ち出すようになっていますから、また現地のアニメ視聴の環境も大きく変わるかと思います。

■中国ではヒットする日本のアニメの条件
――中国ではどのような日本のアニメがヒットしていますか?

百元
アニメ視聴者の好みの変化が激しいので一概には言えません。劇場版アニメ映画を例に出すと、『君の名は。』が中国で大ヒットしました。しかし、作品のパワーに加えて、宣伝など全てが上手くいった例外的な結果だったと言えます。
その後、日本のアニメ関連映画は当たると、二匹目のドジョウを狙って『銀魂』など3〜4本程が中国で公開されましたが、現地のアニメ視聴者の間では一定以上の評価を得られていても、中国の業界的な感覚からするとお世辞にもいい評価ではなかったですね。

オタク向けとしてパワーがある作品を見たいという要求は強いものの、特定のジャンルには絞れないところがあります。そもそも、世代の入れ替わりによる環境の変化が激しく、2〜3年違えば好みも趣味に使うお金の感覚も違ってきます。このジャンルが当たったから次も当たるとはなりにくいですね。

ただし、一部のアニメ製作会社のブランドイメージは定着しています。例えば、1月の新作アニメは、京都アニメーションの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』と、TRIGGER×A-1 Picturesによる『ダーリン・イン・ザ・フランキス』が重なりましたから「日本のアニメの2大ブランドが衝突するすごいシーズンになるぞ」と中国では盛り上がり、4月になっても引きの強いアニメとして『ダーリン・イン・ザ・フランキス』が人気を維持しています。
ところがふたを開けてみたら、日本では『ポプテピピック』が話題をさらっていたので、現地では戸惑う声も多く聞かれました(笑)。

――日本では放送後も人気が継続するアニメが少なくありません。その点では日本のアニメは中国ではどうでしょうか?

百元
実は中国の環境と笑いのツボに刺されば、人気継続するのがギャグ系アニメ作品です。これは『銀魂』からの流れですね。
中国のビリビリ動画は、日本のニコニコ動画的なコメント弾幕でツッコミながら楽しむ疑似同期的な視聴なんですね。これが中国のオタクにとっては主流な視聴スタイルになっています。

1月も『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『ダーリン・イン・ザ・フランキス』が話題的には大きかったですが、全体的な再生数で見れば同じ1月放送の新作アニメ『斉木楠雄のΨ難』が上でした。4月から放送開始した同じギャグ系の『ヒナまつり』も再生回数で良い調子をキープしています。

ストーリーが壮大で面白いとされるアニメは配信が終わって次のシーズンになると、ファンがあっさりと次の作品に移る傾向があります。日本ならグッズ展開もそうですし、原作のマンガなり小説なりのメディア展開がありますが、中国ではアニメ放送しかないので配信が終わると急速に熱が冷えてしまうんですね。
続編もこれのせいで第1期が大ヒットしたはずなのに、第2期はパッとしないということもよく見られます。中国向けにアニメビジネスをやる場合は考慮しなくてはいけない部分ですね。

■中国の国産アニメVS日本のアニメ
――国産アニメと日本のアニメどちらの人気が高いのでしょうか?

百元
国産アニメはオタク層に限らず一般向けに作られていますから、日本のアニメよりも常に大きい市場があるので、人気ということに関しては国産アニメには絶対敵いませんよ。日本のアニメが独特なのは、国産アニメが独占する市場の中で、隙間に上手く入れることでしょうか。

言ってみれば、オタク向けの非常にマニアックで、さらには好みがバラけたところをカバーしていますから。その方向での需要というのは今後もさらに続くことが考えられます。ただ、今までが日本のアニメにとって、ボーナスタイムだったということは間違いありません。

まず今の中国の若い世代はアニメを観ることに関して日本より抵抗がないんですね。そういった環境で主に観ているのが、昔は日本のアニメが結構な割合でしたが、今は国産のCGアニメが主流です。CGアニメを観て育つ世代が増えているので、日本のアニメの文脈を汲んだ見方が理解できない。あるいは、勉強しなければ入りにくいケースが起きています。そのあたりの良いと感じるセンスの違いがさらに出てくる可能性はありますね。

また内容に関しても中国では武侠作品が昔も今も基軸にあって、アニメにしろ、ゲームにしろ、その文脈に則って作られている作品が多いですから、日本の造り手と中国の受け手の感覚はどんどんズレていくことが予想されます。

――中国はアニメビジネスの市場として注目されていますが?

百元
中国ではアニメビジネスの勢いがすごいと言われますが、国産アニメに投資される金額は大きいものの、収益で見るとまだ模索段階なところがあります。作品が人気を稼げても、そこから株価以外で収益を得ていくのかが難しいようです。
日本のアニメにしても同じで、日本側は中国側にアニメの放映権を売るだけですが、中国側が買ったアニメの放映権をどのように活かしてビジネスに繋げていくのかとなると、アニメを取り巻く環境が毎シーズン変化しているので非常に読みづらいところがあります。

国産アニメに関しては、CGは世界トップレベルですから、上手く資本を投入して継続的に作ってくれれば、『西遊記』のようなヒット作品が次々に生まれると思うんですが、現実はちょっと“焼き畑農業”のようですね。

『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』(C)2015 October Animation Studio,HG Entertainment
“焼き畑農業”というのは、中国では企画前提でアニメ製作を始めてしまい、視聴者の反応を拾えないまま、グダグダになることが少なくないからです。アニメを作るだけで止まり、そこから展開させる、人気を維持する、ファンを楽しまながら育てるといった、ひとつのコンテンツで継続して稼ぐことがあまり上手くいっていない。これはソーシャルゲームの運営などにおいても苦戦しているところですね。

もちろん、これが悪いわけではなく、次々に作品をヒットさせて稼いでいけばいいのですが、オタク向けでファンの間で盛り上がる場合には、すぐに燃料切れを起こして逆に沈下してしまう所もありますので、“焼き畑農業”だと相性が悪い気がしますね。

■『FGO』『アズールレーン』に見られる中国での規制厳しさと中華系ネタのリスク
――中国ではCGアニメが主流ですが、近年は中国でも『アズールレーン』のよう日本の萌え系イラストを起用したゲームが開発されています。その背景は?

百元
2次元というジャンルが確立されつつあるので、単純にそういった絵柄に慣れ親しんだ一定層が増えたからですね。そういった萌えなり2次元系のイラストに、CGイラストとはまた違ったカッコよさ、中二病的な魅力を感じるオタクも現地では育成されています。
そういったセンスを集めて作られた中国向けなのが『アズールレーン』になりますかね。イラスト単体で見れば、この数年で超速の進歩を遂げていますから、日本に持って来ても全く問題なくなってきていますね。

――中国ではイラストが過激すぎるという理由で、『アズールレーン』や『Fate/Grand Order(以下FGO)』が規制が入ったことで話題になりましたが?

百元
日本のほうがある意味では厳しいように見えるところがありますね。中国は原理原則でいえば日本よりも厳しいのですが、たまに厳しく取り締まることでアピールしているような面があるので、一概に日本よりも厳しいとは言えない。野放しになっている、あるいは放置されてところが日本より広くあります。

中国ではお色気やアダルト描写、ポルノに関しては明確に禁止。子ども向けという枠を考えれば、暴力シーンなど残虐な描写に関しても非常に問題視されます。
ただし、ガイドラインが不明瞭なうえに取り締まりの判断や期間も一定しないので、取り締まりのない期間、あるいは取り締まりのない分野はかなり野放しにされていますね。言ってしまえば、一目でポルノと分かるあからさまなものでなければ放置されることもあります。

少なくとも日本と同じジャンル、同じような年齢層のターゲットとなると、中国のほうが過激になる傾向が強いと僕は感じていますね。取り締まりを受けたら運が悪い、あるいは取り締まりを受けるような空気になったら自粛すれば良い、と考えている向きがありまして。
実際に『アズールレーン』に関しては、同ジャンルの日本の『艦隊これくしょん』より過激になっている傾向が見られますから。日本のように暗黙での自主規制のラインが、中国ではあまり意識されていないような気がします。

そういう意味でも、コンテンツの育て方に関して“焼き畑農業”になりますし、変な炎上の仕方をしてしまうと、中国ではジャンルごと潰されてしまうことがあり得ないわけじゃないので。過去にゲームセンターもそれで一斉になくなってしまうような時期もありましたからね。

――『FGO』では中華系サーヴァントが原因で俗に言う炎上が見られました。中華系ネタは中国では難しいのでしょうか?

百元
FGOに限らず他のコンテンツでも同じような問題は結構ありますね。中華系ネタの活用に関してはネットが広まってしまった分、重箱の隅を突くような見方をする人が増えました。歴史・文化・食事は身近に語れる要素なので粗探しも簡単にできてしまうので、殺伐とした空気や炎上に繋がることがあります。熱心なファンであっても、中国の描写がおかしいと興醒めしてしまう人がいます。

そういった点から、作品に中華系要素は要らないという声が出て来ています。中華系ネタを入れたからと言って中国の視聴者は喜んでくれるとは限らず、むしろ日本の知識や感覚で作った中華系要素の入ったコンテンツは炎上などのリスクが上がってしまいかねない。

中国人スタッフを入れたとしても、その知識が日本に偏り過ぎたり、マニアックに偏り過ぎたりする可能性はあります。
現在の主な視聴者とは年代が違う、あるいはオタクとして積み重ねてきた知識や好みが違うこともあるので、安全かつ現地受けする中華系ネタ導入するのは難しいと思います。

さらに、日本が持つ中国の歴史や文化に対する一般的なイメージと、現在の中国が持つイメージがズレていることも大きいでしょう。
始皇帝にしても、三国志にしても、現地での解釈によるイメージが共有されていますから。これはどっちが悪いというのではなく、ズレから来る違和感あるいは反発が生まれてしまうので、なかなか難しいと思います。

FGOに関しては、中国に気を使っても上手くいかないでしょうし、適度に自由にコンテンツを作っていくのが、現地でも人気の原動力になるんじゃないですかね。炎上のリスクを認識するのは重要ですけど、その結果、下手に遠慮して中国受けするだろうという感覚のものを作品に入れてもあまり良い結果にもならないでしょうから。

なるほど。「日本のアニメは中国で大人気」だといっても、日本と現地では視聴者の見方が違うように、認識のズレは思ったよりも大きいのかもしれません。
それでも人口が13億9千万以上の中国では、隙間と言っても視聴者数が日本とは桁違いなのも事実です。現状、アニメビジネスにおいて、一番のお得意さまである中国に市場を広げ続けるとしたら改めて方向性を考える時期がきたのかもしれません。

百元籠羊
十数年の中国生活をとりあえず終えて帰国。中国に広まった日本のオタク文化や、中国のオタクな若者達に関する情報をブログから発信。また、様々なニュースサイトなどに寄稿をしています。

「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む
http://blog.livedoor.jp/kashikou/

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