大学卒業後、まともに就職活動もせず、ふと見つけた広告に応募し採用され、現代美術ギャラリーで楽しく働く私に向かって、ある日母はこう言放ちました。
「あんたはきっと“いきおくれ”て、30過ぎで猫と一緒に1人暮らしするんでしょうね」と……。
しかし、人生には時に天変地異の如き出来事が降り掛かります。25歳で出会った彼と、次の日からおつきあいをスタート。半年後に妊娠、入籍する事に!
ドタバタの海外出産後、酷寒の地ボストンでの生活から、夫の就職を機に新天地カリフォルニアに住居を写した私たち一家。日本と比較し、街ゆく人皆が暖かい「アメリカの妊婦事情」についてお話した前回。
今回は、「暴力的なまでの空腹感に苛まれた第二子出産」をお届けします。
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ところでボストン時代、私は近所にあった大学の学生生協をよくウロウロしていました。生協って“COOP(コープ)”と読み書きしますが、ところにより“COOP(クープ)”って言うのですね。
両親や友人にメールを送る際、何かの話題で“COOP”と入力したある時、画面上に“喰婦”と出ました。
「“喰婦”(クープ)だって。かわいい!何かのキャラクターみたいじゃない?」とゲラゲラ笑いながら夫に報告したとき、わが家の失言王・夫からこんな言葉を頂きました。
―――「ふうん、面白いね。まるでmicaみたいだね」
と。そこからの私は“喰婦(クープ)”としての人生をしばらく生きる事になります。
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とにかく妊婦時代から産後、授乳中の女性というのはよく食べるし、食い意地が張っているものです。暴力的にお腹が空くし、逆もまた然り(?)で、お腹が空いたクープは時として暴力的な行動や発言を言うことも。(個人差あり)
次女を妊娠中にも、「焼き肉を食べに行きたい行きたい!」と駄々をこね、当時私の母(またもやお産扱いに来てくれていました)がハマりにハマっていた、韓国俳優の“ヨン様”御用達の焼き肉屋さんへ連れて行ってもらう調整をしたところ、そこを訪れる目処が立ったのは、なんと“出産予定日”!
「いい子だから、焼き肉食べてから産まれておいで」と祈る私の勝手すぎる言い分を、次女は健気に聞き分けてくれていました。
そんなわけで、破水からスタートした陣痛が来たのは、ちょうど焼き肉を堪能して皆が寝静まった深夜の事でした。
「ほんとに?ほんとに陣痛?」と寝ぼけ眼で何度も確かめてくる夫を急き立て、ハイウェイを車で飛ばし20分、病院へ到着しました。が、しかしいつもなら目の前に立てば“ウイーン”と開いていた自動ドアが開かない。私たちは愕然としました。一体どうすれば……。
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結論としては夜間用入り口から入るべきでしたが、前もって確認していなかった私たちは右往左往することに……。大きなお腹と恥骨痛と陣痛を抱えて「よいしょ、こらしょ、アイタタタ」とかけ声のように階段を昇り降りする私たちはまるで、“迂闊”を絵に描いたよう。
そして深夜で数時間前に焼き肉を堪能したにも関わらずお腹が空いていて、
「産気づいた妊婦をこんなに迷わせるなんて……!」
私は準備不足の自分を棚に上げ、理不尽に苛立っていました。
出産は英語で“Delivery”と言います。ですので出産する部屋も“デリバリー・ルーム”。陣痛は何分間隔か、などなどと質問され、それから「これに着替えて」とペラペラの入院着を渡されます。
私はこれが寒くて大嫌いだったので、ストレッチ性のコットンの下着をあらかじめ用意して、その下に着ました。「色々処置があるから、裸の上に着てほしいんだけど」とナースは不服そうでしたが、「これはこうして上に上げても落ちてこないから」などと説明しました。
クープは、自分の心地いい環境を作ることにどん欲なのです。
まず陣痛をモニターするものをお腹につけられ、次に栄養剤か何かと、溶連菌用抗生剤の点滴用の針を刺され、管を通されます。さらには脈拍用に指にスポッと何かをはめられました。
そしておもむろに「おしっこ用の管を通すわね」と言われ、もぞもぞと管を通される。コレは不思議なもので、「別に今トイレは行きたくないんだけど」と思っていても、意志に反して膀胱にたまった分が自動的にバッグに流れて溜まる仕組みなのです。
色々ベタベタとつけられて身動きが自由にならず、不愉快のあまりイライラが募ります。「ところでお腹が空いたから、何か買ってきてくれない?」と夫に頼みました。そこで夫はナースに「お腹が空いたらしいんだけど、何か食べてもいいのか」と質問したところ、答えはにべもなく「NO」でした。
なんということ! 深夜からあちこち迷い歩いて、こんなに針をぶすぶす刺されて、これから体力を使うというのに、何も食べられないなんて! 私ことクープは絶望的に落ち込みました。
「こんなにお腹が空いているのに……。ボストンでは何枚もローストビーフが挟まったローストビーフ・サンドイッチをむしゃむしゃ食べながら、陣痛が来るのを待っていたと言うのに……!」
陣痛が来たら何も食べられないのはおそらく病院では当たり前のことなのでしょう。しかしクープにはそんなことは関係ありません。針が痛いし、お腹が空いて死にそうとブツブツ文句を垂れ流す傍ら、夫は待ちくたびれて船を漕ぐ始末。
とにかく早く産んで食べ物にありつきたい。その執念が届いたのか、順調に子宮口は開き、「オーケー、いきんでいいわよ!」とゴーサインが出ました。
「よっしゃ!任せて!」とばかりに私はいきみました。アメリカのナースはとにかく褒め上手。「ワオ、素晴らしいわ!」「すっごくいいわよ」「グッドガールね!」「信じられないわ!」などと連呼され、いい気分になりながらいきみます。
数回のいきみで次女がスポンと出てくる時、内心私は「お腹空いたー!」と叫びました。次女誕生の瞬間です。
女性のMDが、女子高生のように盛り上がるほどのスピード出産で周りが盛り上がる傍ら、「もしもし、スミマセンが」と物申す。「気持ちが悪いんですけど」と訴える私に、ナースは怪訝そう。
「どうして?」「だってお腹が空き過ぎて」と臆面無く訴えました。失笑して、特別にバケットを持ってきてくれました。「普通は部屋が移ってからなんだけど」と言われながら。
次回は「2人目出産・新たな痛みとの遭遇」についてお送りします!
★今回の教訓★
(1)理不尽な空腹が、妊婦を理不尽に暴力的にさせる…!?
(2)とにかく褒めるアメリカの出産、いい気分でイキむことができます
(3)出産直後、空腹を満たすのは「部屋が移ってから」!
(2016年7月19日の記事を再掲載しています)
【画像】
※ Monika Olszewska、 sfam_photo / Shutterstock
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