『後妻業』木村佳乃の話はすべて“嘘”だった? 真実が明かされない最終話に

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2019年03月20日 06:11  リアルサウンド

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 資産家の老人に近づき、遺産相続を狙う結婚詐欺“後妻業”。そんな後妻業のエース・武内小夜子(木村佳乃)を主人公に描いたドラマ『後妻業』(カンテレ・フジテレビ系)の最終話が3月19日に放送された。


 前話で小夜子は詐欺師だった舟山(中条きよし)に暴力を振るわれてしまった。部屋に駆けつけた柏木(高橋克典)がすぐさま舟山に報復するも、それがきっかけで暴力団員である舟山の息子・喜宜(松尾諭)に“後妻業”をネタに脅迫される。一方、本多(伊原剛志)は、小夜子と柏木が資産家の老人たちを始末してきた確固たる証拠を手に入れていた。小夜子たちを追い詰めようと息巻く本多。しかし朋美(木村多江)は、落ち込んでいた自分を励ましてくれた小夜子の顔が浮かび、素直に喜べない。


 結論から言うと、木村佳乃演じる小夜子が話してきた内容が真実かどうかは分からぬまま終わりを迎えた。敵対していたはずの本多や朋美を味方につけ、暴力団・舟山組からお金を奪うことでWIN-WINの関係となった演出に驚いた視聴者も少なくないはずだ。しかし木村佳乃が見せる豊かな表情によって、その結末には清々しさが生まれていた。


 本作で木村は思いきりのいい演技を見せていた。満面の笑みを見せたかと思えば、強烈な変顔を見せ、次の瞬間にはその表情に暗い影を落とす。資産家の老人に対しては、少々大げさな演技をしてみせるのだが、それがかえって孤独な老人たちの心を埋めているのではないかと思わせる。木村はその豊富な表情を小夜子が出会うすべての人に見せつけた。朋美も例外ではない。小夜子からの告白をすべて信じていないとはいえ、小夜子の話を聞いて彼女の味方についたのは事実だ。木村がさっぱりとした演技を見せれば見せるほど、小夜子の話す内容も老人たちの死の真相も見えなくなっていく。その演出が面白い。小夜子は男をたぶらかす天才なだけでなく、関わった人すべての心を掴んでしまう「化け物」なのだ。


 一方で「母親になれなかった」と話す小夜子が見せる、博司(葉山奨之)への思いにも注目だ。小夜子が実の母親だと感づいていた博司(葉山奨之)は小夜子のもとへやってくる。だが小夜子に「あんたなんか生むんやなかった」と言われ、博司は小夜子の首を締めてしまう。予告編で流れていたように、小夜子の死は衝撃的なものだった。だが実際には、機転を利かせた小夜子が死んだふりをしていたことが判明する。


 博司を演じる葉山は、母親に手をかけたことを後悔し、自分のやったことに怯える姿を好演した。葉山は、チンピラらしく振る舞いながらも実はビビりな博司をイキイキと演じていた。臆病な表情や状況が理解できずパニックになる演技からは、博司の人生経験の浅さや幼さが伝わる。


 そんな博司を、小夜子は一芝居打つことで守った。死んだふりをしながら博司の思いを聞いた小夜子は、舟山組への一件に巻き込んでしまった博司を逃がすため、柏木に協力を求める。もちろん小夜子の博司への思いは、博司が望む母親像とは違うものだろう。だが小夜子は「博司は困ったときに柏木に泣きつく」と分かっている。恐らく彼を逃がした後も、柏木を通じて見守り続けることができると確信していたのではないだろうか。


 最終話で彼女たち親子の関係がどうなったかは語られない。だが、困ったことがあれば博司は柏木に泣きつくはずだ。彼女たちなりに、親子としての関係を少しずつ築き上げていくのかもしれない。


 何が真実なのか明かされないまま最終話をむかえた『後妻業』。捉え方によって見方はガラリと変わることだろう。極端な話、第1話から第8話までの小夜子の話がすべて嘘だったという可能性も0ではない。しかし、木村佳乃がどこか憎めない小夜子を魅力たっぷりに演じたことで、視聴者も小夜子に魅了されてしまったのではないだろうか。視聴者をやきもきさせる最終話そのものが、“後妻業”のエース・小夜子による騙しのテクニックだったのかもしれない。(片山香帆)


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