『大恋愛』ムロツヨシは現代的な“いい男”? 戸田恵梨香との10年愛に心掴まれる理由

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2018年11月30日 06:02  リアルサウンド

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 本当の悲しみは、幸せの中にある。『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)を見ていると、そんなフレーズが脳裏をよぎる。若年性アルツハイマー病におかされたヒロイン・北澤尚(戸田恵梨香)と彼女を支える小説家・間宮真司(ムロツヨシ)。ふたりの10年愛は、すれ違いと別れ、涙と未来への恐れ、そしてそれ以上にたくさんの笑顔で彩られてきた。「若年性アルツハイマー病」というテーマ自体は決して目新しいものではない。にもかかわらず、なぜ多くの視聴者がふたりのラブストーリーに心掴まれるのか。その理由を解き明かしてみたい。


参考:ムロツヨシが語る、『大恋愛』で掴んだチャンスへの喜び 「あがき続けてきました」


■等身大の“イチャコラ”が憧れと共感を呼ぶ


 本作の主人公・北澤尚は、有能な医師。開業医の母を持ち、生活面で不自由を覚えたことはまるでなく、見た目も美人で貯金額は5000万円。ハイスペック、ハイステータスの、いわゆる高嶺の花だ。一方、相手役となる間宮真司はかつては文壇の新星として期待されるも、ヒット作が続かず低迷。現在は引っ越し屋のアルバイトで生計を立て、見た目も平凡、年齢は中年、貯金額は12万円と、条件面では決して優良と言いがたいキャラクターだ。日向の道を全速力で走ってきた女と、日陰の道で長くくすぶってきた男。そんなふたりが出会い、恋におち、病気の影に怯えながらも、今という時間を、懸命に、慈しむように生きる姿に、感動の声が広がっている。


 多くの視聴者が尚と真司を見て、「こんな恋がしてみたいな」と憧れるのは、きっとふたりの恋が悲劇だからではない。ふたりが、どこにでもいる平凡な私たちと同じように、相手を愛しいと想い、そばにいたいと願い、言葉にし尽くせない愛情を表現する。その姿がとても身近で、自分たちを見ているようだから、つい感情移入してしまうのではないかな、と思う。


 思わず真似したくなった第1話の居酒屋でのアフレコから始まって、ふたりのシーンは飾り気がまったくない。ほっぺにキスをしたり。鼻の下のホクロを押したら真司が変な声をあげておどけたり。美味しそうにアップルパイを平らげる真司を尚が連写したり。ラブシーンというよりも、手をつないだり、ハグをしたり、砕けた言い方をするなら“イチャコラ”している場面の方が、ずっと印象深い。一生の想い出となる結婚写真だって、キメキメのすまし顔ではなく、クシャクシャの満面スマイルだった。


 この自然体の雰囲気が、たまらなく愛らしいのだ。きっとスマホに彼氏の変顔フォルダをつくっている女子は大勢いるだろうし、大切な人とのデートで思い出すのは、高級レストランより安居酒屋のカウンターという人も少なくない。色っぽいベッドシーンよりも、真司が布団の中に入ってくるなり、まるでぬいぐるみを抱きしめるようにくっついてくる尚の方が、ずっとドキドキするし、幸せな気持ちをもらえる。そこに、この『大恋愛〜僕を忘れる君と』の魅力がある。


■お金や見た目より、今、ときめきを感じるのは優しさとユーモア


 恋愛ドラマと言えば、イルミネーションの煌めくオシャレスポットが定番だったし、恋におちる相手はちょっと影を背負っているか危険な匂いがするか、あるいはぐうの音も出ない完璧王子と相場が決まっていた。でも、本当に幸せやときめきを感じるのは、実はもっと平凡なものだったりする。優しくて、ユーモラスで、いつも尚を笑わせようとしてくれる真司は、間違いなく現代的な意味での“いい男”だ。


 宇多田ヒカルが以前、「私が人生のパートナーに求めるものランキングの最下位:経済力」とツイートしたことがあったけど、女性の社会的自立が進む今、かつてもてはやされた“三高(高学歴・高収入・高身長)”はすっかり死語に。たとえ宇多田ヒカルや尚のように圧倒的な成功をおさめていなくても、“三高”よりもっと大切なものがあるんだと気づいている女性たちは増えている。


 『大恋愛〜僕を忘れる君と』は、そんな時代の流れも踏まえた上で、今、恋愛に求めるときめきや幸福感をしっかり描けているところがいい。ラグジュアリーホテルのスイートルームより、川辺を臨む高台で夜が明けるまで延々語り続ける。そんな恋を、私もしたい。若年性アルツハイマー病というショッキングな題材を扱いつつ、その中で描かれる恋愛像は、友達の結婚式で流れるプロフィールムービーぐらいナチュラルで等身大。


「尚がガンでも、エイズでも、アルツハイマーでも、心臓病でも、腎臓病でも、糖尿病でも、歯周病でも、中耳炎でも、ものもらいでも、水虫でも、俺は尚と一緒にいたいんだ」


 真司の愛の言葉は、バッチリ決まり切っていなくて、どこか笑える。でも、そんな飾らない言葉にときめいて仕方ないから、多くの人がこの恋に夢中なのだ。


■不穏なる影・公平が投げかけるメッセージとは


 そんな本作も後半に突入し、雲行きが怪しくなってきた。これまではタイトル通り直球の大恋愛を見せてきたが、尚と同じ若年性アルツハイマー病におかされた公平(小池徹平)という変化球の登場で、展開は一気にスリリングに。サイコパスのようにも見える公平の思惑は何なのか。尚と真司にどんな不和をもたらすのか。楽観を許さぬ局面だが、同じ病気に苦しむ尚と公平を分けたものがあるとすれば、それはそばに大切な人がいてくれたかどうか。


 尚と違い、病気が判明するや妻に逃げられた公平は、孤独の淵に立たされている。その怒りと嘆きが、彼の常軌を逸した行動を呼んでいるのだとしたら、公平という存在が視聴者に投げかけるメッセージはひとつ。人は、ひとりでは生きられない。どんな悲しみも、絶望も、そばに誰かがいてくれたら分け合える。そう私たちに伝えようとしているのではないかなと思う。


 そんなサイドストーリーも絡めつつ、愛する人との想い出で満ちあふれた尚と真司の10年愛も残りわずか。その結末を最後までしっかりと見届けたい。(文=横川良明)


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