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人種問題を描いたオスカー候補のバディムービー『グリーンブック』『ブラック・クランズマン』

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2019年02月23日 21:02  日刊サイゾー

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日刊サイゾー

写真アカデミー賞に作品賞、主演男優賞、助演男優賞、脚本賞ほか5部門にノミネートされている『グリーンブック』。
アカデミー賞に作品賞、主演男優賞、助演男優賞、脚本賞ほか5部門にノミネートされている『グリーンブック』。

 2月25日(日本時間2月26日)に発表される米国アカデミー賞で作品賞ほか各部門の有力作と目されているのが、ピーター・ファレリー監督の『グリーンブック』とスパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』だ。どちらも“人種差別”を扱った実録バディムービー。コメディを得意とするピーター・ファレリー監督、アフリカ系米国人の視点から辛口映画を撮り続けるスパイク・リー監督のそれぞれの持ち味が生かされた作品となっている。

 LA暴動を予見した『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89)でのブレイク以降、ブラックムービーを牽引してきたスパイク・リー監督。近年は低迷気味だったが、元潜入捜査官ロン・ストールワースの原作小説をベースにした『ブラック・クランズマン』は、デンゼル・ワシントン主演作『マルコムX』(92)と並ぶ彼の代表作となりそうだ。白人至上主義を唱える秘密結社KKK (クー・クラック・クラン)を黒人刑事が潜入捜査したという冗談のような本当の話を描いている。名優デンゼル・ワシントンの息子ジョン・デヴィッド・ワシントンの初主演作というのも興味を惹く。

 舞台は1970年代の米国コロラド州。ロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)はコロラドスプリングス警察署の初の黒人刑事となる。目指すは警察界のジャッキー・ロビンソンだが、ロンも黒人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソン同様に仕事仲間からの偏見に悩まされる。そんな彼の初めての捜査は、過激さで恐れられていた“黒人解放組織”ブラックパンサー党の演説集会へ潜入すること。黒人のロンでなければ務まらない任務だった。

 次なるロンの潜入先はKKK。新聞広告でKKKがメンバーを募集していることを知り、さっそく電話するロン。黒人がいかに愚かな人種であるかを捲し立て、KKK幹部にすっかり気に入られる。ロンとコンビを組むのは、白人刑事のフィリップ(アダム・ドライバー)。ロンが電話でKKKに近づき、実際にはフィリップが接触することに。ロンとフィリップは、まるで二人羽織のような奇妙な潜入捜査を始める。

 電話で差別主義者に巧みに成りすますロン。彼の台詞には真実味があった。それはなぜか? ロンはこれまでに自分が言われて傷ついてきた言葉や言われるといちばん嫌なことを、そのまま口にした。ロンが自虐的な言葉を吐けば吐くほど、KKKの幹部は大喜びした。潜入捜査とはいえ、このときのロンはどんな気持ちだったのだろうか。

 シリアスな社会派ドラマとブラックな笑いの世界とのギリギリの狭間を狙った『ブラック・クランズマン』。映画界における人種差別についてのトリビアも多く盛り込まれている。1915年に公開されたD・W・グリフィス監督の『國民の創生』はハリウッド初の長編映画として有名だが、KKKはこの古典映画の中では正義の覆面ヒーローとして描かれている。その後もハリウッドでは白人ヒーローが活躍する映画ばかりが製作され続け、その反動から70年代になって黒人ヒーローを主人公にした『黒いジャガー』(71)や『スーパーフライ』(72)などの“ブラックスプロイテーション”が誕生した。ロンが勤める警察署だけでなく、スパイク・リー監督が暮らす映画界も偏見だらけの歴史の上に成り立っている。

 2016年のアカデミー賞授賞式に呼ばれていたスパイク・リー監督は「俳優部門の候補者は白人ばかり」と批判し、出席をボイコットする騒ぎがあった。この一件がなければ、マーベル初の黒人ヒーローもの『ブラックパンサー』(18)が今年のアカデミー賞作品賞にノミネートされることもなかっただろう。

 もうひとつの『グリーンブック』は、『メリーに首ったけ』(98)などの爆笑コメディを大ヒットさせてきたファレリー兄弟のお兄ちゃんピーター・ファレリーの単独監督作。実在した黒人ピアニストのドクター・ドナルド・シャーリーとナイトクラブのオーナーだったトニー・リップとの交流談を映画化したもので、これまでのようなお下劣ギャグは控えめ。その分、米国社会に根強く残る人種差別が浮かび上がる人間ドラマに仕上げてある。

 こちらの時代設定は1960年代。主人公となるトニー(ヴィゴ・モーテンセン)はNYのナイトクラブの用心棒を務めているコワモテの男だ。とはいえイタリア系移民らしく、妻のドロレス(リンダ・カーデリーニ)と2人の息子のことを溺愛している。ナイトクラブが改装するため仕事を失ったトニーは、ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)の運転手として雇われる。一流ピアニストであるシャーリーが米国南部をツアーすることになり、ボディガードを兼任する形で声が掛かったのだ。粗野なトニーと繊細な心を持つシャーリーとの奇妙なコンビの旅がこうして始まった。

 タイトルとなっている“グリーンブック”とは、米国南部を旅する黒人たちにとっては必携だったガイドブックのこと。リンカーン大統領による「奴隷解放宣言」から100年が経っても、米国の南部州には「ジム・クロウ法」と呼ばれる人種隔離法が残されたままだった。黒人が利用できるレストランやホテルは限られており、トニーはグリーンブックを見ながら車を運転することになる。

 ファレリー作品の特徴は、『愛しのローズマリー』(01)では肥満体、『ふたりにクギづけ』(03)では結合性双生児など、社会的マイノリティーの視線が入っている点にある。『グリーンブック』の主人公トニーは黒人のシャーリーと一緒に旅をすることで、それまでは気づかなかった人種差別の実態を目の当たりにすることになる。シャーリーは主宰者に招かれてきた来賓なのに、コンサート会場のトイレを使わせてもらえない。普段は裏社会のゴロツキを相手に暴力三昧な生活を送っているトニーだが、彼が黙っていられないほどの社会的暴力にシャーリーは耐えていた。なぜ人種偏見の強い米国南部を、シャーリーはわざわざツアーして回るのか。その謎が物語後半に明かされる。

 水と油の関係だったトニーとシャーリーだが、いくつものトラブルを乗り越えるうちに次第に距離が近くなっていく。愛妻家のトニーは手紙を綴ることを日課にしている。インテリのシャーリーの出番だった。高い教養を身に付けているシャーリーは、妻ドロレスに愛情がしっかり伝わる文章のレトリックをトニーにレクチャーする。シャーリーに手紙を添削してもらうことで、トニーの文章力は格段にアップする。

 ここで描かれる手紙とは、一種の比喩表現だろう。手紙を綴るという行為は愛情表現全般を意味するメタファーだ。ピアノのレッスンと同じように、人の愛し方も良きお手本が身近にあればすぐに上達する。逆に悪い手本しかないと、人を傷つける方法ばかり覚えることになる。無教養でガサツな用心棒だったトニーだが、孤高の天才シャーリーと旅をすることで、離れて暮らす家族のことをよりいっそう深く愛するようになっていく。

 アカデミー賞の行方以上に、ファレリー作品のファンにとって気になるのは、『グリーンブック』に弟ボビー・ファレリーの名前がクレジットされていないことではないだろうか。配給に尋ねたところ、たまたま今回は参加できなかっただけで、ケンカ別れしたわけではないらしい。それを聞いてホッとした。賞レースが落ち着いたら、また兄弟コンビで『帰ってきたMr.ダマー バカMAX!』(14)みたいな猛烈バカ映画をつくってくれるに違いない。
(文=長野辰次)

『グリーンブック』
監督/ピーター・ファレリー 脚本/ニック・バレロンガ、ブライアン・カーリー、ピーター・ファレリー
出演/ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ
配給/ギャガ 3月1日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
C)2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.
https://gaga.ne.jp/greenbook/

『ブラック・クランズマン』
原作/ロン・ストールワース 監督・脚本・製作/スパイク・リー 音楽/テレンス・ブランチャード
出演/ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、トファー・グレイス、コーリー・ホーキンズ、ローラ・ハリアー、ライアン・エッゴールド、ヤスペル・ペーコネン、ポール・ウォルター・ハウザー、アシュリー・アトキンソン、アレック・ボールドウィン、ハリー・ベラフォンテ
配給/パルコ 3月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
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http://bkm-movie.jp/

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