最終幕の主役は西村元貴に? 『まんぷく』で初めて描かれた父と子の物語

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2019年03月10日 06:11  リアルサウンド

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 朝ドラ『まんぷく』(NHK総合)の中で、福子(安藤サクラ)の父親については、鈴(松坂慶子)の口から折に触れて語られてきた。生前は会社を経営しており、鈴はそんな夫との生活で苦労を重ねてきたという。娘や孫たちには堅実な会社の勤め人と結婚してほしいと言い続ける理由は、鈴のそんな過去の経験によるものなのだ。


参考:西村元貴、小川紗良、上川周作、ハリー杉山、『まんぷく』最終章を盛り上げる新キャスト発表


 萬平(長谷川博己)が何か新しいことを始めようとするたびにあきれ返るのは、かつての夫とどこか重なるところがあるからなのだろう。もし福子の父親が生きていたら、どんな物語が生まれていたのだろうかと気になるところではある。同じく、萬平の父親についてもほぼ描かれることがなかったので、福子や萬平が自身の“父”という存在と関わることで生まれるドラマを観る機会がなかった。


 さて、今週の放送からは成人した源(西村元貴)と萬平の関係性が描かれ始めたわけであるが、これは残りの『まんぷく』における重要なテーマの1つとなりそうだ。もちろん、これまでの放送でも萬平とその子どもたち、あるいは、忠彦(要潤)とタカ(岸井ゆきの)たち娘の間のやり取りを描く場面はあり、父と子のシーンが全くなかったわけではない。ただ、今回の大人になった源のように、自分の今の立場と、萬平という存在を前に葛藤する子の姿が描かれることはあまりなかった。


 福子としては、源が萬平とプロジェクトに参加することに関しては喜んでいる様子。目標に向かって、地道に試行錯誤を繰り返していく姿からいろいろなことを吸収してほしいという思いもあるのだろう。それは神部(瀬戸康史)も同じのようで、彼もまた、「源を育てたいんです。育ってもらいたいんです。将来、まんぷく食品を担ってくれるような人間に」と言っていた。福子も神部も昔から萬平の発明に携わってきただけに、その魅力を少しでも源に知ってもらいたいはずだ。ただ、当の本人はどうやらそこまで乗り気ではない様子。家に帰ってきてからもキッチンでああだ、こうだ言いながら研究する気にはなれないようだ。


「天才なんや、父さんは。天才の考えることについていくやなんて僕には無理や」


 偉大な人物を親に持つとき、時にその子どもは大きな十字架を背負ってしまうことがある。自分もいつか親のようにならなくてはならないのか、あるいは親を超えなくてはならないのか? 考えれば考えるほど、自分を追い込んでしまう。


 ただ、福子も別に源にプレッシャーをかけようとはしていないはずだ。第一、そっくりそのまま萬平のような人間になることはとても困難なことである。福子としては、源には萬平の姿を見ながら、開発のやりがいや喜びを感じ取ってほしいという願いもあるのだろう。だから、とにかくまずは萬平の横で同じことをやってみることから始まるのではないか。ちょうど、忠彦の作品を弟子の名木(上川周作)が真似てみたように。


 もちろん、そっくりそのまま同じことをやっていては何も成長できない。まずは先達と同じ目線で、同じ物を見てそのノウハウを取り入れてみる。そして、そこから自分だけのやり方、価値観を手に入れることで人は物事を学んでいく。「僕には無理だ」と源は言う。しかし、自分らしく自分なりの情熱の注ぎ方を手に入れることは「無理」ではない。先ほども述べたように、完全に萬平になりきることなどできない。自分はあくまで自分なのであって、親になることがゴールなのではない。そのことに気づけたとき初めて源は、父親という存在を前にした困難を克服しうるはずだ。(國重駿平)


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