捉え方で評価が変わる? 『ザ・プレデター』は「ドン詰まりの男子のバカ騒ぎ映画」として満点!

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2018年09月23日 10:02  リアルサウンド

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 『ザ・プレデター』(18年)上映終了後、左右に座るカップルが絵に描いたように真反対の反応を示した。右は絶賛の言葉と共に笑い合い、左は――海外の方だったらしく、英語だったので正確には聞き取れなかったが、とは言えファッキング・プレデターくらい分かるよと私の中の北野武が呟いた――酷評の言葉をぶつけ合っていた。どちらの意見も分かる。賛否両論、問題作。『ザ・プレデター』は、そういう反応がハッキリ分かれる映画であり、いわゆる「刺さる人には刺さる」映画である。ちなみに、私には刺さった。以下、ネタバレを含むので、予告編以上の事前情報を入れずに観たい方には、読み進めることをオススメしない。


参考:監督が明かす人間ドラマへのこだわり 『ザ・プレデター』鍵となるのは親子の絆?


 まずハッキリ言うと、本作はSFホラーではなくブラック・コメディ色が強い。もちろん人は死ぬ。プレデターの武器によって、人体はバラバラに引き裂かれる。ところが、それが怖いかと言われれば……特に怖くはない。何故なら映画全編を通じてギャグが飛び交っているからだ。『プレデター2』(90年)でも、「バスルームからプレデターが飛び出て、お婆ちゃんがビックリ!」というコテコテのギャグはあったものの、基本のトーンはシリアスだった。しかし今回は確実にコメディ要素の方が多い。「とにかくプレデターをカッコよく見せる!」という意味では、『エイリアンvsプレデター』2部作の方が優れていると思う。1のスカー・プレデターの大ジャンプ、2のウルフ・プレデターのコンクリートぶち抜きアッパーなど、AVPは忘れ難い名シーンが盛りだくさんだ。しかし本作は何より当のプレデター本人もギャグを飛ばすなど、“強くてカッコいいプレデター”を期待すると肩透かしを食らうことになるかもしれない。


 また、本作の主役は完全に人間サイドだ。しかも、そのキャラクター性はこれまた1作目の『プレデター』(87年)とは大きく異なる。全員が戦争で心を病んでしまっており、命知らず/怖いもの知らずと言うより、(全ての面において)失うものが何もなく、開き直っているという表現が似合う。いつ死んでもOKというヤケクソなテンションなので、命がかかっているような場面でも『こち亀』、あるいはドリフのようなコテコテのギャグを連発し続けるのだ。こうした姿勢は、いわゆる「緊張が走る!」的な状況でも変わらず、シャレにならない状況でもとんちんかんな発言が連発するので、間が抜けた雰囲気が終始漂う。こうした点は確実に人を選ぶだろう。何しろ予告編では完全にSFホラーアクション風味であり、そもそも『ザ・プレデター』を観に来たのであって、オッサンのワチャワチャを観に来たのではないと思う人も多いだろう。『エイリアン:コヴェナント』(17年)でエイリアンの恐怖を楽しみに来たら、マイケル・ファスベンダーが縦笛を吹き始めた時のような困惑を覚えるのは致し方ないことだろう。


 ところが、これを「プレデター」ではなく、「ドン詰まりの男子のバカ騒ぎ映画」と捉えると、評価はガラっと変わってくる。上記のような問題点は重々承知の上で、それでも私がこの作品が大好きなのは、こうした「ドン詰まりの男子のバカ騒ぎ映画」が大好きだからだ。この先ロクな人生がないだろう。そもそもマトモな死に方すらできそうにない。というか、そろそろ死ぬんじゃね? そういう自覚がある人々が、命を張る理由と場所を見つけ、決死の戦いに挑む。そして実際に命を散らしていくわけだが、その顔には命がけのバカ騒ぎを堪能し、相応しい死を迎えた満足げな笑顔が浮かんでいる……私はこうした話が大好きだ。監督本人がインタビューで言及している『ワイルド・バンチ』(69年)、酒をラッパ飲みしながら最後の銃撃戦に挑む『エグザイル/絆』(06年)、消耗品を自称して戦地へ乗り込む『エクスペンダブルズ』(10年)など、この辺りの雰囲気にも近い。こうした物語が好きな方なら、きっと琴線に触れるものがあるはずだ。


 とは言え本作は「プレデター」である(しかも“ザ”までついている)。なのにプレデターより人間サイドが主役で、今までのSFホラーアクションとは全然違うトーンで、おまけにイイ加減な所は本当にイイ加減である。問題点を挙げだすとキリがない。ハッキリ言って無茶苦茶だが、同時に、その無茶苦茶さにこそ魅力がある。人が面白半分で死んでいく世界で、人生ドン詰まりの男たちが、ちっぽけな良心のために次々と散っていく。その様は「ドン詰まりの男子のバカ騒ぎ映画」としては満点だ。


 激辛の担々麺を食べに来たら、何処か懐かしい駄菓子――パピコとかだろうか――が出てきた。本作はそんな映画である。全く刺さらないというリスクはあるが、是非とも劇場で判断してほしい。マーケティング、ファンへの目くばせが当然となった昨今、こんなに「監督のやりたいことしかやってない」大作映画は珍しい。それだけは間違いない。なお、これは完全な余談だが、劇中でプレデターが飼っている犬が出てくる。これが非常に可愛いので、何とかしてフィギュア化して頂きたいところである。(加藤よしき)


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