GGアリン、“ロック史上もっとも見事な変質者”の真実の姿 『ジ・アリンズ / 愛すべき最高の家族』評

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2019年02月23日 14:21  リアルサウンド

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 今までに「伝説」と称されるミュージシャンは数多く存在するが、この男以上に狂ったパフォーマンスを行うミュージシャンは、今後二度と現れることはないだろう。


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 その男の名はGGアリン。2019年2月23日から、シアター・イメージフォーラムを皮切りに、全国ロードショーが行われる『ジ・アリンズ / 愛すべき最高の家族』で描かれている不世出のロックンローラーである。


 生まれたときに父親からジーザス・クライスト・アリンという神の名前を与えられ、ステージでは自分が排泄した汚物を食い、身体中に塗りたくり、観客に投げつけ、自身の身体を傷つけながら流血し、男女構わず観客に暴力をふるい、通報されて警察が現れると全裸で逃げ出すなどの逸話は数知れず、「ロック史上もっとも見事な変質者」と評された。


 GGアリンは、1970年代後半、The Jabbersへの加入によりフロントマンとしてのキャリアをスタート。1980年代には、SCUM FUCKSをはじめとするバンドでフロントマンを務め、多くのミュージシャンたちとコラボレーションを果たした。「GGアリンこそ真のパンクロッカー」と評する者も多く、自ら「俺の存在がロックンロールだ」と言い切る、アンダーグラウンドシーンの帝王である。とりわけパンク、ハードコア好きに彼の信奉者は多く、今でも語り継がれる伝説のボーカリストである。


 1993年にこの世を去ってしまったが、ヘロインのオーバードーズでの死というものが、この男にとっては期待はずれだと言われるほどの、あらゆる意味で規格外の男である。


 GGアリンの小学校入学時、母親がその名前で嘲笑を買うことを心配し、ケヴィン・マイケル・アリンと改名をしており、今回公開される映画『ジ・アリンズ / 愛すべき最高の家族』では「GGアリン」と「ケヴィン・マイケル・アリン」という2人のアリンの存在が紐解かれていく。


 GGアリンを語る上で、その狂気のステージパフォーマンスは最も重要な部分ではあるが、以前にもGGアリンに迫ったドキュメンタリー映画『全身ハードコア』という作品があり、『全身ハードコア』ではGGアリンのみに焦点を当てた映画であるために、その狂気を実感するのには申し分のない作品になっている。


 一方、『ジ・アリンズ / 愛すべき最高の家族』では、もちろんGGアリンである部分にも迫っているが、母親であるアリータと、兄でありGGアリンと音楽活動を共にしていたThe Murder Junkiesのベーシストであるマール・アリンを中心に、ケヴィン・マイケル・アリンの真相が解き明かされていくため、没後25年経った今だからこそ見えてくる「真実のアリン」が描かれている。


 しかし、当たり前の話ではあるのだが、GGアリンに家族がいるという衝撃もさることながら、GGアリンに子供がいたという、さらなる衝撃的な事実も加わり「俺がロックンロールだ」と言い放ち、ロックに喧嘩を売り、音楽に喧嘩を売り、アメリカに喧嘩を売り、世界のあらゆるものに喧嘩を売りながら、ロックンロールを体現してきたGGアリンの、人間的な部分が垣間見られるだけでも非常に貴重な映画である。


 GGアリンの存在があるために、兄のマールが普通に見えてしまうほどではあるが、マールも幼い頃からGGとともに強盗や窃盗、麻薬の売人など悪の限りを尽くしてきた人物で、この映画でも自らの糞便で施したアートを販売し、弟の死を引きずりながらも商魂たくましく生きる姿には感動すら覚える。


 さらに、この兄弟を育てた母親であるアリータの、大きく深い愛情により、GGアリンという題材の映画であるにもかかわらず、感動のハートフルファミリー映画になっているところは、ドキュメンタリー映画としてかなり秀逸な出来と言えるのではないだろうか。


 狂気のパフォーマンスで、世界的に有名だったGGアリン。度重なる犯罪と逮捕による刑務所への収監があるためにパスポートが取れず、奇しくもアメリカ国内に幽閉される形となってしまっていたが、GGアリンは表現の自由と闘い続けた素晴らしいアーティストである。


 パンクロックと表現して良いであろう楽曲に、ハードコアとしか表現できない憎しみを込めた歌詞の素晴らしさもさることながら、カントリーの弾き語りの楽曲も素晴らしい。ひょっとすると弾き語りの楽曲は、GGではなくケヴィンとしてのアリンの姿なのではないかと、この映画を観たあとであれば感じ取れるかもしれない。


 死の当日行われたライブで、糞尿と血にまみれたGGアリンが会場を後にするシーンは、それまでのGGアリンの生き様が走馬灯のように巡ってくると共に、GGアリンのもう一人の姿であるケヴィン・マイケル・アリンの心情も相まって深い感慨を覚えた。


 ステージではアルコールとドラッグで滅茶滅茶になりながら、男も女も関係なく暴力をふるい、素っ裸になりながら血まみれで自ら排泄した汚物を食らい、観客に糞便を投げつけ警察に逮捕されるGGアリン。しかし母親にとっては、かけがえのない可愛い息子であるケヴィン・マイケル・アリンだったのだ。


 物事は捉え方や視点でこれほど大きく違ったものになるという良い見本にもなる映画『ジ・アリンズ / 愛すべき最高の家族』。まさかGGアリンの映画で感動する日が来るとは思いもしなかった。(ISHIYA)


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