『レ・ミゼ』『モンテ・クリスト伯』をまっとうした、ディーン・フジオカの“異物感”

0

2019年01月22日 00:03  サイゾーウーマン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

サイゾーウーマン

写真

 1月5日、ディーン・フジオカと井浦新がダブル主演を務めたスペシャルドラマ『レ・ミゼラブル 終わりなき旅路』(フジテレビ系)が放送された。

 本作は1862年に執筆されたヴィクトル・ユーゴーの大河小説を、現在の日本に置き換えた物語だ。原作は1枚のパンを盗んだことで19年間の監獄生活を送ることになったジャン・ヴェルジャンの生涯を描いたもの。そこにフランス革命を筆頭とするフランスの政治状況が重ねられるが、本作では、平成という時代の始まりから終わりにかけての日本の状況が重ねられている。

 主人公の馬場純(ディーン・フジオカ、若年期は吉沢亮)は、母親を詐欺でハメた男を事故死させたことで逮捕される。2年後、死期間近の弟に一目会うために脱獄。しかし、弟はすでに亡くなっていて、失意の馬場は自殺を図ろうとするが、すんでのところで徳田浩章(奥田瑛二)に救われる。彼の経営する自立支援施設「徳田育成園」で正体を隠して暮らしていると、そこで渡辺巧海(村上虹郎)と出会う。渡辺は馬場の正体に気づくが、彼のことを受け入れ、2人は親友となる。

 そんな中、1995年、阪神・淡路大震災で建物の下敷きになった渡辺は、死の間際、馬場に「渡辺拓海として生きろ」と告げる。9年後、馬場は渡辺巧海として暮らしていた。渡辺の夢だった弁護士となった馬場は、貧しい人々のために働いていたが、ある日、馬場の行方を探している斎藤涼介(井浦新)という男が現れる。斎藤は、馬場が殺した男の息子だった――。

 正体を隠して逃亡する男という役は、ディーンが自ら監督・主演を務めた映画『I am ICHIHASHI 逮捕されるまで』で演じた、殺人逃亡犯・市橋達也役を彷彿とさせるものがあり、ディーンのポテンシャルが発揮されていた。馬場を追う刑事を演じるのが、昨年『アンナチュラル』(TBS系)で再ブレークした井浦新というのも見事な配役で、とても見応えのあるヒューマン・ドラマだった。

 『レ・ミゼラブル』は、昨年放送された同じくディーン・フジオカ主演の『モンテ・クリスト伯―華麗なる復讐―』(同)の成功を引き継ぐ形で作られた作品だ。こちらは、1844〜46年にかけてフランスの新聞で連載された人気小説が原作。政治犯の容疑をかけられ軟禁された、船乗りのエドモン・ダンテスが14年後に脱獄し、自分を罠に嵌めた3人の人間に復讐するという復讐譚で、日本では『巌窟王』としても知られる。ドラマは、時代設定を現代の日本に置き換え、冤罪で異国の監獄に8年間監禁された柴門暖(ディーン)が、監獄で知り合ったラデル共和国の元大統領・ファリア真海(田中泯)の財産を受け継ぎ、モンテ・クリスト・真海と名前を変えて自分を嵌めた犯人を倒そうとする復讐譚となっていた。

 物語のトーンはシリアスで重厚だが、18世紀のフランス小説を現代日本に当てはめたためか滑稽なところもあり、放送当時は、“半分シリアス半分ギャグ”として受け入れられた。傑作というよりは怪作とでもいうような作品で、印象としては『真珠夫人』や『牡丹と薔薇』(ともにフジテレビ系)といった、東海テレビの昼ドラに近い。特に、役者の演技にそれが現れていて、稲森いずみや山口沙也加が演じる悪女は明らかにやりすぎなのだが、それがやみつきになる。そんな、浮世離れした世界に説得力を与えていたのが、ディーンの“異物感”だ。

思わせぶりな芝居が醸す「異物感」の使い方
 連続テレビ小説『あさが来た』(NHK)で、明治時代に日本のために尽力した実業家・五代友厚役を演じて以降、ディーンは人気俳優となった。しかし、ディーンの芝居は思わせぶりすぎて、何をやっても含みがあるように見えてしまう。そのため、ドラマ『ダメな私に恋してください』(TBS系)でヒロインを支える元上司役や、映画『空飛ぶタイヤ』の会社員など、普通の人を演じると妙に浮き上がって感じた。

 一方、映画『結婚』で演じた結婚詐欺師や『I am ICHIHASHI 逮捕されるまで』の殺人逃亡犯のような、“謎の男”となると、ポテンシャルが発揮される。とはいえ、素性を隠した犯罪者役ばかりを演じるわけにもいかないだろうし、ディーンは今後は難しいのではないかと感じていた。

 そんな中、『モンテ・クリスト伯』はハマった。それは、過去の海外小説を現代日本に置き換えることで生じた“違和感”が、ディーンの“異物感”とうまくフィットしたからだろう。

 このシリーズ、是非、ディーン主演で今後も続けてほしい。正月に楽しむにはもってこいの、こってりとしたドラマである。
(成馬零一)

このニュースに関するつぶやき

  • 『あゝ無情』と『岩窟王』でええんちゃうかな…
    • イイネ!0
    • コメント 1件

つぶやき一覧へ(1件)

ニュース設定