『死の秘宝』以来7年ぶり 『ファンタビ』D・イェーツ監督が明かす“ホグワーツ再登場への葛藤”

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2018年11月21日 10:02  リアルサウンド

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 広大な黒い湖に囲まれ、岩山に屹然とそびえ立つその懐かしき姿に思わず涙が落ちた。11月23日に公開される映画『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』で、ホグワーツ魔法魔術学校がスクリーンに帰ってくる。


 わたしたちが最後にホグワーツを観たのは、2011年の『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』。それから3年後の2014年には、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」がオープンし、2016年には『死の秘宝』の19年後を描いた舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が日本語で書籍化されていたものの、大きな画面で呼吸するホグワーツの姿はしばらく見納めとなっていた。


 『黒い魔法使いの誕生』では、実に約7年ぶりとなるホグワーツの登場。しかし、デヴィッド・イェーツ監督にとっては「気後れする感じ」があったという。イェーツはこれまで、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』から『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』までの4作品を手掛けたのちに、心機一転して『ファンタスティック・ビースト』シリーズを監督したのだから無理もない。


 「『ファンタスティック・ビースト』で全く別な世界を打ち立てたわけですからね。(1作目が)キャラクターも一新して魔法の世界を、そしてニューヨークを舞台に展開させていくものだったので、ダンブルドアを登場させるのはどうかなと思ったんです」


 そんなイェーツの“気後れ”を解消したのは、ウィザーディング・ワールドの創造主であり、本作の脚本を務めたJ・K・ローリングだった。「ローリングが『いやいや、今度は若き日のダンブルドアでまだ校長先生になっていないし、熱血の先生なのよ!』と情熱的に話してくれて、そのあとジュード・ロウのキャスティングが決まり、いよいよ私たちもエキサイトするようになりました」とイェーツは明かす。


 なぜそこまでローリングは、本作に若き日のダンブルドアを登場させることにこだわったのだろうか? 今回のホグワーツの再登場は、ローリングとプロデューサーのスティーブ・クローブスと話し合っての結果だったという。


 「ローリングには、若き日のダンブルドアをもう少し掘り下げてみたいという意向がありました。彼がどういう男だったのか、おそらくはものすごく反骨精神がある男だったのではないか、そのあたりを掘り下げてみようというところから始まった話なのです」。つまり、今回のホグワーツの再登場は、古くからのファンを喜ばせるためだけでなく、『ファンタスティック・ビースト』の物語を語る上で必要不可欠だったということになる。


 「ダンブルドアを掘り下げていく上で、彼は当然ホグワーツで教師をしているので、ホグワーツを登場させるのは必然だったんです。なので、彼がどういう風に仕事をしていたのか、どういう風に教えていたのかということを掘り下げたくて描きました。というのは、これからダンブルドアがかなり重要な役割を果たすことになるわけですから、やはり全方位的にキャラクターとしてしっかり描きこみたかったんです」


 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』から換算すると、実に10年以上も魔法界に携わっているイェーツだが、おもしろいことにダンブルドアのキャスティングにおいて、魔法界のキャリアが長いからこその苦労もあったそう。


 「ダンブルドア校長のイメージがこびりついていたので、僕の中で今回のダンブルドアも、円熟味のあるイメージがあり、当初違う俳優を想像していました。そんな中で、ローリングがすかさず、今度のダンブルドアは若々しくて小生意気でアンチで、っていう人なんだよという話をしたので、じゃあ全く違う別の世代の役者を配役しなくてはいけないんだなと考えを改めました。考え的にも感覚的にも自分の中でパラダイムシフトを起こさなくてはならなかったんです」


 紆余曲折を経て、起用されたジュード・ロウ。イェーツはロウと、様々な話し合いを重ね、“若きダンブルドア”を作り上げたと語り、また今回のダンブルドアには悲劇性を打ち出す必要があったと明かした。


 「彼とはダンブルドアの核となる“人となり”について色々と話し合いました。彼は、とても優雅で、知的でウィットに富んでいて、ちょっといたずら好きなところがあり、そういうキャラクターを作っているんだと。それともう1つ大事な要素だったのは、彼が悲劇性を打ち出さなくてはいけないという部分です。例えばダンブルドアは妹を亡くしています。自分自身がつらい幼少期を送ったというような環境の部分や、若き頃に“とある人物”と結んでいた関係がうまくいかずにあえなく破綻してしまった、そういう悲しみや悲劇性を持ち合わせているキャラクターなのでそこも重要視しなくてはなりませんでした。ジュードはダンブルドアのそういうあらゆる部分を全部抱き込んで受け入れてくれて、ものすごい責任をもって役を演じてくれましたよ」


 ロウとのタッグでイェーツが最も印象的だったのが、撮影初日のことだったそう。なんと、あれだけのキャリアがあるロウから緊張の影が見えたというのだ。


 「あれだけ経験があって自信のある役者なのにものすごく緊張してたんですね。『大丈夫?』なんて聞くと、『いや、あのダンブルドアを演じるわけだからちゃんとやらないとね、間違いのないようにしないといけないからやっぱり緊張しますよ』と言うんです。そんな彼を見てすごい印象的でした。ちゃんとやろうとしているんだということが良く伝わりました」


 イェーツ含む、『ハリー・ポッター』からおなじみのスタッフも、本作から登場した新キャラクターを演じる俳優も全員本気で、この作品に挑んでいる。イェーツの言葉だけで熱気を感じる撮影現場だが、『死の秘宝 PART2』から約7年間のブランクを経て描いたホグワーツは、「里帰りしたような感覚」だったと振り返る。


 「ホグワーツはセットをもう一度作り直さなくてはいけなかったのですが、ホグワーツの校舎というか、教室に立つのが実に7年ぶりだったので、里帰りしたような感覚に襲われました。やっぱりこういうセットだとか環境というのは本当に大事だなと改めて思いましたね。懐かしい制服やマントをエキストラの皆さんがつけていて、ジュードがダンブルドア先生として教室で教えているシーンを撮った際に、僕らとしても本当に魔法のようなシーンだったし、出演しているみんながすごくワクワクしていて、それがひしひしと伝わってくるようなとてもいい経験でした。そしてホグワーツに戻って若き日のダンブルドアを掘り下げることでまた彼の違う一面を探求できたので結果的には良かったと思っています」


 ところで、『死の秘宝 PART2』の最後でホグワーツがどのように登場したか、皆さんは覚えているだろうか? 少しおさらいすると、ヴォルデモート卿との戦いを終え、ニワトコの杖の主人となったハリーは、ロンとハーマイオニーに見守られながら杖を折って橋から投げ捨てた。感慨深く印象的なホグワーツへ繋がるあの橋。『黒い魔法使いの誕生』でも1番にこの橋が登場するのだが、イェーツいわく重要な意味を含んでいるのだという。


 「スコットランドの風景をバックにそびえたつあの橋は、見た目が本当に美しいし、間違いなくハリー・ポッターの中では重要な役割を果たしているシーンというか、セットですよね。『ファンタスティック・ビースト』では、あの橋のシーンはとても重要な局面で、大事なセットです。というのは今回の作品のテーマをそのまま体現しているからなんです。つまり、自分がどっちに立つか決めなくてはならない局面を描いています。橋の向こう側にはダンブルドアがいて、そして反対側には彼を怪訝そうに見る魔法省の役人がいて、その間はno man’s land(緩衝地帯)であると、そういうことを意識して俳優の立ち位置を決めています。やはりこういう話を展開させるには、こんなにふさわしいロケーションはないと思って使いました。過去に数回この橋を登場させていますけれど、やっぱり私にとってお気に入りのスポットの1つですね」


(取材・文=阿部桜子)


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