BUMP OF CHICKENの楽曲に感じる“バンプらしさ”の源泉とは? 「望遠のマーチ」などから分析

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2018年08月15日 10:12  リアルサウンド

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 BUMP OF CHICKENによる10作目の配信限定シングル「望遠のマーチ」が、7月23日にリリースされた。


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 本作は、前作「記念撮影」より約1年ぶりの新曲で、これで5作連続の配信限定リリースとなる。ガンホーのスマートフォン向け新作ゲーム、『妖怪ウォッチ ワールド』のCMソングにも起用されており、キラキラとしたアコギの音をフィーチャーした透明感のある、それでいて疾走するバンドサウンドに胸踊らされるような、ある意味“BUMP OF CHICKENの王道”とも言える楽曲に仕上がっている。


 では、その「BUMP OF CHICKENらしさ」とは一体どういうものなのだろうか。今回は、彼らが生み出した数多くの楽曲の中から2005年以降のシングル曲を5枚(「望遠のマーチ」含む)ピックアップし、その仕組みを探ることにした。


 まずは、彼らが2005年にリリースした通算11枚目のシングル『supernova/カルマ』から、「カルマ」を取り上げる。この曲は、ゲームソフト『テイルズ オブ ジ アビス』主題歌であり、同作品のテレビアニメ版のオープニングテーマ曲にも起用されたもの。哀愁漂うメロディと、つんのめるようなシンコペーションのリズムが特徴だ。


 キーはG♭で、イントロはE♭m7 – D♭onF – G♭add9 – Badd9を2回繰り返した後、E♭m7 – E♭m7 – Badd9 – Badd9をさらに2回繰り返す。ギターのコードが次第に下降していくのに対し、ベースラインは途中で分数コードを作りながら全音もしくは半音で上昇していく。いわゆる「クリシェ」と呼ばれる手法(The Beatles「Michelle」が有名)。前段2小節目のD♭onFが、何とも言えない浮遊感を醸し出しているのだが、バンドのメインコンポーザーである藤原基央(Vo/Gt)は、多くの曲でクリシェとそれによる分数コードを多用し、自分の持ち味にしている。


 続くAメロも、Badd9 – G♭onB♭ – A♭m7 – E♭m7 – Badd9 – G♭onB♭ – D♭sus4 – D♭というコード進行の中で、シ→シ♭→ラ♭という具合に半音または全音で下降している。ルートを追って、ベースラインがあちこち飛び回るよりは、こうして近い音で流れるように進んでいく方が洗練した響きになるのだ。サビも同様。コード進行はBadd9 – Badd9/D♭onF – G♭/A♭m7onG♭ – G♭/G♭onB♭ – D♭sus4 – B♭7onD – E♭m7/D♭onF- G♭add9で、特に印象的なのはD♭sus4 – B♭7onD – E♭m7のところ。B♭7はE♭m7のサブドミナントコードで、ベースは半音ずつ上がっている。ちなみにメロディは、Aメロの部分で9thの音を多用し、しかも同じ音を繰り返したかと思えば急に抑揚をつけるなど、予測不能な動き方をするところがユニークだ。


 2007年にリリースされた通算14作目のシングル曲「メーデー」も、やはり分数コードを巧みに用いている。サビを聴いてみよう。キーはE♭で、前段はE♭ – E♭/B♭onF – A♭ – A♭/B♭onF – Cm – B♭ – Fm7/Gm- A♭。ソを起点に駆け上がっていくメロディが聴き手に高揚感をもたらすが、同じ旋律を繰り返す中、コードがどんどん変化していくことで、全く違う響きを作り出す。後段はE♭onG – E♭onG/B♭ – A♭ – A♭/B♭ – Cm – B♭ – A♭ – D♭で、特に1小節目E♭onGの分数コードは、普通にE♭が来ると思っていたばかりに予想を裏切る展開でハッとさせられるわけだ。


 通算15作目のシングル『R.I.P./Merry Christmas』(2009年)表題曲の一つ「R.I.P.」は、ずっと同じアルペジオをギターが奏でる中、ベースラインが変化し響きを変えていく。いわゆる「ペダルノート(持続音)」と言われる手法だ。


 例えばAメロは、キーがD♭でA♭sus4onF- A♭sus4onF – A♭sus4onG♭ A♭sus4onG♭ – A♭sus4- A♭sus4- A♭sus4onB♭- A♭sus4onB♭と進む。このベースラインはくるりの「ばらの花」などのサビと同じで、いわゆる「4536進行」の派生形。Bメロは、A♭sus4 – A♭sus4onG♭ – A♭sus4onF – F#m6onA – A♭sus4 – E♭onG – A♭sus4onG♭ – A♭sus4となり、やはりベースは1音もしくは半音で滑らかに進んでいく。ちなみにF#m6onAはサブドミナントマイナー。6小節目のE♭onGもバッハっぽいというか、クラシカルな響きがとても印象に残る。


 サビのコード進行は、前段がA♭onG♭ – D♭onF – E♭m7 – D♭onF – A♭onG♭ – D♭onF – E♭m7/A♭ D♭add9。1小節目、5小節目の分数コード「A♭onG♭」の、つかみどころのない浮遊感がとても効いている。ここでもベースは、ソ♭→ファ→ミ♭→ファ→ソ♭→ラ♭と、半音または全音で進む。後段はCm7(-5) – Adim – B♭m7/D♭onA♭ – E♭onG – D♭onA♭ – A♭7 – D♭onA♭ – A♭。Cm7(-5) – Adimは、続くB♭m7へ向かうためのツーファイブ(IIm-V7-V)の派生形で、AdimはF7の代理コード。またB♭m7/D♭onA♭ – E♭onGも、構造としては「B♭m7 – E♭」のツーファイブで、そこに経過コードのD♭onと、クリシェ進行するベース(シ♭→ラ♭→ソ)が加わった形になっている。ここも非常にクラシカルな響きで、藤原のファルセットを引き立て楽曲のピークを演出しているのが分かる。


 アニメ『魔女の宅急便』や『アルプスの少女ハイジ』、『サザエさん』などをモチーフにした映像が大きな話題を集めた日清カップヌードル「HUNGRY DAYS アオハルかよ。」のテレビCMソング「記念撮影」。ファンの間では、初のリリックビデオが制作されたことでも知られる曲だが、キーがDでコード進行はD/E – C#m/D – D/E – C#m/F#mのループで構成されている。上述した「4536進行」つまりIV-V-IIIm-VImの王道パターンである。シンディ・ローパーの「Time After Time」やスピッツの「ロビンソン」、平井堅の「瞳をとじて」など数多くの名曲を生み出した、「ずっと聴いていられるコード進行」の一つだが、この「記念撮影」はまさに、4536進行を最初から最後まで繰り返し、リズムやメロディのバリエーションで楽曲に彩りを与えているのだ。


 そして、最後に新曲「望遠のマーチ」を改めて聴いてみよう。キーはBで、AメロはB – B – A♭m – E♭m – E – A – B – B。ダイアトニックの循環コードにトニックコードの全音下、VII♭(つまりここではA)を当てるのは、「メーデー」のサビの終わりにもあったが、このコード一発で雰囲気がぐっとブルージーになる。BメロはG♭ – A♭m – G♭onB♭ – B – A – A♭m – G/A。ここでも前半のベースはクリシェ進行になっていて、G♭onB♭という分数コードを経てBへと半音〜全音進行でスムーズに到達する。サビ直前のG/Aも調整から外れるが、全音進行でトニックコードへ到達する。これもまた、ブルージーな響き。


 サビはB – B – B – B – A♭m – A♭m – E♭m – D – F# – F# – F# – F#。とてもシンプルな循環コードで、メロディは前半が2音のシンコペーションが強烈なインパクトを生み、後半は〈その羽根で飛んできたんだ〉の〈きたんだ〉の部分で、ブルーノート・スケールで用いられる「微分音」、つまり短3度と長3度の中間の音を用いていて、ここでもいなたくブルージーな響きを作り出している。分数コードやクリシェを用いたクラシカルで浮遊感あふれる響きに、ブルージーな響きを絶妙なバランスで加えることにより、楽曲にコントラストを生み出しているのだ。


 「記念撮影」「望遠のマーチ」と、ここ最近は初期のBUMP OF CHICKENに立ち返ったようなシンプルなコード進行を用いているが、随所に散りばめた仕掛けや、アレンジの工夫により広がりと深みが増したBUMP OF CHICKEN。2016年の『Butterflies』以来となる、来るべき新作アルバムがどのようなものになるのか今から楽しみだ。(黒田隆憲)


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