『ベルセルク』の強い影響を受けたフィンランドのヘヴィメタルバンド・BEAST IN BLACK!バンドの中心人物“アントン・カバネン”が作品愛を語る

0

2019年01月15日 12:02  おたぽる

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

おたぽる

写真

 ヘヴィ・メタルといえば、一般ピーポーから「怖い!」「うるさい!」「厳つい!」……なんて言われがちな音楽ジャンル。しかし、中にはキャッチーでメロディアスなメタルもあれば、壮大かつ劇的なメタルもあって、実はなかなか幅広かったりする。


 また、意外に思う人もいるかもしれないが、アニメやマンガ、ゲームなんかとの親和性が高いことも、一部ではよく知られているだろう。それに、メタル・ミュージシャンの多くが、見かけによらず(?)日本のアニメやマンガ、ゲームの大ファンで、少なからず影響を受けたりもしているのだ。


 そこで、日本のヲタ・カルチャーにハマりにハマっているミュージシャンにインタビューしちゃう新コーナーがここに始動! 深い偏愛とコダワリに満ち溢れた思いの丈をガッツリ語ってもらうことにしよう…!!


 記念すべき第1回は、フィンランドのバンド、BEAST IN BLACKを率いるアントン・カバネン(元BATTLE BEAST)が語る『ベルセルク』! BATTLE BEAST時代にも、『ベルセルク』をモチーフにした楽曲を多数発表してきたアントンに、その魅力について、熱く熱〜く激白してもらった!!


──そもそも、『ベルセルク』のことはどのようにして知りましたか?

アントン・カバネン:’06年の夏だった。幼馴染みの親友がアニメ(『剣風伝奇ベルセルク』)を薦めてくれたんだ。それで観てみたら、最初の回からすぐに惹き込まれてしまってね。すぐに「全話、観なきゃ!」と思い、結局、2日間で全て観終えてしまったよ。そして、続きが気になった。観たのはシーズン1(『剣風伝奇ベルセルク』)だったから。シーズン1の最後のエピソードに、“蝕(Eclipse)”があるだろ? それで「登場人物達はこの後どうなってしまうんだろう?」という好奇心に駆られて、マンガを読むことにした。そこからが始まりだったんだ。


──アニメ版の続編もご覧になりましたか?

アントン:うん。でも、’90年代(の『剣風伝奇〜』)と同じスタイルにならなかったのは残念だった。(第2作は)’16年と’17年に放送されたけど、俺は好きになれなくてさ。’97年のスタイルでやってくれれば完璧だったんだけど…。あのオールドスクールな雰囲気が良かったのに、すっかり変えられてしまったよね。(『剣風伝奇〜』は)音楽も美しかった。すべてが好きだったんだ。だから、どうして同じ形で続けられなかったのか、全く理解出来なくて。『ベルセルク』のファンなら、誰だってオリジナルの方が好きなんじゃないかな? あのシリーズに、モダンさの追求なんて必要ないのに……。ファン・ベースが確立されたのは’90年代だったんだから、古風なままで充分だった。なのに……理解に苦しむよ。

──最初に観たアニメは、フィンランド語の吹き替え版だったのでしょうか?

アントン:いや、音声は英語で、字幕はなかったよ。そのあとでDVDのボックスセットを買ったんだけど、こっちは日本語だった。だから、英語版と日本語版、双方のヴァージョンを観たということになる。

──マンガの方は?

アントン:英語だったよ。マンガはどれも英語で読んだ。


──初めて観た時、日本の作品だということは分かっていましたか?

アントン:ああ、もちろんだよ。というか、マンガやアニメの多くが日本発だということは知っていたからね。アニメは妹を通じてハマったんだ。いや……違うな。もっと昔──まだ5〜6歳で、幼稚園に通っていた頃、『銀牙 -流れ星 銀-』を友達と一緒によく観ていたから。フィンランド語に翻訳されていたけど、それが俺の(日本のアニメ)初体験だったな。あと、『ムーミン』も! 俺はムーミンの大ファンなんだ。元々は’60〜70年代に始まったというのも知っているけど、最も出来が良いのは、’90年に日本でアニメ化されたヴァージョン(『楽しいムーミン一家』)だ。アレが一番クラシックな、みんなが好きなヴァージョンだよね。

──妹さんが好きで観ていたのは?

アントン:『美少女戦士セーラームーン』さ。それで、俺もアニメに対する理解が深まったんだ。ただ、『ベルセルク』は特別で、他のアニメとは一線を画した深みがある。異なる雰囲気が漂っているし、登場人物の個性も強烈だね。凄く人間臭いし。超自然的な事件が起こっているシーンでも、人間的な要素がふんだんに描かれている。彼等が直面している感情──兄弟愛や裏切り、愛情、ごまかし……などがね。

 あと、ケンタロウ(作者の三浦建太郎)が軍隊に対して非常に詳しい知識があるのにも驚いた。大軍を編成して戦いに挑むシーンなどで、隊長の命令の下し方ひとつとっても、とにかく全体像がよ〜く掴めている。あらゆることを理解していて、本当に感嘆させられるよ。だから、この漫画からは止めどないインスピレーションを受け続けているんだ。常に何かが得られるし、俺がこの作品をテーマにした曲を書き続けているのは、だからこそさ。

 いつかソロ・プロジェクトか何かで、『ベルセルク』だけをテーマにした曲を集めて、アルバムを制作してみたい。最初の巻から順番にアートワークを付けていって、サウンドトラックみたいになればイイな。今は他にもやることがあるけど、充分な時間が出来たら、それだけに集中してみたいんだ。


──原作者にコンタクトを取ったことは?

アントン:ないよ。でも、考えてはいる。もう3〜4年になるけど、然るべきタイミングを見計らっているんだ。いつか彼と一緒に仕事が出来たら…というのが、俺にとってひとつの夢だね。例えば、彼にBEAST IN BLACKのアルバムのアートワークを手掛けてもらう……とかね。もし、BEAST IN BLACKの曲がアニメに採用されたりしたら、もう最高だな。エンディング・テーマなどで使われたら……と、夢が膨らむよ。

──BEAST IN BLACKやBATTLE BEASTの曲に『ベルセルク』の映像を載せた所謂“MAD”ムーヴィーが、YouTubeなどに沢山アップされているのはご存知ですか?

アントン:うん。いくつも観たよ。BATTLE BEASTのサード・アルバム(’15年『UNHOLY SAVIOR』)に入っている「Touch In The Night」が(’14年に)シングルとして公開された時のことはよく憶えている。この曲はガッツが鷹の団を去る場面について書かれていてね。彼は完全に希望を失った状態で、シャルロット王女に慰めを求めに行くところだった。すると、シングルがリリースされて1週間も経たないうちに、誰かがリリック・ビデオを作ったんだ。まさにピッタリのシーンをアニメから取ってきて、楽曲に当てはめてね。「うわ……コレはすごい!!」と思ったよ。


──難しい質問だと思いますが、一番好きなキャラクターは?

アントン:う〜ん…ガッツかグリフィスのどちらかなんだけど──多分、両方だな。彼等は正に黒と白といった関係で、どちらかひとりを選ぶなんて出来ないよ。昼と夜…とも言えるだろう。ずっと太陽が輝き、決して夜がこない世界が欲しいかといえば違うし、ずっと夜のままで、光が射さなくても良いかと言われればそんなこともない。そう、どっちも必要なんだよ。だから、2人とも同等に好きだな。ある意味では、その時の自分の感情によって変わることもあるけど、基本的には2人とも同じぐらい好きだ。

 BEAST IN BLACKというバンド名は、ガッツを意味している。BATTLE BEASTもガッツと関連があったけど、“BEAST IN BLACK”は正に『ベルセルク』から採ったんだよ。ガッツは心の中に“闇の獣”を抱えている。そこからヒントを得て、バンド名を付けた。ガッツにあやかったというワケさ。

──その2人を除いたキャラクターの中で、特にお気に入りというと?

アントン:全員だな。ジュドーも好きだ。平和的で、穏やかな人間だからね。優しくて、賢い。彼がいなくなって残念だよ。フィクションだから、バカみたいと思われるかもしれないけど、戦友のような感覚があってさ…。(登場人物の)誰かが死ぬと、実在していないと分かっていても、悲しくなる。まるで、どこかで生きていたかのように思えてね。それに、俺の心の中で彼は生きていたんだからな。

 あと、キャスカも好きだ。強く美しい女性だからね。ストーリーの中で好きなのが、ガッツとキャスカの間に友情が生まれるまでに、かなり時間がかかることなんだ。最終的には恋人同士になるんだけど、最初の3年は敵対し続け、2人は常にいがみ合っていた。仲好くなるまで時間がかかったものの、そうして生まれた絆はとても強力だ。これは現代社会においても良い教訓になるんじゃないかな。今の世の中では、どんなことにも耐えられず、こらえきれない人が多いから。何もかもあっという間にやってきては過ぎ去ってしまうし、小さなことで意見が合わないと、「もうあの人は好きじゃない」などと袂を分かってしまう。フィクションであれ、現実の話であれ、あの2人の間に生まれた強い強い絆を見習って欲しいんだ。

──メタル・ファンではなく、『ベルセルク』を通じてBEAST IN BLACKやBATTLE BEAST、またあなたのことを知ったという人からメールをもらったりすることは?

アントン:これまでのところ、『ベルセルク』に関する話をしてくる人はみんなメタル・ファンだね。何故だか分からないけど(笑)。でも、もしかしたら(BEAST IN BLACKやBATTLE BEASTの)『ベルセルク』関連の曲がキッカケとなって、メタルを聴き始めた人もいるかもしれないな。

──次のアルバムでも、また『ベルセルク』関連の曲を入れるつもりですか?

アントン:ああ、もちろんさ! 3〜4曲はあるかな。楽しみにしていてくれ!!
(文/構成=奥村裕司)


    ニュース設定