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超問題作を引っさげ、大型新人監督がデビュー!! 発達障害者の性と承認欲求を描いた『岬の兄妹』

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2019年02月28日 19:02  日刊サイゾー

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日刊サイゾー

写真障害を持つ兄妹を主人公にした問題作『岬の兄妹』。売春行為を重ねることに、良夫と真理子の兄妹は生きる希望を見いだす。
障害を持つ兄妹を主人公にした問題作『岬の兄妹』。売春行為を重ねることに、良夫と真理子の兄妹は生きる希望を見いだす。

 障害を抱えた兄妹が、犯罪に手を染めることで生きていく。片山慎三監督のデビュー作『岬の兄妹』は、タブー知らずの大問題作だ。地方都市で暮らす良夫は発達障害の妹・真理子の面倒を見ていたが、職場をリストラされて困窮。真理子に売春させることで、生活の糧を得ることになる。社会のドン底を描いたインディーズ映画ながら、兄妹のタフな生き方に圧倒される魅力的な作品となっている。ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督の助監督を務め、念願の劇場デビューを果たす片山監督に、企画意図や助監督時代の体験を語ってもらった。

──自閉症の妹・真理子(和田光沙)に1回1万円で売春させ、脚に障害のある兄・良夫(松浦祐也)は女衒として振る舞う。日本映画にはなかなかない衝撃作です。デビュー作にこの企画を選んだということは、片山監督がどうしても撮りたいテーマだったということですね?

片山慎三監督(以下、片山) いくつか企画は考えていたんですが、このテーマは以前からずっとやりたいと思っていたものです。でも、デビュー作だからこのテーマを選んだというよりは、自主制作だったのでお金をあまり使わずに済みそうだなという現実的な理由から決まった企画でした。自主映画で、監督としてのキャリアのない自分に何ができるかを考えて、これならやれると考えたんです。

――新人監督が有名キャストを使った作品を撮ることは難しい。なら、無名のキャストを使って、メジャーな作品ではできない内容のものにしようと。

片山 そうです。この映画を観る人の多くは、自閉症の真理子を演じた和田光沙さんを観るのは初めてだと思うんです。そんな人たちが「もしかしたら本物?」と錯覚するような作品にしたかったんです。和田さんはインディーズ映画ではかなり知られている存在ですが、まだまだこれから有名になる女優です。松浦祐也さんは、山下敦弘監督の『苦役列車』(12)で1日だけ主演の森山未來さんが現場に来れないときがあって、そのとき森山さんの代役をやったんです。それがすごくよかった。和田さんと松浦さんは以前から知り合いで、相性も抜群でした。そんな2人とじっくり時間を費やして、妥協しない映画を作りたいなと思ったんです。

 

■売春はお金のためではなく

──身体障害者の性について扱った映画は最近少しずつ公開されるようになりましたが、発達障害者や知的障害者の性問題を取り上げた映像作品はほとんどありません。白石和彌監督のデビュー作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(09)か、野島伸司脚本の『聖者の行進』(98年放送/TBS系)くらいまで遡ってしまう。

片山 野島伸司さんのドラマは好きで、『聖者の行進』はリアルタイムで観ていました。けっこう影響を受けている部分はあるかもしれません。今はテレビドラマはもちろん、映画でもこういうテーマのものは難しくなっている気がします。野島さんのドラマは他の作品でも障害者のキャラクターがよく出ていました。親戚にも障害を持っている人がいたので、自分としては身近に感じるテーマではあったんです。

──障害者たちが何度も犯罪を繰り返してしまう実情を取材したルポルタージュ『累犯障害者』(新潮社)も、参考にしているそうですね。

片山 脚本を書く上で、ヒントになりました。いちばん大きかったのは、知的障害を持った女性たちが仕事として売春しているけど、罪の意識がないというところでした。売春は犯罪行為なんだけど、彼女たちも他の女性たちのように認められたいという承認欲求があり、男に抱かれることでその欲求が満たされ、売春が止められなくなってしまうわけです。お金のためではなくなってしまう。その部分には、すごく興味を惹かれました。

──ヒントになる題材はあったわけですが、自分の作品としてどのように肉づけしていったんでしょうか?

片山 脚本は想像も交えて書いたんですが、障害者やその家族と交流する地区のイベントに参加したりもしました。障害者と一緒に絵を描いたりする触れ合いの場にボランティアとして参加したんです。自閉症やダウン症など、いろんな障害を持っている人たちの集まりでした。様々な障害があり、障害の度合いも人によってまったく違うんです。それもあって、この障害の人はこういう症状なんだと型にはめた描き方はやめようと。映画の中の真理子は架空の存在ですが、ひとりのキャラクターとして自由に成立させることができればいいなと、勇気づけられた部分がありました。

■口紅を塗るシーンで役とシンクロ

──オーディションで真理子役を選んだそうですね。

片山 10人くらいの女優に声を掛けて、真理子のポケットから1万円札が出てくるシーンを演じてもらいました。和田光沙さんもそのオーディションに参加してもらったんです。「脱ぐ」ことと撮影が1年間続くことがこちらからの条件でした。この条件をクリアする女優は他にもいたと思います。でも和田さんが真理子役を演じると、あまり可哀想な感じがしないんですよ(笑)。この映画を観る方たちもそう思うはずです。それもあって、和田さんを選んだんです。

──和田さんが演じることで、真理子は陽性のキャラとなった。季節ごとに撮影を重ね、撮影期間は1年以上に。撮影の度に役に入り直すのはキャストも大変だったと思います。

片山 和田さんは特殊な役だったので、難しかったと思います。兄役の松浦さんは普段からああいう感じの人なんです(笑)。和田さんは最初は手探りでの演技でしたが、季節を追うごとにうまくなってきました。どのタイミングで真理子役を掴んだのかは、はっきりとは分かりません。でも、僕がいちばん好きなのは、公衆トイレで口紅を塗った真理子が鏡を見るシーンです。あのシーンの和田さんは、すごく真理子役にハマっていました。その後の撮影はどんどんよくなっていったように思います。

■助監督が常に抱えている悩みとは?

──生活に困った兄妹が、捨てられていたお弁当用の使い切りソースを舐めたり、ティッシュペーパーを「甘い」と食べるシーンも、すごくリアルでした。

片山 使い切りソースを舐めるのは、松浦さんたちのアドリブです。ティッシュを食べると甘く感じるというのは、ネットか何かで読んだものです。僕の実体験ではありません(笑)。

──アカデミー賞受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)のギレルモ・デル・トロ監督は、若手時代にドッグフードを食べていたそうです。『ぐるりのこと。』(08)の橋口亮輔監督は「ふえるわかめちゃん」を食べて飢えを凌いでいたそうですが……。

片山 そうなんですか。そこまでは経験していませんが、大阪から東京に上京してきた20代前半の頃は、六畳のアパートに男3人で1年ほど暮らしていたことがあります。月4万6000円の家賃を3人で割っていたので、経済的には楽でしたが、気分的にはサイアクでした(苦笑)。

──助監督を長くやっていると、「自分はいつ監督デビューできるんだろうか」みたいな不安を感じることがありますか?

片山 それは助監督をやっている人たちみんなが抱えている悩みでしょうね。助監督は誰もが監督になれるわけではありませんから。まぁ、長く助監督をやっていると、チャンスは回ってきます。昔のプロデューサーみたいに「おまえもそろそろ、一本撮ってみるか?」みたいに声を掛けられることは今はないと思いますが、例えばテレビドラマ10話あるうちの1〜2話を撮らせてもらえることはあるわけです。でも、それでは自分の色は出せない。やっぱり自分で考えた企画を温めて続け、勝負に出ることが大事じゃないかなと思うんです。

■韓国映画の鬼才から学んだこと

──韓国映画『殺人の追憶』(03)や『漢江の怪物 グエムル』(06)などで知られるポン・ジュノ監督の助監督を務めていたそうですね。どうやってコミュニケーションを?

片山 ポン・ジュノ監督の『シェイキング東京』(08)や『母なる証明』(09)に助監督として就いていました。「ただ働きでいいので」と頼み込んだんです。僕は英語も韓国語もつたないんですが、韓国人しかいない現場でずっと過ごしていると何となく分かるようになってくるものです(笑)。とはいえ細かいコミュニケーションが必要な作業はできなかったので、カメラとモニターの間のケーブルを繋ぐとか、そういう簡単な作業をもっぱら担当していました。ポン・ジュノ監督がモニターを覗いている後ろに立って、「同じカットを40テイクも撮るのか。でも、今のカットはさっきのとあまり変わらないなぁ」なんて見ていましたね(笑)。

──助監督時代から、相当に肝が据わっていたんですね。

片山 そうですか(笑)。ポン・ジュノ監督はとてもオープンな性格で、人間的にも本当に素晴しい方でした。激しい内容の作品が多いけれど、すごくバランスも考えて撮っている監督です。ハードなシーンの撮影がある日は、そのシーンだけしか撮らないとか、俳優にあまり無理な負担が掛からないようにしていました。『母なる証明』のときは1日5カット程度しか撮っていません。その分、撮影期間が半年くらいありましたけど。時間を費やして、いい作品を撮るという韓国映画の姿勢は、すごく刺激になりました。

──日本に戻ってからは、山下敦弘監督の硬派文芸路線『マイ・バック・ページ』(11)や『苦役列車』の助監督に。

片山 僕の知り合いが「お前に合っているはずだ」と誘ってくれたんです。うれしかったですね。『マイ・バック・ページ』や『苦役列車』で松浦さんとも知り合いましたし、面白い現場でした。アイドル主演映画の現場にも参加し、自分にはなかった視野を広げるいい勉強になったと思います。助監督時代にいろんなタイプの作品を体験しておくことは大切ですね。

■高校時代の挫折が、映画監督を目指す転機に

──大阪で過ごした高校時代は、花村萬月の小説などを読んでいたとのこと。どんな青春を送っていたのか気になります。

片山 高校時代はラグビー部で3年間けっこうマジメに練習やっていました。とは言っても、映画の試写会の抽選に当たったりすると、母親に頼んで「親戚が入院したので……」など学校に電話してもらって、練習を早退したりしていました(笑)。本を読むのも好きで、学校の行き帰りや部活が休みの日はよく小説を読んでいました。それでも体がデカく、足も速かったんで、顧問の教師からはラグビーで大学推薦できるぞと声を掛けてもらっていたんです。高3のときに鎖骨を折って、それで最後の全国大会は出場できませんでした。多分、怪我をしてなかったら、大学、社会人でもラグビーをずっと続けていたんじゃないかと思います。

──ラグビーに挫折したことが転機になって、映画の世界に。

片山 怪我で大会に出場できなくなったときは途方に暮れました。高校卒業後もしばらくプラプラしてバイクで旅をしたりしていたんですが、しばらくしてシナリオの勉強を始めたんです。その頃、好きだったのはデヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』(95)ですね。スタンリー・キューブリック監督の『フルメタル・ジャケット』(87)も大好きで、今でもよく見直しています。痛みを感じさせる映画が好きなんです。それから東京に上京して「中村幻児映像塾」に通い、映画の現場に入るようになったんです。

■岬の兄妹と福祉との関係

──自主映画『岬の兄妹』で待望の監督デビューを果たすわけですが、今後は?

片山 商業作品を撮る機会があるといいなと思っています。もちろんオリジナルの企画もやりたいですが、自分が気に入っている原作ものも映画にできればいいですね。樋口毅宏さんの『民宿雪国』は大好きな小説なので、なんとか映画化したいです。

──最後にもうひとつ訊かせてください。『岬の兄妹』を観て、「なぜ、この兄妹は福祉に救いを求めないんだ」と疑問に思う人もいるかもしれません。そのことはどう感じますか?

片山 そう思う人は多いと思います。でも、この映画の中では、2人には自分たちの力で生きていく道を見つけさせたかったんです。何でもかんでも社会のせいにしたり、役所に助けを求める主人公には、映画を観ている人たちは魅力を感じないと思うんです。脚本段階では、2人が役所に生活保護の申請を出すけど却下されるシーンや、役所の人が訪ねてきたのに2人は居留守するシーンとかも考えたんですが、それはちょっと違うなと。ケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』(16)という福祉問題を正面から扱ったとてもいい映画がありましたが、描くならあのくらいガッツリやらないとダメだと思うんです。

──犯罪ではあるものの売春でお金を稼ぐようになり、それまで社会から隔離されるように暮らしていた兄妹の家に明るい光が差し込む。あのシーンはとても印象的です。

片山 もちろん経済的な安定を手に入れたという喜びもあるんでしょうが、それ以上に自分たちの力で生きていける手段を見つけたという希望を感じたことが大きかったと思うんです。そんな2人の心情を視覚的に表現したいなと思ったシーンです。障害を持った兄妹を主人公にしていますが、情報弱者の不憫な家族として描いたつもりはありません。普遍的な物語として、みなさんに観ていただきたいですね。観た方の価値観を変えてしまうような映画になるといいなと思っています。
(取材・文=長野辰次)

『岬の兄妹』
監督・製作・プロデューサー・編集・脚本/片山慎三
出演/松浦祐也、和田光沙、北山雅康、中村祐太郎、岩谷健司、時任亜弓、ナガセケイ、松澤匠、芹澤興人、荒木次元、杉本安生、風祭ゆき
配給/プレシディオ R15+ 3月1日(金)よりイオンシネマ板橋、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9ほか全国順次公開
(c)SHINZO KATAYAMA
https://misaki-kyoudai.jp


●片山慎三(かたやま・しんぞう)

1981年生まれ、大阪府出身。中村幻児監督主催の映像塾を卒業後、オムニバス映画『TOKYO!』(08)のポン・ジュノ監督パート『シェイキング東京』や『母なる証明』(09)に助監督として参加。韓国から日本に戻り、山下敦弘監督の『マイ・バック・ページ』(11)、『苦役列車』(12)、『味園ユニバース』(15)などにも助監督として就いている。監督作として、本多奏多主演ドラマ『アカギ』第7話などがある。

このニュースに関するつぶやき

  • これは観に行くには少々重いなぁ……
    • イイネ!0
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  • 『万引家族』みたいに実は日本人ってこんなクズなんですよ〜!ってセンセーショナルな映画撮れば外国で評価されるだろうって魂胆がミエミエなんですが〜!?
    • イイネ!3
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