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「英雄」マケインはなぜ2度も大統領になり損ねたのか

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2018年08月29日 20:21  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<トランプ大統領に物言う政治家として、党派を超えて尊敬を集めていたジョン・マケイン。だがアメリカの政治と世論にはとうに見捨てられていた>


米共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員が8月25日に死去した。81歳だった。1年前に脳腫瘍と診断され、闘病中だった。祖父も父も海軍大将という軍人一家に生まれたマケインは、海軍のパイロットとして従軍したベトナム戦争で「英雄」となった後、政治家に転身し、世界におけるアメリカの指導力を不断の努力で守ってきた。


「ジョン・マケイン上院議員は、妻のシンディーと家族に看取られて亡くなった。彼は60年にわたって誠実にアメリカに尽くした」と、マケインの事務所は声明を出した。


アメリカ政治が専門の筆者としては、彼の評伝や人間的な魅力が何であれ、アメリカ政治における3つの強力なトレンドが、2度にわたって大統領を目指した彼の野望に立ちはだかったことのほうに興味を引かれる。3つのトレンドとは、アメリカにおけるキリスト教右派の台頭、党派間の対立、外国で戦争をすることに対する世論の厭戦気分だ。


超党派の人気に衰え


マケインは党派を超えた立法のチャンピオンで、米上院の議会運営に貢献した。だがアメリカで政治的な分断が広がるにつれ、彼のような超党派の政治家はかつての人気を失った。


マケインは今年5月、ドナルド・トランプ米大統領が米中央情報局(CIA)長官に指名したジーナ・ハスペルの就任に反対した。かつてテロ容疑者の拷問に関与したといわれるハスペルが、「拷問の不道徳さを認めることさえ拒否した」からだ。マケインはベトナム戦争で5年半にわたって捕虜となり、激しい拷問を受けた過去がある。そのため、米政府がいわゆる「強度の尋問」を認めることに対しては、断固反対の姿勢を貫いてきた。だが他の議員の十分な協力は得られず、指名阻止はかなわなかった。


その数日後、マケインのハスペル指名反対について「マケインはどうせ死ぬんだから関係ない」と、トランプの側近は言った。こんな暴言が吐かれること、そしてホワイトハウスが見て見ぬふりをしたことから、トランプとその周辺のマケインに対する強い憎悪が見てとれる。トランプの態度がホワイトハウスの隅々まで浸透していることも明らかだ。


大統領選に挑戦


マケインは名誉と勇気のなかで政治家としてのキャリアを閉じた。ただしホワイトハウスから疎まれ、共和党が多数派を占める上院ではほとんど影響力もなく、彼が長年貫いてきた高潔な政治姿勢にも昔ほど関心を示さない国民のなかで、だ。


マケインは大統領選に2000年と2008年の2度出馬した。初挑戦となった2000年の大統領選ではジョージ・W・ブッシュ元大統領と共和党候補の指名を争い、「マケイン旋風」を引き起こした。自信に満ちた「一匹狼」としての彼のイメージは、世俗的で穏健な有権者の心を捉えた。だが、次第に結びつきを強めていたキリスト教右派と共和党からは疎まれたかもしれない。


2000年の共和党予備選で、マケインは「いつ何を聞かれても率直に答える」をモットーにバスを走らせた。彼が徹底的に攻撃したのが、当時キリスト教右派の象徴的存在だったパット・ロバートソンとジェリー・ファルウェルだった。


キリスト教右派を敵に回す


マケインは、ロバートソンとファルウェルに「不寛容の斡旋人」「帝国の創始者」という汚名を浴びせ、2人は労働者を従属させるために宗教を利用した、と非難。彼らの営利目的の宗教は、「人々の信仰と共和党とアメリカ」に対する侮辱だと言った。


そのメッセージが功を奏し、マケインはニューハンプシャー州の予備選で勝利を収めたが、サウスカロライナ州では敗北し、撤退した。同州の共和党有権者が、敬虔なキリスト教福音派(キリスト教右派)であるブッシュの支持に回ったのが敗因だった。


2度目の大統領選に挑む2008年までに、マケインは白人のキリスト教福音派が持つ影響力の増大を目の当たりにした。聖書の教えを忠実に信じるとされる米国最大の宗教勢力である福音派は、当時すでに有権者の26%を占めていた。マケインは本選で勝つために変節し、彼らに融和的な姿勢を見せるようになった。


マケインは「キリスト教国家」としてのアメリカを守ると表明し、敬虔な福音派で問題発言も多かったアラスカ州知事、サラ・ペイリンを副大統領候補に指名した。有権者層はそれだけ不寛容で、絶対的な価値観に基づく政治へと傾いていた。


マケインがキリスト教右派に歩み寄ったのは、本来プラグマティストである彼が変節し、年齢的にも最後のチャンスとなる大統領選の命運を彼らに託したことを意味した。


マケインの変節


その戦略は、彼らに大統領選での勝利を脅かされた時は自分の信条を捨て去ってもいい、というマケインの姿勢を反映するものだ。彼にしてみれば、2000年の大統領選で偽善的なキリスト教右派を敵に回した手前、道徳的権威を自称する宗教指導者にへつらうのは不本意だったかもしれない。だが、8年前と比べて有権者は変化していた。マケインも進んで彼らの信仰に寄り添う姿勢に転じた。


異端児となった穏健派


2000年以来、民主・共和両党の主張が似通ってきたことで、選挙戦はより激しいものになった。おかげで、両党ともに資金調達競争が過熱した。両党幹部が政策をめぐって繰り広げる「公聴会を開き、審議し、妥協する」という議会におけるこれまでの法案制定の手順は崩壊した。


「政策の要求者」として知られる活動家や利益団体や大口献金者にあおられて、党派による二極化が激しくなり、穏健派の存在を脅かしている。


マケインは問題解決のためなら進んで超党派の立場に立ち、2002年の選挙資金改革案を通すために民主党と妥協しようとした。1995年にはベトナムとの国交正常化のために、反対派と協力した。そして17年には移民制度改革を通すために民主党に合流した。


しかし彼もまた、いつのまにか自分の党の外にはじきだされていた穏健派の一人だった。


マケインは議会上院で審議されていた共和党の医療保険制度改革(オバマケア)の廃止・代替案に、最後の最後で反対票を投じた。オバマケアはマケインの1票で救われた。彼の行動の根底にあったのは、トランプに対する反感よりも、党内の法案制定の手順が崩壊したことに対する嫌悪感だった。


彼はヘルスケアのような大きな問題では、「幅広く意見を聞き、審議をつくし、改正する」という手順が必要だと主張した。彼は共和党のラマー・アレクサンダーと民主党のパティ・マレー上院議員がまとめた超党派の改正案を支持した。


外交と国防で信念を貫く


外交と国防政策はマケインの選挙戦の特徴的なテーマだった。潤沢な資金に恵まれ、臨戦態勢の軍隊に支えられたアメリカが、より確固たる姿勢で世界的なリーダーシップをとることを彼は望んでいた。だがその姿勢は、悲惨な結果に終わったイラク戦争とその後の10年間で、国民の支持を失った。


マケインの08年の大統領選挙のスローガン「カントリーファースト(国が第一)」は、彼の個人的な信念と献身を意味するだけではなく、テロとの戦争、特にイラクとアフガニスタンの戦争には粘り強さが必要だと言う彼の信念を表すものだった。


だがそれまでに、マケインの選挙基盤である無党派層の55%が、軍事的な勝利の見通しに確信をもてなくなっていた。彼らは米軍の撤退を支持した。


イラク戦争に対する無党派層の支持は、54%から40%に低下した。全体の63%が米軍の大規模増派に反対だった。バラク・オバマ大統領は、アメリカの軍事的な関与を縮小し、アメリカを立て直すことを誓った。それは戦争に疲れ、経済的な苦境に打ちのめされた有権者の共感を呼んだ。


リーダーとしてのアメリカを提唱


マケインはアメリカの力の優位性を主張し続けた。彼はアメリカのリーダーシップと、自由、資本主義、人権と民主主義に基づく世界秩序から手を引こうとする動きを非難した。


ドナルド・トランプの立場は対照的だ。オバマと同じように、トランプはコストの高い国外での活動を終結させ、「アメリカ第一」になっていない防衛・貿易協定を取り消し、アメリカの崩れかけたインフラの再建を約束する。


大統領就任時、トランプはアメリカの力と資源が世界を守るために浪費されていると主張した。彼に言わせれば、他の国々はアメリカの気前の良さを、利用している。


議会共和党は、アメリカの軍事介入や反乱鎮圧活動、国造りの支援について慎重になっている。シリア内線への軍事介入には、国民の支持はほとんどない、と彼らは感じている。


マケインはロシアをアメリカにとって不倶戴天の敵と見て、対ロ制裁法案を後押しし、より積極的に実施するよう政府に求めた。


フィラデルフィアで自由賞を受賞した時は、世界のリーダーシップに対するトランプのやり方を否定した。


マケインはこう宣言した。「世界中で人類が進化させてきた理想を放棄し、問題を解決するよりもむしろスケープゴートを探そうとする人々がでっちあげた不完全なまがい物のナショナリズムのために、世界のリーダーとなる義務を拒絶することは、 アメリカ人が過去のものとして捨て去った古臭いドグマに固執するのと同じくらい愛国心に欠ける行為だ」。


マケインは、原則を貫くことに生涯を捧げた。残念ながら、アメリカはその原則を以前ほど好きではなくなった。それはアメリカという国を危険にさらすことになるかもしれない。


(翻訳:河原里香、栗原紀子)


Elizabeth Sherman, Assistant Professor Department of Government, American University School of Public Affairs


This article was originally published on The Conversation. Read the original article.




エリザベス・シャーマン(アメリカン大学公共政策学部、准教授)


このニュースに関するつぶやき

  • オバマよりもトランプよりもこの人が大統領になってくれてたらなぁ、と思わずにはいられない。
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  • 米国は時に失敗もしたし、暴走もしたが、一つの普遍的価値観がその行動原理には貫かれて居たから世界のリーダーたり得た。その価値観をトランプは自ら放棄しようとして居る。これが何を意味する
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