アン・ハサウェイ、米批評家から大絶賛! 『オーシャンズ8』が参照したポップカルチャーを解説

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2018年08月15日 10:12  リアルサウンド

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 『オーシャンズ8』がオール女性キャストである理由はなんだろう? 答えは「女性は無視されるから」。人目の多い場所で虚をつくには、男性より存在を無視されやすい女性のほうが有利。サンドラ・ブロック演じるデビー・オーシャンは、計画遂行のためーーつまりは「プロフェッショナル」な理由で女性を集めたのである。ただし、目的は窃盗。『オーシャンズ8』は「プロフェッショナル」なアウトロー女性が集った類を見ないスター映画だ。


■ファッションの祭典メット・ガラを完全再現


 『オーシャンズ8』は「プロフェッショナル」な映画であると同時に、シリーズ最高級に「ゴージャス」でもある。ターゲットは、1900年代初頭、当時の女性ディレクターの名を冠したカルティエの宝石トゥーサン。その宝石をスターに着用させ、ファッションの祭典メット・ガラで盗む大胆な計画だ。メトロポリタン美術館に300人のエキストラを動員したメット・ガラの完全再現はまさしくハイライト。その徹底ぶりは端役にまで及ぶ。実際の同イベント常連セレブリティがカメオ出演しているのだ。カイリー・ジェンナー、キム・カーダシアン、ジジ・ハディッド、セリーナ・ウィリアムズ……画面の端々にうつるセレブリティを探す遊びも楽しめるだろう。


 主要キャストのドレスはドルチェ&ガッバーナ、ジバンシィ、ザック・ポーゼンといった名だたるメゾンがクチュールを提供している。ディレクションはアナ・ウィンターが行ったようで、ブロックは役名にちなんだ「オーシャン」柄のアルベルタ・フェレッティを着用。ミンディ・カリングには、インド系デザイナーによるナイーム・カーンがあてられている。余談だが、劇中アン・ハサウェイが着用したヴァレンティノのケープは7.5m。現実の2015年メット・ガラでリアーナが着用したグオ・ペイのオムレツドレスよりも長い。


■ケイト・ブランシェットはキース・リチャーズ、リアーナはボブ・マーリー?


 一方で、ポップカルチャーのリファレンスも興味深い。例えば、衣装のインスピレーション。ケイト・ブランシェット演じるルーの衣装はキース・リチャーズのようなロックスターを志向している。The Hollywood Reporterに掲載されたイメージボードではマドンナやフローレンス・ウェルチの姿も確認できる。リアーナ演じるナインボールはボブ・マーリーが強く意識されており、同じく女性ハッカーをルーニー・マーラが演じた『ドラゴン・タトゥーの女』も参照に挙がっている。衣装一つとっても膨大なカルチャー参照が行われた緻密なキャラ造形だ。


 さらに踏み込むと、キャスト自身のパブリック・イメージが投影されたパターンも散見される。例えば、ルーはブランシェットと同じオーストラリア出身設定。ナインボールはリアーナと同じくウィード好きのバルバドス人だと明かされている。このように、キャスト自身のイメージまでリファレンスする『オーシャンズ8』だが、実は、その中でひときわ絶賛されたキャストがアン・ハサウェイだ。彼女が演じるのはスター女優ダフネ・クルーガー。インスピレーション元は伝説の大女優、エリザベス・テイラーだ。


■かつて「アメリカ一嫌われる女優」と呼ばれたアン・ハサウェイ


「アン・ハサウェイは『オーシャンズ8』のクラウン・ジュエルだ」ーVaniry Fair


「アン・ハサウェイのセルフ・リファレンス・ディーヴァは『オーシャンズ8』のベストパート」 ーHuffPost


「 『オーシャンズ8』には沢山の魅力があるが、アン・ハサウェイが演じる“アン・ハサウェイ”が最も輝いている」 ーVulture


 これらは、アメリカの大手メディア批評家による『オーシャンズ8』アン・ハサウェイへの絶賛だ。賛美の一因には、前述した「セルフ・リファレンス」要素がある。


 まず、ハサウェイ演じるダフネ・クルーガーについて紹介しよう。彼女は、オーシャンズの標的にされる女優。メット・ガラのホストを務め、カルティエに唯一無二の宝石=トゥーサンを提供されるトップスターだ。その一方で、タブロイドを騒がせる「目立ちたがり屋のワガママ女優」でもある。ゲイリー・ロス監督いわく「ディーバ」、ハサウェイいわく「有名になるために女優になったワガママ女性」……さて、なぜこの役がハサウェイの「セルフ・リファレンス」と呼ばれるのだろうか?


 アン・ハサウェイがかつて「アメリカ一嫌われる女優」と呼ばれていたことをご存知だろうか。時期としては2013年、『レ・ミゼラブル』でアカデミー助演女優賞を獲得した頃である。とくにバッシングを呼んだのはアワードの受賞スピーチ。「わざとらしく大げさ」だと不評を買い、彼女のアンチ「ハサヘイター」が大量出現するバッシング・ムーブメントが発生した。彼女がアカデミー賞の壇上で行った「大げさな息つぎ」はジェームズ・フランコにまで「わざとらしかった」とコメントされている。


 なにを隠そう『オーシャンズ8』のダフネ・クルーガーは、この時期のアン・ハサウェイのパブリック・イメージにそっくりなのである。例えば、当時のハサウェイは「アカデミー賞演説の猛練習をしている」と皮肉かつ不当に報道されていた。劇中のダフネもまた、はたから見れば滑稽なほどメット・ガラの準備を神経質に執り行う。その中では、前述した「大げさな息つぎ」も見ることができる。その姿はまるで「アン・ハサウェイ演じるアン・ハサウェイ像」だ。


 加えて、『オーシャンズ8』には有名な「ドレス戦争」事件も登場する。まず現実の事件を紹介しよう。2013年、ハサウェイはアカデミー賞授賞式の直前で、ドレスをプラダに変更。着用予定だったヴァレンティノが他のセレブリティのものと似ていたための対処だった。のちに、ドレスが被った相手は、共演者のアマンダ・セイフライドであり、さらには「後輩相手にアンが激怒しパニックを起こした“噂”」をゴシップ・メディアが報道した。一方『オーシャンズ8』での「ドレス戦争」はこのようなものだ。ダフネ・クルーガーはダコタ・ファニング演じる若手女優に嫉妬し、後輩からドレスのデザイナーを奪おうと画策する。そして、その様子をタブロイドにスクープされイメージを落とす……真実はいざ知らず、かつてゴシップ・メディアが描いた「アン・ハサウェイのイメージ」を戯曲化したような筋書きだ。


 『オーシャンズ8』において、アン・ハサウェイは「自身のペルソナのパロディ」を行ったーー数々の批評家はそのように捉え、彼女のパフォーマンスを絶賛した。ハサウェイ自身もまた、ダフネ役を「自分の影のように感じる」と語っている。彼女はこの役を楽しんだと明かしているが、実際、ダフネは非常に愉快で魅力的だ。「わざとらしく嫌われる女優」だからこそのコミカルで個性的なキャラクターとなっている。Esquireは、本作が「俳優としてのハサウェイの素晴らしさ」を人々に気づかせるものだと呈し、このように称賛している。


「『オーシャンズ8』はハサヘイターが自身の間違いに気づく瞬間となるだろう」


 本稿の冒頭で『オーシャンズ8』は「プロフェッショナル」な映画だと称した。では、オーシャンズの標的となるワガママ女優ダフネ・クルーガーはなんの「プロ」なのだろうか? 鑑賞時には、標的ポジションながら絶賛されたダフネに是非注目してほしい。補足として、不当なバッシングを浴び続けたアン・ハサウェイがキャリアを通して「プロフェッショナル」な俳優であったことは言うまでもないだろう。(文=辰巳JUNK)


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