大橋ちっぽけ、ポピュラーミュージックへの挑戦「これが届く日本の音楽シーンであってほしい」

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2019年03月14日 13:01  リアルサウンド

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 大橋ちっぽけが、3月13日にメジャーデビューアルバム『ポピュラーの在り処』をリリースした。大橋ちっぽけは、1998年生まれ、愛媛県松山市出身のシンガーソングライター。UKロックやオルタナティブロックに影響を受け、インターネット上に歌唱動画の投稿を開始した。2017年春に上京し、本格的に音楽活動をスタート。同アルバムには、アプリ&PCゲーム『なむあみだ仏っ!-蓮台 UTENA-』挿入歌と、4月より放送されるアニメ『なむあみだ仏っ!-蓮台 UTENA-』(TOKYO MXほか)エンディングテーマに決定している「ルビー」を含む全10曲が収録されている。


 リアルサウンドでは、日本コロムビア内のレーベル<TRIAD>よりメジャーデビューを果たした大橋ちっぽけにインタビュー。今作の制作秘話をはじめ、自身の音楽ルーツや日本のポピュラーミュージックなどについてじっくりと語ってもらった。(編集部)


(関連:清 竜人が考える、今のJ-POPに必要なこと「世の中の流れを否定して、新しいものを作っていく」


■「前作は自分が中心で、まさに“僕の音楽”という感じだった」
ーーメジャーデビューアルバム『ポピュラーの在り処』は、独自のメロディやムード、サウンドのセンス、言葉の選び方など、大橋さんのいろいろな個性と持ち味が表現されている作品だと感じました。本作のインタビューは初めてですか?


大橋ちっぽけ(以下、大橋):ありがとうございます。初めてです。


ーー前作『僕と青』は16歳から19歳までに作られた5曲が収録されたミニアルバムでしたが、今作の10曲はいつくらいに制作したのでしょうか?


大橋:メジャーデビューアルバムを作るにあたって、書いた曲がほとんどです。全曲、2017年の上京後に書きました。


ーーアルバムを見据えて書いたのでしょうか?


大橋:そうですね。何かコンセプトをもってアルバムを作ったというよりは、自分が書きたいと思った曲をどんどん書いていく中で、ひとつの作品になったような感じです。(前作と比べると)感覚的な違いはあったと思います。まず締切があるというのが、大きかったです。うまく言葉では表わせないのですが、焦っている中で生まれてくるメロディや歌詞は、中高生時代に長い時間をかけてゆっくりとできていった曲とは、なんとなく違う気がします。


ーー確かに今作の楽曲からは、以前からのリズムの気持ち良さはありつつ、どこか切迫感や強さのようなものを感じました。特に「ルビー」は、このアルバムの中で核になっている楽曲だと思うのですが、完成したときの手応えなどはありましたか?


大橋:「ルビー」はタイアップのお話をいただいて書いた曲で、元々のテーマがあってそれに合わせた曲を書くというのは、今回が初めての経験だったので、すごく悩んだし、実際上手く行かないことも色々ありました。その中で周りに納得していただけるような曲を完成させられたのは、自分自身がすごく成長したように思えて嬉しかったです。


ーー「ルビー」はどのようなテーマがあったのでしょう。


大橋:広い愛というか……個人対個人の愛を超えたもっと大きな愛がテーマでした。そのテーマに沿うような形で歌詞をつけてから、曲を作っていきました。


ーーこれまで大橋さん個人の視点から曲を書くことが多かったと思うので、視野を広げるという意味では、ひとつのチャレンジだったのではないでしょうか。


大橋:前作は自分が中心で、まさに“僕の音楽”という感じだったんですが、今回はそこからひとつ別の視点が加わって、新しい作曲の仕方と言いますか、新たな挑戦ができた作品ですね。テーマを基に、自分が実際に感じたことじゃない言葉も歌に乗せた、フィクションな書き方もしたので、どんな歌になるのかを考えながら作るという、今までにない感覚でした。


ーー大橋さん自身も今作では、自分から生まれてくるものだけじゃない、“みんなの音楽”のような歌を作りたいという想いがあったのでしょうか?


大橋:そうですね。僕、性格的には暗いというか、ネガティブでマイナス思考なのですが、ポジティブな曲も歌いたいと思うときがあって。自分では、好きな音楽のジャンルは広い方だと思うので、もっといろいろな種類の楽曲を作りたいなと。じゃあ、そういうとき、自分の内面以外の部分でどうインスピレーションを受けて、曲を書いていけばいいんだろうかと考えていました。今作は、まさにそこの部分に取り組んだアルバムになったと思います。


ーー好きな音楽の幅が広いとのことですが、最も強く影響を受けているアーティストはいますか?


大橋:中学生の初期はボカロ曲ばかり聴いていて、その流れもあって、中学1年生の13歳のときに初めて動画共有サービス・ニコニコ動画に「ボカロ曲を歌ってみた」的な動画を投稿したのが、僕の音楽活動の第一歩でした。その頃は、日本のメジャーな音楽は聞いてなかったので、ほとんど知らなかったです。そこから徐々に弾き語りにも興味を持って、ギターを始めるのですが、秦 基博さんや清 竜人さんなどの曲を、ネット配信者がカバーしているのを聞いて原曲を聴くという感じで、いろいろな曲を知っていきました。そこから少しずつ海外の音楽も気になりだして、最近は海外のバンドをメインに聴いているので、そこから影響を受けている部分はあると思います。


ーー洋楽に興味が移っていったということですね。ちなみにボカロ曲が好きな最初の頃は、どういう曲を歌っていたのですか?


大橋:米津玄師さんが「ハチ」というボカロP名義で作られていた楽曲などを歌っていました。ただ、そのときもジャンル問わずと言いますか、気に入ったボカロ曲すべてに挑戦するようにしていて、古川本舗さんなどの曲もすごく好きで歌っていましたね。


■「弾き語りのイメージを取り払いたい」
ーーニコニコ動画に動画をアップして反応がくる喜びというのもあったのでは?


大橋:初めて投稿した次の日の朝に、パソコンを開いたら、10件もないくらいだったんですがコメントが来ていて、それがとても嬉しかったことを覚えています。自分が何かを発信してそれに反応があるという感動体験が、本格的に音楽活動を始めるきっかけになったのかなという気はしますね。


ーー16歳の頃にはオリジナル曲を作り始めますが、そこまでの経緯を教えてください。


大橋:プロではない身近な、ニコ生(ニコニコ生放送)やツイキャスなどの弾き語りの配信者たちが、オリジナル曲を書いているのを見て、刺激を受けました。僕は元々メロディを作るのがなんとなく好きで、ギターを始める前から頭の中で「こういうメロディがあったらめっちゃキャッチーだよな」って考えることも多かったんです。高校生のときに、ギターもある程度弾けるようになったから、今なら作詞作曲も出来るのかなと思って、取り組み始めました。


ーー最初の1曲って覚えてますか? それも配信したのでしょうか。


大橋:最後まで作り終わらない曲がいろいろある中、16歳のときに初めて完成させたのが「sixteen」という曲で、それは今でもネットにあがってます。


ーー自身の中で溜まって行く曲を何らかの形にしてみたい、メジャーリリースを含め、もう少し大きな展開で出してみたいと思い始めたのはいつ頃ですか?


大橋:高校3年生の18歳のときに、『未確認フェスティバル』という『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FM)が主催している10代限定の音楽の祭典があって、そこに自分の作った曲を興味半分で応募してみたんですよ。そのときはプロになりたいとか、そういうことはあまり考えたことがなかったんですが、3次審査(セミファイナル)まで行くことができて。僕は大阪会場だったんですが、初めて大きな会場で、音楽関係者の方々や音楽が好きなお客さんたちの前でライブをして、僕の音楽はちゃんと届く、受け入れてもらえるんだということを実感したんです。それまでにも地元・愛媛県松山市では1、2回くらいライブに出たことがあったんですが、地域の人たちが和気あいあいと音楽を楽しむ程度の小さいバーみたいなところだったので。『未確認フェスティバル』に出て、初めて「行けるところまでやってみたい」という想いが芽生えました。


ーーそして今回、念願のメジャーデビューを果たしたわけですね。今作では洋楽的なアレンジもいくつか見受けられますが、印象に残っている洋楽アーティストや作品は?


大橋:Galileo Galileiが海外アーティストの曲を日本語でカバーしていて、その中で知って好きになったバンドは、The 1975です。最初からスッと入ってきて、すぐにハマりました。作品ごとに色の違う曲を歌うバンドなので、聴いていてすごく楽しいし勉強にもなる、まさに憧れの音楽です。あとは、The Smiths。1980年代のバンドですが、耳なじみがよくてずっと聴いてます。全然キャッチーじゃないなと思う曲もあるんですが、一方ですごく心に響いて残る曲もあって、癖になりました。当時は、Galileo Galileiが影響を受けてきたアーティストの中にも、まだ僕にはわかんないなと思っていた洋楽もあったのですが、いまではその良さに気づくようになってきたので、聴く海外のバンドを少しずつまた増やしていってます。いまは、ジュリアン・ベイカーがすごく好きです。


ーーお話を聞いていて、大橋さんが手がけた今作とThe 1975の作風には重なるところがあるのかなと思いました。1曲1曲のアレンジが全く違う方法で打ち出されていて、たとえば「ダイバー」のように水の中に潜っていくようなダウナーな曲もあれば、「夢の中で」のようにR&Bテイストな曲もある。


大橋:僕は、弾き語りのイメージを取り払いたいなと思っていて。もちろん弾き語り系の音楽にも影響は受けてきたんですが、いま影響を受けているのはバンドや打ち込みのサウンドなので、僕もそういう方向でやっていきたいなと。自分が作って歌いたいと思う音楽が、どんどん変化していく中で、いまでは弾き語りベースでは考えられない曲になってきました。たとえば前作は弾き語りで作った曲が原型にあって、それをバンドアレンジするみたいな感じだったんですが、今作ではまずバンドや打ち込みで作った原曲があって、ライブでやるときにはそれを弾き語りにアレンジするという逆の発想になっています。今回はギターを使わずに打ち込みだけでデモを作ったものもあって、そうなると弾き語りのアーティストという風に見られるのは音楽性的にも違ってくるんじゃないかなと。だから、今作はフルで弾き語りの曲は1曲も入れてません。全部バンドや打ち込みでアレンジしています。前作は弾き語りの音源をそのままアレンジャーさんにアレンジしてもらう感じだったんですが、今作は自分で打ち込みを入れたりミキシングしたりして、一度アレンジを組んでからアレンジャーさんに渡して、アドバイスをいただきました。そういう意味では、前作以上に自分がやりたいアレンジの方向性に忠実なサウンドが完成したのかなと。


ーー歌詞の面でも今作では、個人のいろいろな想いを伝えるために歌うことから、自分じゃない誰かの物語を紡ぐような側面まで見えます。ちなみに「夢の中で」は自分に関する曲ですか?


大橋:「夢の中で」は、ほとんどフィクションですね。


ーーフィクション的な書き出しで始まりますもんね。この曲は、ドライブ中に聞きたくなるようなポップスとしても非常に素晴らしい曲だと思います。


大橋:ありがとうございます。僕も今作の中で「夢の中で」は、1番好きなくらい気に入ってます。この曲は、メロディが最初に出来て。メロディだけ聞いたらちょっと陽気な曲っぽい雰囲気なんですが、そこに悲しげな歌をつけてみたらどうなるんだろうと思って、“失恋”をテーマに歌詞を書いてみました。そしたら、カラ元気な感じが歌に出ていいなと、僕の中でぴたりとハマったんです。


ーー確かに、この曲からは、前向きな陽気さと後ろ向きなもの哀しさがミックスされているような感じを受けました。


大橋:歌い方の部分でも、明るさと悲しさをいい感じにミックスできたなと思っています。実は「夢の中で」の音源は、家で録ったデモをそのまま使用しました。全然いい機材ではないのですが、ボーカルとアコギは宅録したものをそのまま使った方がいいと思ったので。誰の目にも触れずにひとりで自宅で録ったので、気張りがなく、いい意味ですごくリラックスしていました。だから、独特の陽気感が歌にも出ているんじゃないかなと思います。


■「好きだと思う感情にストレートに向き合っていたい」
ーー大橋さんがこれからどんなアーティストになっていくのか、すごく興味があるんですが、自身としてはこんなスタイルで音楽を作っていきたいなと思う、参考にしたいアーティストはいますか?


大橋:そうですね……、清 竜人さん。中学生の終わりから高校1年生にかけてよく聴いていて、清さんのポップなものも作れるし、しっとりとしたバラードも、激しいロックも書けるみたいなスタイルがすごく憧れるなと。清さんって、作品ごとに全く違う音楽をやられてるじゃないですか。アニソンみたいな曲だったり、劇のような音楽だったり、アイドルをやったり。でも、何をやってもすごくいい曲だなって。ジャンルは全然違うんですけど、清さんが持つセンスみたいなものは共通していて、全部いいなって思うんですよ。そういう感じが、すごく憧れます。「いろんな曲を書くけど、全部いいよね」って言われるようなアーティストに僕もなりたいです。今作の収録曲のジャンルがバラバラなのは、そういう意識も反映されたからだと思います。


ーーなるほど。確かに清さんは見た目も楽曲もどんどん変化していって。


大橋:僕はそれも清さんらしいなと。自分の枠を決めつけさせないというか、可能性を広げ続ける自由さに憧れを抱きます。


ーー大橋さんも変化を厭わず、積極的に変わっていきたいと。


大橋:自分が好きだと思う感情に、いまはストレートに向き合っていたいです。「このアーティストはこういう曲をやる」みたいなイメージがあるアーティストもすごく素敵ですが、いまの僕は「こういうアーティストだ」、「こういう曲しか書かない」と自分で決めつけるよりも、気になったジャンルがあったらそれを書きたいし、いろいろな音楽に挑戦してみたいという欲求が強いんです。自分が興味あったり好きだったりするものに、ジャンルが違うからっていう理由だけで向き合わないのは勿体ないなって。いまは自分の感情に素直に書き続けていけたらなと思っています。


ーーいまは興味の対象は日本の音楽シーンにあるのでしょうか?


大橋:そうですね。今作は「日本のポピュラー音楽と呼ばれるジャンルの中心に届くようなアルバムにしたい」というテーマを意識して作ったので、タイトルを『ポピュラーの在り処』にしました。僕の意思を表示した作品でもあります。次のアルバムも同じくそこを狙って作るのかと言われたら、まだわからないのですが、作品を作るごとに、その瞬間に興味があるものに向き合って、作りたい曲をただひたすら作れたら、それが一番“いまの僕らしい音楽”になるのかなとは思っています。


ーー『ポピュラーの在り処』というタイトルには、そういう意味があったんですね。


大橋:僕が影響を受けた音楽の大半は、確かに洋楽なのですが、それ自体は日本の中心に届くものとは、また少し違うなと感じていて。そういう影響を受けながらも日本人に届くようなサウンドはどういうものなのかを常に考えて、意識しています。海外の音楽を昇華して、いわゆるJ-POPとして完成させることで、日本のポピュラーミュージックの中心に届くようなものになればいいなと。結果的に届かないこともあると思うんですが、いまはとにかく“届けたい”という強い意志があることだけでも示したい。このアルバムがどういう届き方や広がり方、聴かれ方をするのかで、僕が今後作っていく音楽のひとつの指標というか、考え方にも繋がっていくと思います。


ーー“日本のポピュラーミュージックの中心に”というのは、すごくいい志だと思います。ミュージシャンによっては、とにかく自分の好きなようにやれればそれでいいと言う人もいるわけで。その中であえてそれを宣言することは、とても新鮮に感じます。


大橋:大衆受けはしなくても、一つのジャンルを突き詰めていくアーティストはすごくカッコいいと思っています。そういう方たちにも憧れるんですが、僕はより多くの人に届く音楽を作っていきたいなと。まだ掴めてはいないのですが、日本人すべてに耳なじみがいいサウンドは絶対にあると思っていて。その中に洋楽のエッセンスや自分が好きなメロディを閉じ込めることで、「J-POPの王道なんだけど、今までにない曲」と思ってもらえるような音楽になるんじゃないかなと。僕はポピュラーの中心にチャレンジしたいんです。


ーーいまの大橋さんが考えた“ポピュラー”が、今作に収録された10曲だと。


大橋:そうですね。これが届く日本の音楽シーンであってほしいと思っています。


(取材=神谷弘一/構成=戸塚安友奈)


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